軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 閑話 セレス、ストロベる

「今日は、あの人のところへ行く日です。えへ、えへへへへ……」

そう呟きながら、にやけた顔をして笑うセレスティーヌ。

今日は、何度目かになる、カオルの様子を報告に行く日……というか、地球の管理者に会いに行く日なのであった。

「あああ、もう、カオルちゃんには、感謝しかありません! あの人と会える切っ掛けになってくれただけでなく、こまめに世界の手入れをすることによってあの人との共通の話題を作り、そして色々と相談するネタを作るという、グッドアイディア! そして、色々とやらかして、報告が盛り上がる面白いことをどんどん提供してくれています。もう、私の為に、わざとやってくれているんじゃないかと思うくらい……。

はっ! もしや、本当に、わざとやってくれているのかも!

あああ、さすが、私の唯一のお友達です! お友達って、こんなに素敵なものだったのですね!」

以前は『あのお方』と言っていたのに、今は『あの人』になっている。……『人』ではないのに。

どうやら、心理的にかなり接近できたようである。

そして、カオルに対する一方的な友情が、とどまるところを知らない。

本来の、というか、セレスティーヌの本体……本当の名は、人間には発音不可能なものであるが……にとっての人間は、人間にとってのミジンコか微生物以下なのであろうが、本体の 極々(ごくごく) 一部、しかもそれを極限まで能力を落として人間との意思疎通が可能なレベルにした分体であるセレスティーヌにとっては、善良で気に入った人間はヒヨコかハムスター程度には思えるようである。

……但し、普通の人間は虫程度、嫌いな人間は蚊やゴキブリ程度の認識であるらしい。なので、邪魔になったり迷惑を受けたりすれば、駆除することに躊躇いはない。

カオルは、『好きな人から譲って貰った子猫』あたり?

いや、それでも、カオルに対する感謝や友情のような想いは本当らしく、一概に決めつけられるものでもないようであった。

「とにかく、貴重な機会なのですから、あの次元世界#§♭÷⊇∮£のおばさんや、他の連中なんかに負けちゃいられないのです!」

どうやら、ライバルがいるようであった……。

しかし、何万年、いや、何億年、何十億年生きているのか分からないセレスティーヌが『おばさん』と呼ぶ生命体は、いったい 如何(いか) ほどの年齢なのであろうか……。

しかし、大元の生命体の年齢はともかく、セレスティーヌ、『あの人』、そして『おばさん』やその他のライバル達は全て、それぞれ本体のほんのひとかけらに過ぎず、そしてそれぞれが管理している世界の生命体と意思の疎通ができるように極限まで思考の速度とレベルを落としているため、皆、似たような状態であった。

……つまり、それぞれの個性の差はあれど、皆、セレスティーヌと大差ないということである。

今のセレスティーヌの姿は、ただ自分が担当している世界の生物に似せた姿をとっているだけであり、別に『あの人』に会いに行くのに人間を模した姿をしている必要はないが、たまたま『あの人』も普段は同じ生物を模した姿をしていることもあり、『お揃い』ということに浮かれ、いつもこのままの姿で会いに行くのであった。

「よし、完璧! 行きます!!」

身嗜みを整えて、何度も確認した後、セレスティーヌは次元転移を行った。

ちなみに、セレスティーヌの胸が小さいのは、彼女達の種族の美的感覚では、身体に余計な脂肪の塊がぶら下がっていたり、動きの邪魔になるものがくっついていたり、意味のない凹凸があったりするのは、非効率的、つまり、美しくない、ということだからである。

肉体関係だとか、母乳で子育て、とかいう概念がない種族にとっては、小さく、コンパクトに纏まった効率的な身体が優れた身体であり、イコール美しい、ということなのであった。

そのため、セレスティーヌ的なサービスとして、カオルの身体の再構成において、元の身体よりほんの少し胸を小さくしてあり、食事や運動により大きくなるのを防ぐ処置がなされている。

……良かれと思って。

カオルが喜んでくれると思って……。

「お、お久し振りです……」

そう言って、人間のような挨拶をするセレスティーヌ。

前回会った時から、セレスティーヌ達にとっては瞬きするくらいの時間しか経っていないが、本人にとっては、充分待ち遠しかったのであろう。

「あ、セレスちゃん。いつもすまないねぇ……」

「い、いえ、カオルちゃんのことを御報告するの、私も楽しいですから……」

テレテレのセレスティーヌ。

恋人とか結婚とかいう概念がない彼女達においては、『素晴らしい者に、自分のことを知って貰える』、『自分のことを好意的に思って貰える』、『緊急時において、頼らせて貰える。そして、頼って貰える』ということが、最大の喜びである。……勿論、大元の本体ではなく、最下級の分身体であるセレスティーヌくらいの者においては、であるが。

