軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

280 クルト商会 1

「状況は?」

「今までセイトス商店が買い入れていたこの街の特産品は、領内消費や近隣のお得意さん達の分を除いて、ほぼうちの勢力……ホークス商会、トレーダー商店、そして 遠くの街から仕入れに(レイコとカオルの) 来た、商家の娘(モブキャラ版) が買い占めたよ。

何せ、輸送費がゼロなんだから、買い取り価格で太刀打ちできるわけがないよ」

レイコの問いに恭ちゃんが答えた通り、それはもう、勝負にならない。

何せ、アイテムボックスと魔法やポーション、小型連絡艇とかを組み合わせた輸送手段は、馬車や護衛等の経費を必要とすることなく、一夜のうちに商品を王都へ届けることができるのだから。

その浮いた経費のごく一部を買い取り価格に上乗せすれば、それより安い価格でセイトス商店に売る者なんかいるはずがない。

……但しそのやり方だと、後で普通の輸送手段に戻した時に売り手側が値下げに応じないかも、という懸念はあるが、そこはまぁ、ホークス商会以外の者は、『まだ商売に不慣れな連中が、価格設定に失敗して大損した』ということにでもすればいいか。元々、売り手側も相場価格を知らないわけじゃないから、馬鹿のおかげで一時の大儲けができた、とでも考えてもらって……。

ホークス商会は、まあ、アレだ。

お得意さんに対する商品の供給を途切れさせるわけには行かないので、馬鹿達のおかげで大損覚悟の高値で仕入れざるを得なかった、ということにして……。

実際には、私達が格安で輸送を引き受けているので、損をすることはない。

王都での販売価格は、従来のままを維持する。この街での仕入れ値はともかく、王都での販売において相場価格をメチャクチャにするわけにはいかないからね。

セイトス商店の親玉、クルト商会が売っているのと同じ価格だけど、向こうはそもそも商品を入手できていないので、売りようがない。

そして、仕事が減って割を食う輸送業者や護衛のハンター、傭兵達には、何か別の商品を王都まで運ぶ仕事を発注するかな。ターヴォラス商会の王都支店宛てとかのを……。

輸送費用を引けば儲けは殆どない、普通の商人がわざわざ王都へ運ぼうなどとは考えない品であっても、ギリギリ赤字にはならないなら、問題ない。

なるべく、うちの都合で掻き回されて損をする者が出ないようにしなきゃね。

そして……。

* *

「セイトス商店は、ほぼ機能停止。

元々、ここの特産物を買い付けて王都の本店、クルト商会に送る以外の業務はほんの申し訳程度にしかやっていなかったから、それができなくなったら、9割近い仕事がなくなるからね。

そしてオマケに、手下のフリードに対する店の裏切り行為が街の人達の 憎悪(ヘイト) を集めて、その、残りの1割の仕事も壊滅状態。

売り上げはゼロ、店の維持費や光熱費、人件費とかの支出は必要。

若干の赤字、どころじゃなく、凄い速さで運転資金と言うか回転資金と言うか、とにかく商店にとっての血液とも言うべきお金がダダ漏れ状態。本店からの大量の資金調達がないと、あまり保たないだろうね。

そして本店からいくらお金を注ぎ込んだところで、状況が改善される見込みはゼロ。

本店にも情報は行っているだろうから、商会主が馬鹿でない限り、すぐに損切りを決断するはず。

……余程の馬鹿でなければ。そして……」

「「「馬鹿には、大店の商会主は務まらない!!」」」

うん、そういうことだ。

「ムーノさんと、王都支店には既に話は通してある。勿論、ホークス商会本店には支店から連絡済み。手紙は、私達が直接運んで届けたからね。

今夜、ターヴォラス商会とホークス商会の商品を運ぶよ。今回の輸送方法は……」

「私が運ぶよ。一応、この街の特産物だけじゃなく、この店の商品もあるからね。

それに、『サラエット』としての私は、王都の商業界で名を売らなきゃなんないから……」

確かに、恭ちゃんが言う通りだ。

じゃあ、今回は恭ちゃんに任せるか……。

「じゃ、お願いするね」

今回は恭ちゃんにお願いするけれど、輸送方法としては、別に搭載艇や小型連絡艇が必要だというわけじゃない。荷は全部アイテムボックスに入れて運ぶから、私かレイコがハングとバッドに乗って単騎で移動するか、魔法で、あるいは身体強化ポーションを使って移動してもいい。

