軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

151 司 教 1

「ようこそお越しくださいました。私、司教のブルースと申します」

太った男性、ゴスコールとやらに案内されて行った先は、私達が泊まっている宿よりは少しランクが下の、それでも相場的にはそこそこ高級な宿屋のひとつ。

その中の一室だけど、まぁ、このレベルの宿屋であれば、女性が大声で助けを求めれば、無視されることはないだろう。たとえそれが、泊まり客ではなくとも。

ま、どちらかと言えば、何かあれば大声で助けを求めるのは私達ではなく相手側になりそうだけどね。奇襲に反射神経で対応できるフランセットと、対応する時間的余裕さえあればアイテムボックスと薬品作成能力が使える私に、死角はない! ……と思う。

「カオルです。こちらは、メイド。……で、私に何か御用ですか?」

フランセットや王兄ロランドが私の旅に同行していることは、公表されていない。

……いや、それを言うなら、私が旅に出たことも、別に公表されているわけじゃないけれど。

とにかく、今現在、バルモア王国で国名の次に名が知られている『鬼神フラン』の名を出すわけにはいかない。

私? 私の名は、『御使い様』という呼び名で広まっていて、『カオル』という名の知名度はフランセットより遥かに低い。

いや、別に悔しくはないよ? 本当だって!

とにかく、フランセットのことは、怪しい筒状のものを持った普通のメイド、ということにして、私の名だけを名乗ったわけだ。司教のブルースとやらは私が目当てであり、メイドのことなんか全く気にしていない様子なので、問題ない。

そして、このブルースとかいう司教が何者で、いったい何が目的なのか……。

「早速の本題で申し訳ありませぬ。実は私、この国の者ではないのです。ブランコット王国の方から参りました、王宮付きの神官でございます」

え……。

あの、ストーカー王太子の国、ブランコット王国。あそこの神殿も、この国やバルモア王国と同じく王宮と権力を張り合うような形であり、『王宮付きの神官』とかいう立場の者はいなかったはず……。

しかし、あの、セレスの『講和会議降臨事件』以降は各国における神殿の在り方が大きく変わったらしいから、それ以降、制度が変わっていたとしても全然おかしくはないか……。

あの王太子絡みだと嫌だけど、どうやらそういう気配ではなさそうだ。

というか、よくこんなところまで追いかけてきたなぁ。どうやらあのストーカー王子でさえ諦めたらしいというのに……。

で、何の用だろう?

「実は、我が国の次期国王としましては、御使い様の仇敵であるフェルナン王子ではなく、聡明なる第二王子、ギスラン様の方が 相応(ふさわ) しいという声が大勢を占めておりまして……。

しかし、無能で無礼なフェルナン王子を推す愚かな者共がおり、国の将来を 憂(うれ) えた者達による、フェルナン王子の排斥の動きが高まりまして……」

何だ、ただのお家騒動か……。

まぁ、当事者達にとっては 大事(おおごと) かもしれないけれど、無関係の者にとっては、どうだっていい話だ。誰が王様であっても、農民や他国の者にとっては大して変わらない。

……それが、とんでもない愚者でさえなければ。

私には関係のないことだ。

しかし、ひとつだけ、苛つくことがある。

それは、どうやらお家騒動の原因のこじつけのひとつに、私のことが利用されているらしいということだ。

確かに、あのストーカー王子には色々と面倒な思いをさせられた。

でも、あれから数年間、噂を聞いていた限りでは、あの王子は、私のこと以外では比較的まともであり、次期国王としてはそう悪い人物ではないらしかったのだ。

それに対して、第二王子とやらは頭も性格も悪く、まぁ、言うならば『 奸臣(かんしん) 達がいいように利用するのに適した人物』とでも……。

つまり、私の名を使って王位に就かれたりするのはイヤ~ンな感じ、といったところか……。

なのに、あの王宮でのパーティーの件や、その後の私が避けまくっていた件で、何やら勝手に私を第二王子派と決めつけて利用しようとしているような……。

バルモア王国の王都にいた時に、第二王子の一味がしつこくアプローチしてきたけれど、そっちも全て断ったというのになぁ。

というか、そもそもブランコット王国の王宮でのパーティーでやらかした『カオル』という名の少女とバルモア王国の御使い様『カオル』は、アルファとミルファで別人、ということにしているのに、勝手に同一人物だということにして利用されているというのも、面白くない。

