軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184 港町ターヴォラス 1

取った宿は、ごく普通のところ。

そう、1階が受付と食堂兼酒場、奥が経営者一家の居住部で、2階と3階が客室になっているやつだ。

経営者一家の居住部が狭いような気もするけれど、考えてみれば、台所、トイレ、その他の設備は客用のを使えばいいのだから、家族専用区画は狭くてもいいのかも。

今回、いつものように安全重視でちょっといい宿屋にしなかったのは、勿論、この街の治安というか民度というか、普通の宿屋での状況を確認するためだ。

住み着く街が、治安の悪い街だったり、問題を抱えた街だったりすると嫌だもんねぇ。犯罪組織が牛耳っているとか、チンピラが幅を利かせているとか、領主が悪党だとか……。

なので、金回りの良い者しか泊まらない宿ではなく、ごく普通のところにしたわけだ。

……さすがに、女の子ふたりで下級の宿に泊まるような蛮勇はない。

いくら私のポーション作製能力やレイコの魔法で何とかできるとはいっても、それを他の者に見られたら、即座に国外へ脱出しなきゃならないからねぇ。

面倒事は御免だよ。

そういうわけで、ごく普通の宿の、ごく普通の二人部屋を取った。

部屋は3階。トイレは1階にしかないから、いちいち 上(のぼ) り 下(お) りするのは面倒だけど、1階は酒場兼用だから、夜にうるさいからと気を利かせて3階にしてくれたのだろうから、文句はない。そんなにしょっちゅうトイレに行くわけじゃないし。

「じゃ、一週間くらいあちこち廻って、街の様子と 住処(すみか) の候補を探そうか」

「うん。それによって、仕事の方もね」

そう、実は、まだどんな仕事をするかは決めていない。

住む街や場所に合わせて、そこに適した、私達にできる、そして人々の役に立てる仕事をしたいと思って、そこは保留にしてあるんだ。

勿論、重労働や時間的に縛られるのはパス。

お金に困っていないのに、仕事に縛られて人生を使い潰すのは嫌だ。

あ、私達は人生の時間的には『かなりの余裕がある』けれど、だからといって、不本意な生活をしてもいいってわけじゃない。

お店は、店番で時間的に縛られるから嫌。

事前の準備(仕込み)に手間が掛かるのも嫌。

金持ちや権力者、その他に眼を付けられるのはパス。

忙しいのや慌ただしいの、取引相手だの何だのと 煩(わずら) わしい人間関係をこなさなきゃならないのも嫌。

せっかくだから、チート能力を使って楽に稼ぎ……、いやいや、人の役に立ちたい。

ま、そういうわけで、この街に腰を落ち着けるかどうかと、どんな暮らし方をするかは、今からの情報収集の結果次第だ。

情報を制する者は世界を制す、と言うじゃない。

* *

そして、6日後。

「大体、調べ終わったね……」

「うん。余所者の平民が簡単に調べられる程度だけど、街の雰囲気や治安の程度、住民のモラルや為政者の方針とかを判断するには充分なだけの情報は手に入ったと思う」

私の言葉に、そう言って肯定の言葉を返したレイコ。

そして……。

「「合格!!」」

うん、この辺りの領主様である伯爵は、貴族としての権利だけではなく、ちゃんと義務も弁えたまともな人物らしかった。そのため、街の治安もしっかりしている。

……あくまでも、こういう世界としては、ってことだけど。

国王もまともらしく、……というか、国王がまともだから、まともな貴族が領主をやっているのかな?