なので、今のセレスティーヌは、幸福の絶頂であった。

そして、それらを他の次元世界からモニターしていた、セレスティーヌよりほんの少しレベルを高く設定してある『他の分身体』達が、悶えていた。

『『『『『 甘(あま) 酸(ず) っぺぇ~~!!』』』』』

他の分身体(かのじょ) 達にとって、それは、幼い妹が初恋に舞い上がっているのを見た 30歳前後(アラサー) の姉、とでも言うか、自分はもうそんな感情を抱くことはできないが、そういう妹を見ているのは、何だか面白くて嬉しい、というような想いに包まれて、結構楽しいのであった。

* *

「カオルより『女神の眼』!」

『こちら『女神の眼』です』

少し抑揚がおかしく、『カオル』が『カーク』に近い発音になっている、カオル。

あくまでも、カオルの趣味の問題である。

夜に、アイテムボックスから取り出した道具で、バルモア王国で借りたままになっているカオルの家に住んでいる『女神の眼』の子供達に連絡するカオル。

そう、カオルが出奔前に連絡用にと渡した、中にポーションが入った『音声共振水晶セット』である。セットになったその道具の片方に向かって喋ると、遠方にあるもう片方の道具の水晶が共振して音声が伝わる、という代物である。

勿論、正式には、『……という機能がある、ポーションの容器』であるが。

子供達からの呼び出しは、カオルがアイテムボックスを開けて確認しないと気付けないけれど、カオルからの呼び出しであれば、子供達はすぐに応答する。

彼らが、留守を任されたカオルの 家(しろ) を 留守番(けいびへい) なしで無人にすることも、現在のカオルとの唯一の繋がりである音声共振水晶セットの前に見張り番を置かないということも、まず考えられなかった。

なので、数日に一度、孤児達や王都に異状がないかの定時連絡を行っているのである。

でないと、心配した孤児達がしょっちゅう連絡してくるため、アイテムボックスを開けるたびに着信アラートが鳴って、ちょっと困る場合があるからであった。

「何か、変わったことはない?」

『特にありません。あ、アシル兄ちゃん、叙爵式が終わって、正式に男爵様になったよ。で、ロロットに愛人の話を持ち掛けやがって、工房のみんなと揉めてるよ』

「あ~……」

リオタール子爵家三男にしてマイヤール工房従業員、アシルは、国の『御使い様を国に縛り付けよう作戦』の一環として、男爵位を授かることになったのであった。一応、叙爵の理由は、『御使い様を助け導き、我が国にお迎えする原動力となった』ということになっているらしい。

本当は、カオルを王族か上位貴族と、と考えてはいても、カオルが人間が勝手に決めた身分などを気にするとも思えず、少しでも確率を上げるためにと、カオルと交友関係にある適齢期の者を、カオルが結婚しやすい状態に仕立て上げているわけである。

アダン伯爵家のエクトルは、元々アダン伯爵家の長男なので、そのままで問題ない。

で、カオルの後釜としてマイヤール工房のおさんどん少女となった、『女神の眼』の少女、ロロットにコナを掛けていたアシル、さすがに男爵様が孤児を正妻にするわけにはいかず、愛人ということでお声掛け、というわけらしい。

「無爵の貴族家三男の嫁に、ということなら黙認したであろう工房のみんなも、妾ならばともかく、生まれた子供に貴族としての身分も継承権もない、使い捨ての愛人としてなら、そりゃ反発するか……」

孤児としては、それでも、信じられない程の玉の輿であろう。そして、爵位貴族様に平民が文句を言えるような話ではない。

しかし、あの工房のみんななら、いくら男爵様になったとはいえ、彼らにとっては、あくまでも『同僚の、アシル』に過ぎないのであろう。そして、『みんなで守るべき仲間、ロロット』と。

「ま、そりゃ、本人の意思に任せるしかないよねぇ……。ロロットの好きにさせたら?」

『うん。あと、アシル兄ちゃんの兄嫁さんが、うちに様子を見に来てくれたよ。「面倒を見ていたカオルさんがいなくなって、心配だ」って……。で、「カオルねえちゃんはゴロゴロしてるだけで、元々料理も掃除も全部自分達でやってたから、全然問題ないよ」って言ったら、「あの 女(アマ) ……」って、怒りながら帰っていったよ』

「ぎゃ……」

『ぎゃ?』

「ぎゃあああああ~~!!」

そしてその後、交信役をエミールとベルに代わって、頭を抱えて蹲るカオルであった……。