……いや、出番が欲しくて堪らず、いつも愚痴を溢しているハングとバッドが、私達だけでの定期的な長距離移動を許してくれるとは思えないけどね。

まぁ、そりゃそうだよねぇ。私があの2頭の立場だったら、そんなの絶対に許さないよ。

レイコにも、ハングとバッドで移動するように言い含めておこう。

身体強化ポーションも身体強化魔法も、そして重力軽減魔法や追い風魔法とかも、別に馬を対象としては使えないというわけじゃないんだから……。

* *

「……どうなっておるのだ!」

王都にあるクルト商会本店で、商会主が番頭のひとりを怒鳴りつけていた。

「どうして僅かな間に利益がこんなに減るのだ!!」

どうしても何も、それは売り上げが減ったからに決まっている。

そしてそれくらいのことは、当然商会主にも分かっていた。馬鹿ではないし、毎日自分で帳簿を付けているのだから……。

「セイトス商店がヘマをしでかしたのは、まぁ、分かる。どんなことにも、思わぬ落とし穴や失敗はあるものだ。

だが、あの街でのセイトス商店の役割は、買い付けだ。

小売りであれば、信用と評判を失った店は大きく売り上げを落とす。それは当たり前だ。

しかし、買い付けであれば、現金取引ならば売り惜しむ者はいないだろうが! それが、どうして買い付けができないのだ!

……そして、なぜセイトス商店とは何の関係もない他の街でも買い付け量が減ったり、価格が上昇したりしているのだ!!」

……そう。

ルール違反をして儲けているなら、それが一箇所だけでやっていることとは思えない。

そう考えたカオル達は、あちこちの街に調査の手を伸ばしたり、王都本店の従業員のうち、お金に困っている者を買収したりして、クルト商会がセイトス商店のような偽装支店を出している街を調べ上げて、それぞれの街において、偽装支店が買い入れている主力商品に対して同じようなことを仕掛けたのであった。

勿論、それぞれの街に正規の支店を置いている商会の協力を得て……。

そう、どこの商会も、苦々しく思っていた相手を懲らしめることができるということ、そしてトレーダー商店がやられたことを知ると、 快(こころよ) く協力してくれたのである。

いくら『ムキになって騒ぐ程のことではない』として無視してはいても、やはり意趣返しができる機会があれば、一口乗るのも 吝(やぶさ) かでない、というところが大半であった。

普通であれば、そんなに早く各地に手を回せるはずがない。

しかしカオル達には、ある程度遠方の街であっても『夜に出掛け、向こうの街で丸々1日行動し、次の夜に戻ってくる』ということができた。それも、3人全員が……。

そして更に……。

「どうしてうちの主力商品まで売り上げが落ちているのだ!!」

そう、他の街にこっそりと支店モドキを出して買い入れている商品だけではなく、クルト商会の本来の主力商品の売り上げまでが低下していたのである。

大店は、様々な商品を扱う。

しかし、全ての大店が同じ商品ばかりを扱うわけではなく、それぞれの得意分野というか、『あの商会は、何々の品揃えがいい』、『得意分野は何々』というふうに、ある程度の専門分野というものを持っている。

売り上げ全体の中で占める割合は低くとも、それが店の特色であり、客寄せのための強力な武器なのである。

……もしその『得意分野』が他の店に荒らされ、『向こうの店の方が、安くていい品がたくさん揃っているよ』と言われれば……。

* *

「でも、まさか、選りに選って得意分野が海産物だとは……」

「あはは……」

クルト商会が扱っている、日保ちする 全乾品(カラカラ系) の干物や塩漬けだけでなく、うちが卸している『あまり日保ちしないやつ』、つまり 半乾品(生干し系) やら海藻類、貝とかも揃えているターヴォラス商会王都支店、ホークス商会本店とかの方が、海産物としての種類が遥かに豊富で、おまけに質が良くて美味しい。

価格は、今後のことを考えてあまり安くはしていないけれど、それでも全乾品はクルト商会よりは少し安い。

……別に無理をしているわけではなく、クルト商会が利潤率を高く設定しているだけだ。

なので、ずっとこの価格で売り続けることに問題はない。 リトルシルバー(うち) は、販売益だけでなく、輸送費分で大儲けだ。

そして半乾品は、輸送に時間がかかるクルト商会には王都で販売することは不可能である。

……生の魚?

いや、さすがにそれは、無理がある。

内陸部である王都でそんなものを売れば、怪しいにも程があるよ……。