作品タイトル不明
163 最 期 1
翌朝、王都の街門を、何事もなく通過。
まぁ、私を止める門番はいないわなぁ。王都の門番や王宮の門番は、当然ながら私の顔は覚えさせられているはずだから。
あれだけ噂をバラ撒かせたのだから、当然第二王子派も私が来ることは知っているはず。
その後に続く軍のことは触れて廻らせたわけじゃないけど、当然それくらいは知っているだろう。向こうも、そこまで馬鹿じゃないだろうし、情報を集めていないわけがないだろう。数百数千いる兵士達の内、カネで情報を流したり、裏で通じていたりする者がひとりもいないわけがない。
しかし、街門で待ち構える敵側の兵士の姿もなく……。
「「「「「ばんざ~い! 御使い様、ばんざ~い!!」」」」」
「うおっ!」
びっくりした!
……なんだよ、この『街中で、大歓迎』モードは!
宣伝、効きすぎ!!
これじゃあ、表立って私を捕まえることは難しいか。下手すると、兵士と民衆との小競り合い……どころか、血みどろの戦いが始まってしまうわ!
まぁ、貴族も兵士達も、殆どが第二王子を見捨てて離反したらしいけど、利害関係が大きい者、もはや引き返すことができない者……国王の死に関わった者とか……は、最後のチャンスに賭けているだろう。
うん、私と、第一王子であるフェルナンが死ねば、事態が収束して、第二王子の天下となる。
今は貴族も軍も民衆も一斉に手の平返しの状態だけど、第二王子が唯一の王位正統後継者となれば、再び話が変わる。
となると、向こうが取るべき手段は……。
ひゅん!
ばしっ!
うん、暗殺だよねぇ。私と、第一王子、フェルナンの。
でも、それくらいのことは馬鹿でも分かる。
身体能力が人間を超えているフランセットは、筋力、体力だけではなく、勿論遠距離視力や動体視力、聴力や反射速度等もずば抜けている。なので、普通の兵士でも可能である『剣で矢を叩き落とす』とか、『投槍を斬り飛ばす』ということなど、容易い。勿論、『四壁』のみんなも、それくらいのことはできるだろう。
それに、一応、私も 鎖帷子(チェーンメイル) を着込んでいる。 板金鎧(プレートアーマー) なんか着た日にゃ、重くて身動きもできないだろうけど、これくらいなら何とかなる。
しかもこれは、アレだ。……そう、『ポーション容器』として出したやつ。だから、普通のものより軽くて動きやすいし、強度も高い。遠距離からの矢くらい、楽々食い止めてくれるはずだ。
強力な、大型の 合成弓(コンポジット・ボウ) やクロスボウ、 大型弩砲(バリスタ) とかで狙われたら? 頭部狙撃(ヘッド・ショット) の場合は?
はは……。ははは……。
頼りにしてるよ、フランセット!
セレスが付けてくれているのかどうか分からない『自動防衛機構』なんか、当てにできない。
元神官の襲撃(あのとき) のは、たまたまだった可能性は否定できないし、不確かなことに命を預けるほど馬鹿じゃない。セレスの加護は、ないものとして考えよう。
飛んできた矢を叩き落としたフランセットが矢の飛来方向を睨んでいるけれど、遠距離からだし、矢を射ると共に姿を隠しただろうから、射手を見つけることはできなかったようだ。
まぁ、見つけたところで、追いかけても逃げ切られるだろう。どこかに隠れたり、素早く着替えたりして群衆の中に紛れ込まれれば終わりだし、そもそも、射手を視認できていないから追いかけようもない。別に、兵士の恰好をして矢を射なければならない理由はないから、最初から普通の民間人のような服装をしていただろうし。
そんなのを探すために、5人しかいない護衛兵力を割くなどというのは、愚の骨頂だ。
……というか、そうして私から護衛を引き剥がすのが目的、ということも考えられる。何せ、私自身には戦闘能力は皆無、と思われているだろうからなぁ。
あの、アリゴ帝国西方侵攻軍との戦いにおけるアレは、『女神のお怒り』、『女神の神罰』ということになっていて、御使い様に 仇(あだ) なす者達に女神が、という話で伝わっている。だから、私自身には 治療薬(ポーション) を作る能力しかない、というのが、意図的に広められた噂である。
うん、 爆発物(ポーション) のことは、なかったことになっているんだ。あれは全部、女神が直接やった、ってことで。
いや、それでも、正気ならばそんなヤバい奴に手出ししようとは思わないよねぇ、普通は……。
ま、普通じゃないから、こんな馬鹿なことをしでかしたわけだろうけど。
もし私がいなかったとしても、結局最後にはフェルナンが兵を挙げて王都を包囲するとか、他国に派兵を要請するとか、誰かが国のために身を捨てて第二王子を暗殺するとか、何らかの手段で早期に排除されただろう。第一王子であるフェルナンの殺害に失敗して取り逃がした時点で、既に『詰み』だったわけだ。
私は、ほんの少しそれを早め、無駄に失われる命をほんの少し減らす。ただ、それだけのことだ。
これが、第二王子にもっと人望があり、第一王子と拮抗するだけの支持層があったなら話も違ったかもしれないけれど、今更それを言っても仕方ない。
さて、そろそろ王宮到着。
ここには、昔一回来たことがある。
そう、パーティーの招待状を押し付けられて、男爵家で 徴発し(パクっ) たドレスを着て訪問、中ですぐにメイド服に着替えて、色々とあった、あの時だ。
……でも、今回は、なぜか門番がいない。
もしかすると、『門番の任務として、私を通すわけにはいかない。でも、通さないと神罰が』ということで、一時的に職場放棄……、いやいや、トイレにでも行っているんだろう、多分。生理現象は、仕方ないよね!
