軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

200 解 体

裏へ回って、解体用に用意しておいた場所へ。

ここには、水道も設置してある。……2メートルくらいの台を作って、その上に載せた大樽に水を入れて、ここや台所、風呂場とかにパイプを引いて蛇口を付けただけだけどね。

給水?

一応小川に、凄く華奢で軽く回る水車を作って、そこから樋を伝って流れ込むようにしてある。揚水量は少ないけれど、常時作動しているわけだから、ほんの少しずつの給水量でも充分だ。私達4人が使うだけだし、樽がデカいから。

そしてそれも、『見た目だけ』である。

樽が満水で 溢(あふ) れ、 溢(こぼ) れた水は排水路に流れているが、実際にはこれらの水が樽に入って使われることはない。樽が二重構造になっているのだ。

樽の『本当の貯水部分』の水量目盛りが一定以下になれば家の中の警告ランプが点灯するから、そうなると私の『限りなく水のようなポーション』か、レイコの水魔法で給水されるのである。

……当たり前だ。いくら浄水器を通すとはいえ、上流で下水をそのまま流されていたり、動物が水浴びをしていたりする川から分岐させた小川の水を飲むのは、心理的に、ちょっと辛い。いくら病気になってもポーションで治せるとは言っても……。

勿論、私達がいなくなったり、長期不在となる時には、レバーひとつで水車からの水が樽に流れ込むように切り替えられるけどね。

既に、ミーネとアラルの準備は万端である。ちゃんと解体作業用の服に着替えているし、包丁セットも並べてある。

解体を学ぶのは、ミーネとアラルだけである。

……私とレイコは、そんなの覚える必要はないよね?

将来それで食っていくというわけじゃないし、私達は、アイテムボックスを使えば皮剥ぎ、血抜き、内臓抜きとか、一瞬だ。これは、ミーネとアラルのための訓練であり、決して私とレイコのためのものじゃない。

「では、お願いします」

「「「「え?」」」」

あれ、どうしてぽかんとした顔をしているのかな、ハンターの皆さんは……。

「いや、解体を覚えるの、あんた達じゃなくて、この小さい子達なのか?」

あ、普通はそう思うか……。

「はい。私達は雇い主、この子達は雇われ従業員ですので……」

「……お、おぅ……」

そう、ここは孤児院じゃない。私とレイコは保母さんじゃないし、ミーネとアラルは庇護された孤児じゃない。ふたりは、自分の力で稼ぎ、生きていく一人前の社会人だ。やるべき仕事はやってもらう。授業料は 無料(ただ) だから、将来のためにしっかり学べばいい。それだけのことだ。

「じゃあ、まず手本を見せるから、よく見て……、って、何だよ、お前達が用意しているその道具は! 無茶苦茶切れそうな各種ナイフに、見たこともない道具。……そして、何だよその、細い筒から水が出てくるやつは……」

うん、道具はいいものを用意した。

「ちょっと貸してみろ。……うわ、何だよこの切れ味! 馬鹿野郎、刃物ってのはな、切れ味が悪いと力を入れなきゃならないから危ないけどよ、切れすぎても危ないんだよ! それに、皮を剥ぐのにこんなに切れ味がいいと、剥ぐ途中に皮を切っちまうだろうが! 物事、『程々』ってのが大事なんだよ、『程々』ってのがよ……」

ありゃ、礼儀正しいと思っていたのに、急にガラが悪く……、って、これは子供達のためを思って、叱ってくれてるのか。

「仕方ねぇ、今日は俺達のを貸してやる。おい、あんたら、後で刃物屋に行って、使い途を詳しく説明して見繕ってもらえ。こいつらを連れていって、ちゃんと体格や手の大きさ、握力とかも見てもらって、あとは店の親父に任せろ。ったく、もう……」

あ~、これ、私が創ったんだよねぇ。柄にポーションが入ってるの。うん、フランセットのために創った、あの神剣エクスグラムと同じ要領で。

勿論、単分子刃や超高速振動機能とかは付いていないけど。

それでも、切れ味がいいに越したことはないと思って、かなり切れ味を良くしたのが裏目に出たか……。

「やるぞ。よく見とけ。まず、頭を落とす。でないと、解体中に角が邪魔になるし、初心者はうっかり自分から刺さりにいったりするからな。切る部分に注意を向けすぎて、台に身体を寄せた時に腹にぐさり、って馬鹿がたまにいる」

なる程。そりゃ、最初に頭を落としておくべきだ。納得!