ま、ともかく、国もここの領主も、そして街もまともだということだ。

他の街、他の国へ行っても、ここと同程度のところはあっても、ここよりずっと良い場所があるという確率は、そう高くないだろう。ならば、大外れを引く危険を冒してまで旅を続ける理由はない。

「よし、この街に住もう!」

「賛成。外れだったら、その時に移動すればいいんだからね」

こうして、私達はこの港町、ターヴォラスに住むことにした。

* *

郊外に、家を買った。

……いや、ちょっと唐突だったか……。

街の中心部は、建物がみっちりと詰まっていて、店舗だったり作業場だったり住居だったりと、それぞれ使われている。

そりゃ、空いてるところも無くはないけど、賃貸だったり、広さや設備、場所や価格とかが折り合わなかったり、私達の姿を見ただけで不動産屋に追い払われたり……。

ま、私達のこの見た目じゃ、冷やかしか子供の悪ふざけと思われても仕方ないか。

ここを買う時には、バッグから金貨が入った革袋をドンと出したから、問題なかったけどね。

最初から出せ?

買うかどうかも、そして相手がまともな商人かどうかも分からないのに、物件も見ずに最初から金貨が詰まった袋なんか出して、どうするよ……。

詐欺師や犯罪者ホイホイにしかならないよ、そんなの。

考えてみれば、以前『レイエットのアトリエ』や『便利な店 ベル』の店舗を借りた時は、ロランドがいたからなぁ。それなりに、少しは役立ってくれていたんだなぁ、ロランドも……。

それが、今じゃ未成年(に見える)の小娘ふたり、だからなぁ。

ま、そういうわけで、最初は不動産屋を廻って物件の紹介をしてもらおうとしたんだけど、それは不首尾に終わった。

そして、次にやったのは、自分達で気に入った空き物件を探して、そのあたりの相場を調べてから、その物件を扱っている不動産屋を調べて話をしに行く、って方法だ。

それで、街中を調べて廻ったんだけど……。

まず、あまりにも狭いのはパス。

あまりお金に困っていないのに、いくら親友同士だとはいえ、プライバシーも保てないようなのは嫌だ。

そして、水回り(台所、バス・トイレ、排水等)が充実していること。

外から室内が覗かれないこと。

近くに騒音、悪臭、治安悪化を招くもの等がないこと。

いや、鍛冶屋の隣とか、酒場の隣とかは、朝早くから夜遅くまでうるさそうだからね。睡眠不足やイライラは、お肌に悪いからね、うん。

更に、最も重要なのが、『秘密が守られる』ってことだ。

お隣のおばさんが、ノックもせずに『煮物が余ったから、お裾分けだよ』とか言って勝手に入ってくるようなことが常識である区域には住むわけにはいかない。我が家には、色々と便利なものを設置するつもりなのだから……。

そして見つけた物件が、これだ。

元、孤児院。

現、空き家。

海辺の、海面から20メートルちょいの崖の上に建てられた、別にボロボロというわけでもない平屋の建物。

平屋とはいっても、そこそこの広さはある。こんな場所だから土地は余りまくっているのに、建てるのに技術が必要で、屋根の修理とかがかなり危険な2階建てにしなきゃならない理由がない。雨漏りの修理とかは、多分住人が自分達でやるのだろうから……。

おまけに、元は孤児院だったのだから、何をするか分からないやんちゃな子供達を大勢住まわせるなら、事故が起きる確率を少しでも減らすために平屋にするのは論理的だ。

この物件は部屋数が多く、色々な広さの部屋があるから、それぞれ用途別に使えそうで面白い、と思ったんだ。

そう、普通の民家程度の広さで、私達の本拠地が務まるわけがない。

そして、本拠地の真価は、地上部分ではなく、地下にある。だから、郊外に建っていて、平屋で敷地面積が広いと便利なのだ。建坪が30坪の街中の家の地下に秘密基地を建設するのは、ちょっと無理があるから……。

また、価格がとても安かった。

そりゃ、街の中心部から少し離れた海辺の崖っぷちで、こんな特殊な造りの元孤児院なんて、買う奴はいないよねぇ……。

そういうわけで、 現金(キャッシュ) でさっくりとお買い上げ。

これで、業者を入れて補修を頼んで、その後、地下室を作って魔改造だ。

地下室はどうやって作るか?

アイテムボックスとレイコの魔法で、何とかなるなる!