というわけで、6人揃ってそのまま通過。
……しかし、本当に、完全に見限られたらしいねぇ。門番にまで見捨てられるって、相当……。
いや、でも、考えてみれば当たり前か。
正統な王位継承者である第一王子が軍を引き連れて王都へ向かっている。
貴族や軍の大半は第一王子側についた。
商人や一般民衆は、全て第一王子を支持。
神殿も第一王子を支持。
第二王子を支持しているのは、一部の評判の悪い貴族、悪徳商人、そして素性の怪しい余所者の神官数名。
そしてそこに流された、『親殺しの簒奪者』、『女神の怒り』、『御使い様の来訪』の、噂話のトリプルコンボ。そりゃ、これで第二王子を支持する人って、一周回って、尊敬するわ……。
そして、すたすたと歩いて、どんどん奥の方へ。
考えてみれば、ここに来たことがあるの、この6人の中では私だけだ。
そして勿論、私は更衣室とパーティー会場にしか行ったことがない。
でも、なぜかみんなが迷うことなく歩いているから、それについていってるんだよね……。
みんなは自国の王宮には詳しいから、他国の王宮も大体の造りが分かるのかな。
ま、黙ってついていくしかないんだけどね……。
「ここです」
いや、フランセット、『ここです』って言われても……。
国王(笑)がどこにいるか、どうして分かるんだよ。執務室にいるか、寝室にいるか、会議室にいるか、食堂にいるか、分かんないでしょ?
で、ここは……。
「謁見の間です。追い詰められた国王が 弾劾者(だんがいしゃ) を迎えるのは、ここしかありません」
……それ、どこかの芝居か吟遊詩人の歌にでもあったの?
まぁ、どうせ片っ端から調べるなら、どこから始めても同じか。とりあえず、ここから……。
……。
…………。
………………いたよ、オイ!
というわけで、扉を開いたら、いた。
一番奥に、王冠かぶって玉座に座った、王様というか、第二王子というか、ま、その人らしき若いの。
その後ろに、神官ぽいのが数人。
そして勿論、その前方には護衛の兵士達。逃げられなかったのか、何か事情があるのか、それとも本当に『国王に対する忠誠心』で残ったのか……。
襲い掛かってくるなら、倒すしかない。いくら何でも、ここで不殺に拘る程のお人好しでも馬鹿でもない。そして、国王の護衛ならば 手練(てだ) れ揃いだろうけど、さすがに神剣を持ったフランセットと四壁相手に勝てるはずもないだろう。ま、死なずに重傷程度で済めばラッキー、ということで。
「おお、やっと来たか! 歓迎するぞ、御使い殿!」
そして、第二王子ギスランからのあまりにも予想外の言葉に、耳を疑った。
「はぁ?」
そして、ぽかんとした私に、更なる追撃が。
「バルモア王国軍を率いて、我が傘下にと馳せ参じてくれたこと、感謝する。褒美として、バルモア王国に勝利した 暁(あかつき) には、我が妃として迎えよう!」
……絶望のあまり、気の毒なことになってしまったか……。
しかし、神官ぽいのと護衛の兵士達は、まともらしい。皆、緊張のせいか、蒼い顔をしている。そして兵士達は武器の柄を強く握り締めている様子。
第二王子はともかく、その他の観客達のために、予定通りに進行させるか……。