「そこで、是非とも御使い様にギスラン様に対する支持を御表明戴きたく……」

私が黙っているものだから、調子に乗って勝手にべらべらと喋り続けている、ブルースとかいう司教。自分達が勝手に『アルファ』と『ミルファ』を混ぜていることを自覚しているのかどうか……。他者に嘘を吐くならばともかく、どうしてそれを本人である私に聞かせるのか。

私のあの説明を、嘘だと思っている? それとも、正確な話を知らない? うむむ……。

ま、どちらにしても、私の返事はひとつだ。

「下々の人間のことについては、興味はありません」

「なっ……」

うん、昔から、政治と宗教と野球の贔屓チームとラーメン談義には口出ししないことにしているんだ。大抵は、ろくでもないことになるからね。

「……こっ、この、悪魔の使いめがっっ!!」

え?

なに、その変わり身の早さ?

いくら何でも、ちょっと沸点低すぎない?

仮にも、女神様の御使いだと思われていたわけでしょ、私?

それを、いくら期待通りの返事じゃなかったとはいえ、いきなり『悪魔の使い』にジョグレス進化? いくら何でも、ちょっと早過ぎない?

不自然だ。あまりにも不自然。まるで、最初からそう思っていて、それが思わず口をついて出た、と言わんばかりで……。

……って、そう言えば、昔、いたなぁ。私のことを悪魔の使い呼ばわりした人達が……。

そう、今は亡き宗教国家、ルエダの聖職者達だ。

「ルエダの残党か……」

「なっ、なぜそれを!」

あ~、馬鹿がいた……。

多分、自分はいつも引っ掛けたり騙したりする側で、自分が引っ掛けられることなんかなかったんだろうな。女神様が実在する世界で、聖職者を騙そうなどと考える者はあまりいないだろうから。

「ルエダから逃げ出して、ブランコット王国の馬鹿次男に取り入って、悪だくみかぁ。 懲(こ) りないねぇ……」

「こ、この……」

ハン、と鼻で嗤った私に、怒り心頭、という様子の神官。どうやら、最初から私に対する敬意なんか欠片もなかったらしい。ただ単に利用するだけのつもりだったのか、何か嵌めるつもりだったのか、それとも隙を見て殺害し、後顧の憂いをなくすつもりだったのか……。

いずれにしても、

「死ねえええぇっっ!!」

しゅん!

あ、やっぱり殺すつもりだったのか……。まぁ、今、その気になったのかもしれないけれど、ちゃんと懐にナイフを用意していたということは、まぁ、そういうことなんだろうなぁ。

「ぎゃああああああぁ~~!!」

いっぱいに見開いた眼で手首から先がない両腕を見ながら、絶叫を上げる神官。

その手首から先は、ナイフを握り締めたまま床に転がっている。

素人がのろのろと懐からナイフを取り出して構え、突っ込んでくる。

それを、フランセットが何もせずに見ているはずがないだろう。

「ど、どうなさいました……、あああああ~~っっ!!」

宿の者達が飛んできた時には、既にフランセットは剣を納め、元の『怪しい筒状のものを持った、ただのメイド』に戻っていた。

「賊です。どうやら、天罰を受けたようですね。『愛し子様の従者を脅迫し、従わないと知るや、口封じのために襲い掛かった神官を捕らえた』と、王宮、神殿、そして愛し子様に知らせなさい。さ、急いで!」

「は、ははは、はいっっ!」

よし、変に騒がれたり、犯罪者扱いされて捕らえられたりしないよう、先手を打ってこう言えば、丸く収まるだろう。神官の方は、痛みと恐怖と絶望と混乱で、とてもうまく状況を説明できるような状態じゃないし。お迎えが来るまで、泣き叫びながら転げ回っているのが精一杯だろう。

後は、この国の警吏の 事情聴取(ごうもん) の腕を見せて貰おう。

あ、ここまで案内してくれた太った人は、部屋の隅の方で、へたり込んで震えてる。

どうやら、逃げようという気も起きないようだ。

……睨み付けているフランセットの眼が怖いらしくて。

うん、長瀬流睨眼術の、免許皆伝だよ、フラン!