作品タイトル不明
202 名推理
「……で、どうしてあのふたりが偽物だと思ったの?」
「はい、あんなの、一目瞭然です!」
さっきはちょっと口調が荒くなっていたけれど、既に完全にいつもの調子に戻っているミーネ。
うむむ、やるな、ミーネ……。
どうやら、思っていたよりしたたかで、遣り手らしい。
まぁ、『強くなければ、生きていけない』ってやつか。
……そして、『優しくなければ、生きていく資格がない』と……。
私達は、資格があるのかどうか……、って、 女神様(セレス) が許可してくれたんだから、あるに決まってるよね、この世界で生きていく資格が……。
レースに出られる(ムチャをやれる) 、A級ライセンス持ちだ。
……昔、『永久ライセンス』だと思っていたのは秘密だ。
この 資格(めんざいふ) で、この世界を駆け抜けて生きていく!!
……いや、まぁ、それは置いといて……。
「まず、服の破れ方が不自然でした。孤児は服を大事にするから、あんな無理矢理引き千切ったり刃物で切ったりしたような傷み方ではなく、すり切れたようになります。
そして、あんな、如何にも泥を付けて汚しました、というような汚れ方じゃなく、残飯の汁が染み込んで腐ったような、 饐(す) えた臭いがするもんです。それに、シラミの痒みで掻きむしった形跡のない、綺麗な髪。更に肌の状態が……」
「分かった、もういい! 納得した!!」
ミーネは孤児院にいたらしいから、浮浪児のような生活はしていなかったはずなのに……、って、馬鹿か、私は! 別に孤児院で生まれたというわけじゃないんだから、その前は別の暮らしをしていたに決まってるじゃん!
親を亡くしてそのまますぐに孤児院に入れた者もいれば、そうじゃなかった者もいるのは当たり前だ。出会った時のエミール達、『女神の眼』のみんながどんな生活をしていたかを忘れてどうするよ!
そしてミーネも、おそらく……。
「敵の潜入工作員を見事見破った功績、大手柄だよ、ミーネ、アラル! 大儀であった!!」
「「はいっ!」」
私達の役に立てたということで、ふたりとも嬉しそうだ。
うむうむ、手柄は褒めてあげないとね。あとで、何か褒美を考えておこう。
とりあえず、今日の夕食はミーネの調理実習ではなく、私が作ろう。大サービスで、食後のデザートにフルーツケーキでも付けるか……。
よし、あとはレイコが戻るのを待つばかり……。
* *
「……で、首尾は?」
「敵の正体を確認。黒幕は、私達が取引相手に選ばなかった商店のうちのひとつ。
あのふたりは丁稚奉公の子供達の中から選ばれた者で、失敗の報告を聞いた店主に殴り倒されてた」
不可視魔法(光線歪曲か、光線透過かは知らないけど)により、簡単に子供達を追跡、そしてその商店について入ったらしい。
武芸の達人とかがいれば、気配を察知して『むっ、 曲者(くせもの) !!』とかいうシーンが期待できたかもしれないけれど、中堅商家にそんな者はいない。
「ふぅん、そう……」
勿論、それは想定の範囲内だ。
「問題は……」
「「どう落とし前をつけさせるか!!」」
うん、義賊が店の倉庫を、なんてことをやっても意味がない。
『リトルシルバー』に手出しした者達が自業自得で、という、馬鹿の自滅ストーリーが広まらないと、宣伝効果……、いやいや、『抑止効果』が発生しないからね。
ならば……。
* *
「え? メルディス商会の 丁稚(じゅうぎょういん) が逃げ出して、『リトルシルバー』に逃げ込もうとした?」
「『リトルシルバー』は誠実で従業員を大切にするとは聞いていたけど、勤め先から逃げ出して元孤児院に逃げ込むたぁ、従業員にどんだけ酷い扱いをしてるんだよ、メルディス商会……」
「そして、『リトルシルバー』の経営者が逃げてきた丁稚を諭して店に戻らせ、『これ以上従業員を虐待しないように』って申し入れをして、商工ギルドにも『指導や教育の域を超えた、ただの苛めや憂さ晴らしの暴力、虐待、 搾取(さくしゅ) 等の禁止』を申し入れたらしいぞ」
「ああ、搾取って、住み込みの店員に住居代、食費、厠費、その他諸々を請求したり、指導料と称して給金の中抜きや貸し金として帳簿に載せたりするやつか……。あれは酷いよなぁ……」
「ああ。丁稚奉公の制度ってぇのは、そういうものじゃねぇよなぁ……」
「街中で、噂が広がっています。私達も色々と尋ねられたので、噂の内容は全て事実、と答えておきました」
