軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

262 商会バトル 1

「何? ムーノ達が商会を設立した?」

ムーノ達が挨拶に訪れてから数日後。レリナス商会の商会長であるドレインは、番頭のひとりが知らせてきた情報に、軽く片眉を上げた。

「まあ、あの3人であれば、小さな商会を立ち上げることくらいはできるか。

うちで色々と教え込んでやったし、実務経験も充分、取引先には顔馴染みの者もいるであろう。

どこかに雇われるかと思っていたが、それはそれでいいだろう。

自分達で店を経営するとなれば、尚更 レリナス商会(うち) にたてつくことはできまい。おとなしくしているならば、少しは取引してやらんこともない。

経営状況が思わしくないようならば、知らせろ。少しくらいは助けてやろう。何せ、長年に亘り真面目に働いてくれた者達だからな。ローディリッヒのために割を食わせたが、別にムーノ達が悪いわけではない……」

元従業員に対する、慈愛の心。

ドレインは、優しい商会主としての自分の言葉に、少々酔っていた。

勿論、取引してやるとはいっても、別に価格的な優遇をしてやるつもりはない。

それどころか、少し買い叩いてやるつもりである。

それでも、向こうにも多少の利益が出るであろうし、商品が回ればひと息吐ける上、店としての知名度も上がり、互いのメリットとなる。それにレリナス商会と取引しているとなれば、円満退職でありレリナス商会側も悪くは思っていない、ということの証明となる。

ドレインは、決して善良な商人とは言えないが、自分に忠実な者にはそれなりに配慮してやっていた。

そしてクソ真面目で青臭い正義論を振りかざすムーノ達のことは、煙たくは思っていても、決して嫌っていたわけではなかった。

ただ煙たいだけであり、ムーノ達は自分達なりに店のためを考え、ドレインには忠誠心を持ってくれていることを知っていたからである。そしてそういう者も店にとっては必要であるということも理解していた。

なので、適材適所と、自分の側から遠ざけ、自分を裏切らない正直者が必要である遠隔地の支店長の座を任せたのである。

「はい、分かりました。

まあ、彼らであれば、独力で何とかやれるとは思いますが……」

この番頭も、支店を任されていたムーノ達のことは知っていたらしく、商会主のドレインが彼らを悪くは扱わないらしいと知り、笑みを浮かべていた。

辞めた者であっても、従業員のことを大切にしてくれる。

店の者達が、多少の悪いところはあってもドレインに忠誠を誓う理由のひとつである。

やはり、大店の商会主というのは、それなりに立派な人物であるらしい。

* *

「……何? ムーノ達の店がターヴォラスの商品を扱っているだと? レリナス商会(うち) にはあれから入荷がないというのにか?」

「はい。ローディリッヒ様からは、あれから何の御連絡もなく……。

お怪我や御病気等でないことは、同行しました者達が家族に宛てて出しましたプライベートな 文(ふみ) により判明しております」

「ぬう……。

ローディリッヒの奴が連絡を寄越さないのは、王都で広まっている噂の内ほんの2~3割でも本当であったならば、無理のないことだろう。

その場合、なんとか顔の立つ程度まで状況を改善してからでないと、とても報告など出来まいからな。

……しかし、ムーノのところがターヴォラスの商品を扱っているというのは、聞き捨てならん。

勤め先を辞して独立する場合、主人から御祝儀代わりにと渡された場合を除き、前職でのお得意先を自分の店に引っ張るのは、商人の世界では許されざる忘恩の行為。

しかもそれが前職場に大きな損害を与えているとなると、これはもう、我がレリナス商会に対する裏切り行為であろう。

ムーノの奴め、真面目で正直な者と思い引き立ててやったというのに、まさかそのようなことをするとは……。

おい、誰か、儂の使いとしてムーノの店へ行け!」

* *

「……そのようなことを言われましても……。

ここはターヴォラス商会の王都支店に過ぎず、私はただの雇われ支店長。そしてこの者は、同じくただの雇われ支店長補佐に過ぎませんので、そのようなお約束は致しかねます。

そういうお話は、本店の商会主様に言っていただかないと……」

「え?」

「それと、そもそも、当商会がレリナス商会ターヴォラス支店のお得意先を奪った、というのが、誤解です。

当商会は、設立資金の数割をターヴォラスの領主様が拠出されております。

つまり、この商会はターヴォラスの領主様のもの、と言えます。

そして貴商会のターヴォラス支店が仕入れておりましたターヴォラスの特産品は、王都へ廻す分として、領主様が地元の商会に廻す分と均等に割り振って卸してくださっていたものです。

そして今、領主様が王都で販売するための御自分の商会をお持ちになったというのに、わざわざ他の商会に商品を廻すとお思いになりますか? 利益が、その商会の王都にある本店に吸い取られ、自領には何も還元されないというのに……。

そう、うちは領主様と取引しているのではなく、うちが領主様の『王都に自領の商品を売るために設立した、自分の商会』なのですよ。

なので、顧客を奪った、というのは完全に的外れですし、どう説得しようが、領主様が他の商会に商品を廻すはずがないでしょう?」

「え……、えええええ!」

驚愕の事実を知り、愕然とする、レリナス商会からの使いの番頭。

そう、たとえ数割とはいえ、領主が自ら出資しているならば、その商会(の一部)は、自分のものだと言える。

支店長の言い方から、使いの番頭は、ターヴォラス商会のオーナーは領主様であり、ムーノはただの雇われ店長に過ぎないのだと誤解した。

……勿論、支店長がそう思われるように言葉を選んで説明した通りに……。

* *

「何だと!」

使いの番頭からの報告に、思わず怒鳴り声を上げてしまったドレイン。

「それでは、どうしようもないではないか……。いくらローディリッヒが頑張ろうが、もうターヴォラスの品は取り扱うことが出来ん。

もし多少の商品を手に入れられたとしても、領主直営の店と同じ価格で売っては今までのような儲けにはならんし、地元の店の支店があるのに、わざわざうちの店で買う者がいるとも思えん……」

そう、たとえ同じ価格であったとしても、地元に本店がある店、しかも領主直営の店の支店があるというのに、他の店で買う者がそうそういるとは思えなかった。信用度、安心感、そして商品の鮮度の問題とかで……。

直営店の商品が、他の店を経由したものより品質が落ちるはずがない、と考えるのが普通である。

「このタイミングで領主がそのような商会を設立したのは、偶然か? それとも、ローディリッヒの奴が何かやらかして領主の怒りを買い、うちの支店を切るために 急遽(きゅうきょ) 立ち上げた……、って、後者であろうなぁ、当然……」

ドレインは、がっくりと肩を落とした。

「もう、ターヴォラス支店は駄目か……。領主を敵に回し、うちの支店がなくても全く問題がないという状況にされては、どうしようもない。

調査の者を派遣して、噂が真実であるかどうかと現状を確認させて、もし駄目であれば、あの町からは撤収するしかないか……」

「旦那様、それでは……」

勿論、番頭が言わんとしていることは分かっている。

「ああ。ローディリッヒの大失態となり、後継者にすることがかなり難しくなるだろう。

だが、『難しくなる』というだけであって、決して不可能になったというわけではない。

損切りのタイミングを見逃せば、傷口はますます広がる。

商人としては、儲かっている時よりも損をしている時の判断力の方が大事なのだ……」

「ははっ、御教授、ありがとうございます!」

レリナス商会の商会主、ドレイン。

それなりに有能な男であった……。