それに、角は色々と用途があるらしいし。

ま、私達が同じ用途に使っても稼げないだろうから、そっちは 先達(せんだつ) にお任せして、私達は別の利用法を模索しよう。

「そして、ここに刃を当てて、思い切り良く、一気に……」

そして、皮を剥いで、内臓を取り出して、肉をバラしてゆくハンター。

「今回は、『手付かずの状態で納入すること』って条件だから丸ごと持ち帰ったけど、普通は現場で血抜きして内臓を抜いて、泉や小川があればそこで肉を冷やす。そうしないと、 保(も) ちが悪くなるし味が落ちるからな。

あ、血抜きだけは現場でやっといたからな。そうしないと、肉の価値が落ちちまうから……」

「ああ、それは構いません。血抜きは、やり方だけ模擬して教えていただければ……」

うん、実物を指し示して口頭で説明してもらえば充分だろう。それに、血抜きは現場でやっておくように、と依頼票に書いておいたのだから、問題ない。

そして、もう一匹を解体してみせたハンターが、手にしていたナイフをミーネに差し出した。

「ほれ、やってみな」

「え……」

固まる、ミーネ。

しかし、ミーネは覚悟を決めた少女だ。自分の力で生きていく、と。そして、アラルを守って生きていく、と……。

がしっ!

そしてミーネは、差し出された、自分の手には少々大きすぎるナイフをしっかりと握り締め、台の上に載せられた3匹目の角ウサギに立ち向かった。

* *

4匹を捌いた時点で、ミーネの集中力が切れた。

そのため、残りの2匹はハンターに捌いてもらい、今日の解体訓練は終了。

訓練はミーネしか受けていないけれど、見学していたアラルにはミーネから教えさせるから問題ない。

しかし……。

「実際に解体方法を教えてくれたのはひとりだけなのに、報酬はやはり4人分払わなきゃなんないんでしょうねぇ、やっぱり……」

私の言葉に、少し慌てたような様子の、『ただ突っ立っていただけの3人』。

いや、ただの冗談だよ、勿論。4人掛かりで教えられたら、ミーネの頭がパンクしちゃう。

それに、あくまでも『依頼を受けてくれたのは、4人パーティ』なんだからね。ひとりで8匹もの角ウサギを狩るのは無理だろう。

私が『冗談、冗談!』と言うと、ハンター達は苦笑していた。

いや、いくら小娘でも、常識ぐらい 弁(わきま) えてるよ……。

今回の依頼、この人達にとってはどれくらいの価値があったのかな……。

角ウサギの価格は、ギルドの買い取り窓口に売れば銀貨2枚くらいらしい。それを、うちでは銀貨3枚。おまけに、依頼をこなせばギルドにうちからの手数料が入るから、ギルドへの貢献になって功績ポイントとかが付くらしい。そりゃ、常時依頼とかでギルドに売るより、うちの依頼扱いにするわなぁ……。

うちとしても、皮や角が手に入るから、何かに使えないか研究できるし。

街の商店だと、肉屋では肉しか売ってないんだ。角や毛皮は、それ用の業者が全部買い取るんだってさ。

1匹あたり銀貨3枚で、8匹で24枚。2万4千円くらいか……。成人男性4人の1日の稼ぎとしては、ちょっとショボいな……。

でも、多分、ゴブリンやコボルトとかの、うちの買い取り対象外のやつの討伐報酬とか、ついでに探した薬草や山菜とかによる収入もあるのかも。

それに、今回は小物ばかりでも、数日に1回鹿や猪とかを狩れれば、平均した稼ぎとしてはまぁまぁなのかも。自炊すれば結構安上がりだし。

それに、今回は解体方法のレクチャー報酬が別に出るから、今日はいい稼ぎになった方かもしれないな。

「……なぁ、臓物はどうする?」

「え?」

「いや、臓物を捨てるなら、貰えないかと思ってさ。俺達貧乏だから、 臓物(モツ) 鍋とか、結構ご馳走なんだよな、普通の奴らは捨てるけどさ……」

ああ、なる程。しかし……。

「ちょっと前まで孤児だった子達の前で、『俺達貧乏だから』とか言いますか……」

「「「「あ……」」」」

ちょっと気まずそうな顔の、ハンター達。

いや、別に意地悪を言ったつもりはないんだけどさ……。

「今回は、内臓の料理法も仕込もうと思ってるんだけど……。ん~……」

そうだなぁ……、ま、初めての依頼受注者だし、サービスするか……。

「料理は私達が作るから、夕食、食べていきませんか? 勿論、内臓料理だけでなく、他の料理も出しますよ」

「「「「マジか!!」」」」

オーク狩りができるようになるまでの、ハンターとして一番苦しい時期なんだろう。少しくらい、いい目を見せてあげてもいいだろう。