軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

195 野 望 2

「まずは、異世界内政チートの定番、塩と砂糖と香辛料! これは、能力で造るよ。

小麦粉やトウモロコシ等の、ここでも普通に出回っている、 嵩張(かさば) るものは能力で造ると出所や輸送手段等を追及されるとアレだけど、少量で簡単に運べるものならどうとでも誤魔化せるからね」

「……砂糖は、現物は避けて、甘いお菓子、嗜好品で行った方がいいのでは? 加工済みのやつで。

砂糖そのものだと入手経路を知ろうとして集ってくる者が多いだろうから、砂糖を少量使って作ったお菓子、という形の方が、『仕入れルートを寄越せ』とかいうのが湧きにくくなるんじゃないの? それだと、お金になるのは『物資』じゃなくて『技術』だから」

私の内政チート案に、そんなことを言い出したレイコ。

「なるほど……」

「塩は、うちで料理や加工品とかに使う分だけにしましょ。権利関係がガチガチっぽいし、うちの加工品に使うだけならばともかく、売りに出せば絶対に揉めそう……。

それと、カオルのポーションで『無から出す』というのは自然の 理(ことわり) に反するから、使わずに済む時は使わない方がいいわよ。塩は海水から抽出しましょう」

「え? でも、レイコの魔法で一気に大量の海水を蒸発させると、塩化マグネシウムがそのまま残ったり、多量の水分を含んだ温かい空気が上昇気流となって、局地的な天候の急変を……」

「収納で分離しましょう」

「なるほど……」

「香辛料は、高価でごく少量のみ、よね。こんなの大量に扱えば、悪党ホイホイだし……。

あくまでも、商家や貴族を釣る餌としてのみ使いましょう。普通に出回らせると、他領の領主、王都の貴族、他国の商人、その他広範囲から色々と集まってきて、収拾がつかなくなっちゃうわよ」

「なるほど……」

「この辺りにはない、原料も価値も不明なもので、普及しても問題がなく、美味しい料理が増えると私達も嬉しいもの。……つまり、醤油、味噌の類いはどう? 地下で仕込めばいいし、ちょっと他の者には真似できないだろうし、こんなわけ分からないものを狙う者もいないでしょうし……。

勿論、製法はちゃんと覚えてきてるわよ。最初の麹は、カオルに出してもらわなきゃならないけどね。カオルの能力のバックがセレス様なら、麹くらい地球から調達してくれるでしょ」

「なるほど……」

いかん、さっきから私、『なるほど』としか言っていない! 便利過ぎるぞ、レイコ!

ここは、私もアイディアを出さないと……。

そうだ、異世界生産チートの定番と言えば、これだろう!

「あの、マヨネーズ……」

「マヨネーズは、卵が怖いからダメ。現代日本以外の卵は、基本的に加熱せずに生で食べちゃダメだよ。サルモネラ菌が大量に付着している確率が高いからね。あれは、卵を生で食べてもまず大丈夫、という日本が異常なだけだから。

それに、殺菌密封技術も冷蔵庫もない世界だと、あっという間に傷むでしょ。高価だからちびちび使って消費期限オーバーとか、衛生観念が弱いとか、色々とあるし……。

私達はいいけれど、買ってくれたお客さん達に食中毒が多発したら、ちょっとマズいかもしれないでしょ」

なるほど……、って、そりゃ、『ちょっとマズいかも』じゃ済まないだろ……。

くそ、鉄板の『マヨネーズ無双』がダメだとは……。

「日本酒……」

「造るの、どれだけ大変で技術と設備が必要だと思ってるのよ……。

それに、もし必要な物が全部揃っていても、どうせ失敗するわよ。腐らせたりして……。

カオルの能力で少しだけ造るならともかく、自力生産は不可能よ。他所からこっそり運んだことにするには、重すぎるし容器が脆弱すぎ」

くそ。まぁ、自分達用に、ポーションとして少し造ろう。

いいんだよ、前世では既に22歳になっていたし、ここでは成人年齢は15歳だし、私は15歳の身体で転生してから既に5年……いやいや、80年近く……いやいやいやいや!!

とにかく、私はもう立派な成人だし、そもそもここでは飲酒年齢の制限なんかない。

「梅酒!」

「ブランデーで造るのはいいかもね」

おお、やっと採用された!

