軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174 長いお別れ(ロング・グッドバイ)3

私は、以前の事件で知った薬の知識を活用して、この薬種屋で『 只者(ただもの) ではない!』と思わせるべく、ハッタリをかまそうとした。……普通の店には置いてないであろう、稀少で高価な素材、しかも調合できる者が非常に少ないという、あの『長命丹』を作るのに必要な基幹素材である、その3つの名を出すことによって。

そして、その結果……。

全部、あるんかいっっ!!

……はぁはぁはぁ……。

いや、考えてみれば、あれから70年以上経っているんだ、技術が進歩して、稀少薬草の栽培ができるようになっていたり、現代日本における高麗人参のような立場になっていたりするのかもしれない。

……いかん。

昭和から平成にかけての70年はすごく変化したけれど、原始時代の70年なんか、何も変わったりしないだろう。だから、この世界での70年も、文明レベルはそんなに変わっていないと思っていたんだ。それなのに……。

いやいや、それにしては、さっき提示された金額は昔と大して変わらなかった。

ということは、薬や素材の価値は昔と殆ど変わっていないということに……。

おそらく、この店が異常に品揃えの良い店なのか、時期的にその3種類の薬草が採取される季節なのか、私のポーションが失われたため長命丹が大人気となっているのか……。

とにかく、この店には長命丹の主要原料であるあの3品が揃っており、値段は昔と同じく馬鹿高く、そして私は、それがあるかと聞いてしまった……。

いや、あるかどうか聞いただけで、まだ『買う』とは言っていない! セーフ! セエェ~フ!

はぁはぁ……。

「……」

黙り込んだ私を、 胡散(うさん) 臭(くさ) げに見る、店番の老人。

「…………」

うう、気まずい……。

「………………」

うあああああぁっ!

「……まぁ、高価な品だし、それを必要としている、ということが対立している相手に露見するとマズい、ということもありますからね。ちょっと、奥でお話を伺いましょうか。

お~い、ちょっと、店番代わっておくれ~!」

あああああ、ますます泥沼にっ!

……まぁ、奥で色々と話を聞いて、そんなに高くない薬をいくつか買って退散するか。

薬。

選りに選って、私達にとって、一番不要な品……。

これじゃ、まだ、土産物屋の煎餅とかの方が、ずっとマシだったよ!

そういうわけで、奥の小部屋へと案内されて、お茶と茶菓子が出され、女性店員が去った後。

「……で、どういうことですかな?」

あれ? 怒っている? 何だか、かなり不機嫌そう……。

買いもしない高価な品のことを聞いたものだから、冷やかしだと思って、怒っている?

いや、でも、高価な品を買うのを躊躇うとか、普通にあるよね? それを、経験豊富な年配の店員が、いちいちそんなに感情を 露(あら) わにするものなの?

日本とは違うのかなぁ、そういうところ……。

「どういうことか、って聞いているのですよ! どうして……、どうしてこんなに遅いんですか、カオル様……、う、うぁ、うあああああぁ~~!!」

飛びついてきて、ぎゅっと自分を抱き締めて泣きじゃくる老人に、呆然として、突き放すこともできずに、私はただ立ち尽くしていた……。

そして、ふと気が付いて、小さな声を絞り出した。

「……エミー、ル……?」

その老人には、何となく、懐かしい少年の面影があるような気がした。

いや、懐かしいとは言っても、私にとっては、ほんの数日前のことなんだけどね……。

でも……。

「ごめん……。ごめんね……」

謝るしかない。

そして、泣くしかない。

私にとっては、認識する間もない一瞬のことであっても。

それは、この子達にとっては、どんなに長い日々だったことか。

人の一生。

その殆どを、私を待ってすごしたのか。自分の人生を……。

「いや、ベルと結婚して、子や孫、ひ孫、 玄孫(やしゃご) までいて、商売で儲けまくって、悠々自適の生活ですけどね」

「何じゃ、そりゃああぁ~~!!」

* *

ようやく落ち着いたらしい、老人……、エミールに、あれからのことを色々と聞いた。

相手がエミールなら、何でも遠慮なく聞けるし、私が知りたいことは概ね何でも知っているだろう。あのエミールが、全ての事情を調査していないはずがない。何せ、調べる時間は充分にあっただろうから。……そう、70年以上も。

あ、『遅い』と散々文句を言われた件に関しては、『私にとっては、ほんの数日間しか経っていない』ということで、切り抜けた。……何も、嘘は吐いていない。

エミールは、『くそっ、神界との時の流れの違いか、何万年も生きる神々との感覚の違いか……』とかぶつぶつと呟いていたが、どうやら一応は納得してくれた模様。うむうむ。

そして……。

「え? ベルを始め、元々の『女神の眼』7人中、5人が健在? レイエットちゃんもフランセットも、まだ生きてるって?」

「うん。ウォリーは馬車の事故で、エイクは仕入れの帰りに盗賊に襲われて……。

その他は、みんな元気だよ。…… 流行(はや) り 病(やまい) や大怪我の時には、『あれ』を使わせてもらったからね」

あ……。

そうか、普通なら死ぬであろう怪我や病気が、『あれ』、つまり、この子達に渡し、床下に隠された、有効期間無制限、病気・怪我両対応の特製万能ポーション3ダースのおかげで……。

そりゃ、即死や、ここに帰り着けないうちに亡くならない限り、そう簡単に死んだりしないか。

「でも、『女神の眼』の中で最年長だったエミールは、もう90歳近いんじゃないの? 何か、60歳くらいにしか見えないけど……」

そう、年の割には、メチャクチャ若く見えるんだよね、エミール……。

だから、最初、全く気付かなかったんだ。これが、ヨボヨボの、枯れ木のようなお爺さんなら、さすがに『もしかすると』とか思ったかもしれないけれど。

「ああ、俺達全員、すごく若々しくてさ。それが、『女神の眼』の薬は効果がある、女神に祝福された人々だ、って評判で、うちの商売が上手くいってる理由のひとつなんだ……。

それに、病気とかには殆ど罹らないしね。……そりゃ、強烈な流行り病とかには、さすがに罹っちゃうけどさ……」

エミールは、年寄りのくせに、若者のような喋り方をしている。まぁ、普段は年相応の喋り方なんだろうけど、今は、私と会って、昔のままの話し方にしているのだろう。私に対して、『久し振りじゃな』なんて喋り方はしたくないんだろうな、多分。

エミールにとっても、今は、『あの頃』に戻っているんだろう。『 刻(とき) 』が……。

「あ」

そして、気付いてしまった。

エミール達が病気に罹りにくくて若々しいのは、多分、ポーションの影響だ。

初めてエミール達に会った時、小さな怪我や様々な病気を抱えて、栄養不足でガリガリのボロボロだった子供達を何とかするために、怪我や病気を完全に治癒する効果を持たせたポーションを飲ませたんだった。 後(のち) に作った機能限定版とは違って、深く考えずに作ったやつ。

病気の、完全治癒。

それは、遺伝的に将来発症するかもしれなかった病因や、その時点におけるDNAの転写エラーとか、短くなったテロメアの長さの修復とか、まぁ、色々なことがアレしていたりして……。

そりゃ、何かセレスの加護を受けていそうな気がして、誰も手を出さないわな……。

それで、権力者に絡まれたり、商売敵にちょっかいを掛けられたりもせず、順調にやってこれたわけか……。

反則やん!!