「うむ、御苦労!」
街のお店に商品を届けに行っていたミーネとアラルが戻ってきて、そう報告してきた。
配達はゆっくりでいいから、できれば情報収集を、と命じておいたのだ。
そう、街で流れている噂は全部本当のことだ。……表向きは。
あの後、問題の商店の前に行って、店の前で大声で通達文を読み上げたんだよね。
店の者に通達文を手渡したって、何の意味もない。ゴミ箱に捨てられて終わり、だからね。
だから、店の前で大声で読み上げてやったわけだ。繰り返し、何度も。
すぐに顔を真っ赤にした店の者が飛び出してきたけれど、こっちは迷惑を受けた店の店主がわざわざ出向いてきたのだから、そっちも店主が出てきて謝罪するのが筋ではないか、と言って突っぱねた。
勿論、店主が出てきたりはしなかったけれど、充分騒ぎになって大勢の観客がいたから、こっちの目的は十二分に果たせたので、問題なし。
その後、商工ギルド(田舎町の商工会レベル)にも意見書を提出したし、めぼしい商店にも 顛末書(てんまつしょ) を配布しておいた。
……メルディス商会の面子、丸潰れである。
勿論、商店主達の中には、事実に気付いている者もかなりいるだろう。
自分のところの丁稚を孤児に仕立て上げて『リトルシルバー』に送り込み、干物の製法を……、って、本当はそんなささやかな稼ぎのタネではなく、裏稼業の方、香辛料の方を狙っていたんだろうけどね。
私達が選んだ3つの商店の従業員にカネでも掴ませたか、別ルートで情報を手に入れたのか……。
私達から香辛料を仕入れた店は、当然のことながらそれをどこかに売るわけだから、あの3店がどこからか格安で大量の香辛料を買っていることは大勢に知られることになる。だから、店の人達が私達との約束を守って出所を秘密にしてくれていても、そのうちどこかから仕入れ先が漏れるのは仕方ないことだった。
……というか、漏れて、それが大店や貴族の耳に入ることを期待しているわけだから、アレだ、『想定の範囲内だ』ってやつ……。
そして、中途半端な情報を掴んだものだから、香辛料の輸入ルートを奪えるとでも思ったのか、自分達が4店目のうちの取引店になろうとでも思ったのか……。
とにかく、メルディス商会が従業員を孤児に偽装させてうちに潜入させようとした、ということは情報に敏感な遣り手商人達の多くに知れ渡り、そして他の商人や一般の人達には、メルディス商会は従業員が逃げ出して他の事業主のところに助けを求めるくらい虐待している、という噂が広まったというわけだ。
……まぁ、その噂は私達が広めたものなんだけどね、色々なルートで。
お金とコネとハンターは、使ってナンボ、だ。
でも、メルディス商会はその噂を否定することができない。
ふたりの従業員がうちに保護を求めてきたということは事実だし、魔法で姿を消してついていったレイコによってそのふたりの名前も分かっているし、孤児のような恰好をして街からうちの方へ歩いているふたりの姿を目撃した人が何人もいる。……誰の眼にも触れずに街の中心部近くからうちまで歩けるわけがないからね、深夜にやってきたわけじゃないんだから。
……よし、これで、偽装孤児を送り込もうとする者はいなくなるだろう。
そもそも、うちは孤児院じゃないからね。れっきとした、営利企業だ。孤児が訪ねてきたからって、引き取るわけじゃない。
領主が慈善団体だと思って免税対象にした?
いや、それは領主が勝手に勘違いしただけだ。私は何も嘘は言っていないし、あの時に説明したことは全て、ちゃんと実行している。孤児だった身寄りも身元保証人もない子供を住まわせて、働かせて給料を払っている。それも、相場より好条件で。『孤児の生活を支援するための活動』は、ちゃんとやってるよ。
……ただ、ここは『孤児の支援を行う事業所』であって、『孤児院』じゃない。ただ、それだけのことだ。
ミーネとアラルは、『引き取った』わけじゃない。『雇った』んだ。
……まぁ、ミーネが以前ここに住んでいて、そしてアラルを助けて必死で帰ってきた、っていうことを考慮しなかったわけじゃないけどね。
生き延びるために必死で 足掻(あが) いている者と、ただ自分の不幸をネタにして施しを要求する者。
私が誰に何を与えるかは、私の勝手だ。
自分で決める。自分のお金の使い途も、自分の生き方も……。