「とりあえず、眼の色変えて 形振(なりふ) り構わず奪い合い、とか、入手ルートを奪うためには殺人も 厭(いと) わない、とかいうヤバめのは無しで、そこそこ中堅商家に相手して貰えそうなものを用意しましょ。香辛料は、種類を少し多めにして、それぞれの量は少なくして。

そして、ある程度の信用を得て、大店や貴族に紹介してもらえるくらいになれば……」

「「必殺技を出す!!」」

そう、その段階で、強力な商品を出すのだ。

「じゃ、そういうことで!」

うむ、とりあえず、それでいこう。

* *

「え? あ、しばらくお待ちください!」

うむ、今日はレイコとふたりで、販路開拓だ。

ミーネとアラルは、家でハング達の世話と畑仕事。今日の取引先新規開拓は『裏稼業』の方だし、営業はあの二人にはまだ早い。

そして、『売り物』のサンプルを持ってやってきた、この街の中堅商会。

普通であれば、この大陸の人達からは12~13歳くらいの未成年に見える私達が飛び込み営業に来ても適当にあしらわれるだろうけど、既に色々なことで リトルシルバー(うち) はある程度名が知られているから……いい意味でか悪い意味でかは知らないけれど……、私達の相手をしてくれた人は、自分の判断で追い返すのを躊躇ったらしい。

……うん、ちょっかい出してくれた商人様々だな。

そして呼ばれてきた上の人は、最悪の事態を恐れたのか、私達を奥の商談用の部屋へと通してくれた。……特別扱いだな。いや、別に嬉しくはないけどね。

「……で、商品をお売りになりたいと? しかし、うちでは仕入れは大量に行っておりますから、僅かな量の野菜とかを持ち込まれましても……。

もっと小さな商店か、小売りの八百屋へ持ち込むとか、あるいは市場で自分達の手で露天売りとかをなさった方がいいのでは……」

私達を相手してくれている手代か番頭と思われる人が、そう勧めてきた。

別に、私達を追い払うために適当にあしらっているというわけじゃないのだろう。この人なりに、現実を踏まえて、私達のためにきちんと教えてくれているのだろう、おそらく。

私達が売るのが今回限りなら、少量であっても買い取ってくれたかもしれない。でも、これから先もずっと商売を続けたいなら、ちゃんとそれに適した売り先を最初から確保した方がいい。そう考えて、最適と思われることを勧めてくれているのだろう。

そうでなければ、わざわざ奥の部屋へ通してそれなりの人が相手してくれるはずがない。

……でも、それは、この人が私達の売り物が『孤児院で子供達が作ったごく少量の野菜か、自分達で釣った数匹の魚』だと思っているからだ。

なので……。

「売りたいのは、こういうものなんですけど。うちの領地……実家から送られてくる……」

そう言って、バッグから 見本品(サンプル) を入れた小瓶を取り出して、テーブルの上に並べた。

……非常に精巧なガラス瓶に入れられた、稀少な香辛料の数々を。

胡椒、サフラン、シナモン、ナツメグ、カルダモン、クローブ……。

そう、人間を始めとして、地球と同じ生物が生息しているのだから、当然、それらの植物もあって当然である。そして勿論、このあたりでは非常に高価な品々である。

「…………」

目を皿のようにして、テーブルの上の小瓶を見詰める商人。

……勿論、私がわざと口を滑らせた『うちの領地』という言葉を聞き漏らすような商人はいないだろう。

そう、そのひと言で、私達の身分と立場、そしてこれらの品が『私達だから入手できる』ということがはっきりと伝わったはずだ。……つまり、入手ルートに他者が割り込むことも、奪うことも絶対に不可能、私達を排除すればルートそのものが消滅する、ってことが……。

そもそも、私達に危害を加えた時点で、『現在も繋がりがあり、そして支援してくれている実家の者たち』がどういう態度に出るか……。

12~13歳くらいの可愛い……そうだよ、『可愛い』だよ!……娘達に危害を加えられた、実家の者たちが……。

うん、おかしな真似をされる確率は、かなり低いだろうな。

これらは、全て『セレス工房(ポーション作製能力)』謹製。

仕方ないのだ! 普通の手段で、ここで私達がこんなものを入手できるはずがないのだから。

もし手に入れられたとしても、それはこの店が売るくらいの価格で、だから、何の意味もない。

まぁ、香辛料は『子供達に手に職をつけられるように』とか、それで稼ごうというためのものじゃなく、大商人や貴族に伝手を繋げるための道具に過ぎないから、 私的(わたしてき) に許容範囲内!

さて、この商人は、どう出るかな?

ま、いい返事が得られなければ、他の店へ行くだけなんだけどね。