軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

153 帰 郷 1

「何じゃ、こりゃ?」

懐かしの我が家、マスリウス伯爵領領都にある『便利な店 ベル』に帰ってきた、私達。

マリアル達は、既にレイフェル子爵家のマスリウス伯爵領別邸に送り届けてある。こちらの方が、田舎領であるマリアルの本拠地、レイフェル子爵家領都邸よりずっと安全だし、マスリウス伯爵の近くの方が色々と便利だからね。だから、元々、マリアルの両親もこちらを常在場所にしていたのだろうし。

マリアルの領地邸なんか、20~30人くらいの盗賊に襲われれば壊滅しそうだし。

……マリアル自身が、以前、そう言っていた。なので、当分はこちらにいる方がいいだろう。

まぁ、『女神の愛し子』に手出しするような者がいるとは思えないけれど、あからさまな敵対行為ならばともかく、連日連夜押し掛けての『お願いします!』の土下座攻撃とかを喰らうと、マリアルにはちょっとキツいかもしれないし。

……と、それはいい。それはいいんだけど。

この、店のドアに張り付けてある、怪しい紙は何?

『直ちに連絡されたし。£∮§鉄の聖者』

私だから一部を除いて読めたけれど、普通の人だと、全文意味不明だよ……。

でも、一部とは言え、私に読めない言語って……。

真剣に考え込んでいると、後ろからロランドが声を掛けてきた。

「ああ、これは、俺宛てだ」

え?

「王族が使う、暗号文だ。書いてある内容は、『直ちに連絡されたし』だな」

うん、そこは読めてる。

「その後は?」

「そこは、£から§へ、つまり、近衛の使者から俺へ、という、差出人と宛先人のシンボルマークだ」

ああ、ただのシンボルマークならば、それが誰を表すかを知っていない限り、さすがの言語マスターの私でも解読は不可能か……。では、『鉄の聖者』というのは、何を表す言葉なのだろうか。これもまた、対応する換語表がないと解読できないのかな……。

私が、う~ん、う~ん、と考え込んでいると……。

「その、『鉄の聖者』というのは、ただの宿屋の名前だぞ。使者がそこに泊まっているのだろう。そもそも、その部分は暗号ではなく、普通の言葉で書いてあるだろう?」

……考え過ぎかよ、くそっっ!!

とにかく、王兄であるロランドに急ぎの用があるらしいし、一日に数回店を確認すれば済むのに、このような目立つ貼り紙をする程時間を惜しんでいるらしきことから、店に入るのをやめて、そのままその『鉄の聖者』という宿屋に向かうことにした。

一度店に入って腰を下ろしちゃうと、数時間は動きたくなくなっちゃうからねぇ。荷物も全部私のアイテムボックスの中だし、このまま行った方がいい、との判断だ。

ベルをレイエットちゃんと一緒に残していくか、と一瞬考えたけれど、何やら面倒な話になりそうな気配がしている以上、ベルが黙って留守番役を受け入れるとは思えない。

確かに、ベルとエミールは、私に忠実だ。

でもそれは、決して全て私の言いなりになるということじゃない。私のためだと思えば、私の指示に逆らうこともある。……さすがに、理不尽ではなく、私が強く命じた『命令』に逆らう、ということはないが……。

つまり、『私を見捨てて逃げろ』とか、『私より、自分達の命を優先しろ』とかいう命令は絶対に聞かないけれど、大したことのない命令であれば、まず、無条件で従う。それが自分達の命の危険を伴うことであっても。

……だから、そういうのをやめろ、と言っているのに……。

先日、どうやらそれにはフランセットが悪影響を及ぼしているらしいことが発覚したため、再教育中なのであるが……。

とにかく、今、留守番役を命じるということは、ベルにとっては『理不尽な命令』に該当する、ってことだ。命を懸けて守ろうとしている私が厄介事に巻き込まれようとしているならば、護衛としては、それに関する情報は全て完璧に把握しておかねば、と考えるのは、至極当然のことであろう。

まぁ、今すぐ私に危険が、というわけでもなさそうだし、後でエミールから聞けばいい、ということもあり、私が強く命じれば 退(ひ) くだろうけれど、そこまですることもない。

……そういうわけで、全員でぞろぞろと宿屋『鉄の聖者』へと向かった。

* *

「ロランド様、お久しゅうございます!」

国を出てから、まだ数カ月しか経っていないのに、 跪(ひざまず) いて頭を下げ、大袈裟に感動している様子の、使者である近衛兵。

まぁ、ロランドはこれでも一応は王兄だ。それに、事故で大怪我をしなければ、間違いなく現在は国王になっていたはずだし、その怪我が治った以上、実質的には『本来、国王であるべきお方』と思われているだろうしなぁ……。

ま、現国王陛下である弟さんもいい人だし、ロランド本人が『王位は今のまま、弟に』と断言しているから、王位を巡るお家騒動とか奸臣の暗躍とかとは縁のない、平和な国なんだけどね。

……そんなロランドの身分や立場から考えると、私からの扱い、結構酷い?

ま、いーか。私にとっちゃあ、旅に無理矢理くっついてきた、ただのお邪魔虫だ。しかも、私の重大な使命である『婚活』の邪魔をしようと企んでいる、敵側の間諜であり、獅子身中の虫! そんな奴は、こういう扱いで充分だよ!

「うむ、大儀である。使者はお前ひとりか?」

「はっ、この国の王都に2名、そして念の為に東方に1名、派出しております!」

多分、ロランドの『家族に近況報告をしている』と称した、あの手紙。あれで、私達の動静を報告していたのだろう。

なので、この街へ来て、私達の不在と、そしてお店を引き払った様子がないこと、少し聞き回って調べればすぐに分かる『鳥貴族様の奇跡と、王都行き』の話から、お店が休業になった時期、その他を考えれば、私達が王都へ同行したであろうという推測くらいは、簡単にできるだろう。

……馬鹿でなければ。

そして、精鋭近衛の、しかも重要な役目を任されるような者が、馬鹿であるはずがなかった。

「あの4人の人達は?」

私は、疑問をそのまま口にした。

そう、今回、近衛から4人の使者が来たというのだ。そして、近衛、4人となれば、思い浮かぶのは、あの4人。

アリゴ帝国西方侵攻軍を迎え撃った時に、私が4振りの『神剣、エクスフロッティ』を与えた、あの近衛達。彼らが来るのが普通なのでは? ロランドが、自分の専属騎士に取り立てたのだし。

しかし、この使者は、あの時のひとりじゃない。ということは、別行動をしている他の3人も、あの4人とは別の近衛なのでは、と考えたわけだ。

私の、その少々説明不足の質問に、使者はちゃんとその意味を読み取って答えてくれた。

「はっ、『四壁』は、東側の国境警備に出ております!」

『四壁』というのは、勿論、あの4人のことだ。おそらく、王国を守る4つの壁、という意味なのだろう。

当然私のことを知っている使者は、ロランドに対するのと同じように、私の質問に敬語でそう答えてくれた。

……でも、その答えの内容は、少し首を捻るようなものであった。

「国境警備? 東側の? でも、東側はブランコット王国、バルモア王国とは一番仲のいい同盟国でしょ? どうしてそっちの国境に、しかも4人全員が駆り出されて、張り付けられてるの?」

「……それを、今、御説明しようと……」

ちょっと、眉間にしわを寄せたような感じで、そう答える使者。

あ~、『今、やろうと思ってたのに~!』ってやつか……。

ごめん。

どうぞ、存分に御説明下さい……。

「隣国、ブランコット王国で政変が発生。現在、第二王子派が王都を掌握、第一王子はどうやら王都から脱出されたと思われますが、確証はありません。

そして、一応の暫定支配者となった第二王子が……」

うん、知ってる。定番だよね!

「第一王子の捜索と併行して、軍部と国民の掌握のために、他国に戦争を吹っ掛けようとしている、と?」

「は。さすが、御使い様でございます……」

やっぱり……。

定番中の定番だよね!

もう、テレビドラマの20時45分かよ、ってくらいの、定番。 印籠(いんろう) かお 白州(しらす) か、ってくらいの、ド定番だ。

「それで、陛下から、ロランド様への 言伝(ことづて) でございます。秘密保持のため、文書ではなく、口頭での伝達を指示されておりまして……。

では、お伝え致します。

『兄さん、早く帰ってきて~!!』

以上でございます」

何じゃ、そりゃ~~!!

……あ、がっくりとテーブルに突っ伏しているよ、ロランド……。

そんな情けなさそうな顔をしなくても……。