軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128 面倒事 4

「な、ななな……」

完全な石化が解け、ようやくのことで声を出した商人さん。

「だ、騙したなっ!」

いや、それは言い掛かりだ。

「いえ、騙したも何も、最初から、私には何のことやら……。私は一度も自分が、その『御使い様』とやらだとは言っていませんし、 碌(ろく) な説明もして貰えずに、一方的に何やらよく分からないことを喋られるばかりで、今でも事情がよく分からないのですけど……」

私がそう言うと、さすがに自分達に落ち度があったと思ったのか、商人さんは黙り込んだ。

そして……。

「し、失礼する! 邪魔をしたな」

一応は、謝罪の言葉らしきものを言って、さっさと引き揚げていった。

「……さすが、カオルちゃんです! 人を騙したり 嵌(は) めたりする腕は、到底私達の及ぶところではなく……」

そしてフランセットが、何やら言っている。

「それ、全然褒めてないでしょ!!」

とにかく、まずは一段落。

……次は、王宮の手の者かな。

* *

「店主様はおられますか!」

次にやってきたのは、王宮の手の者ではなかった。

「マ、マリアル? どうしてここが……」

そう、カルロスの主人である、レイフェル子爵家当主、マリアル・フォン・レイフェル女子爵、その人である。

私は、自分の本当の名も正体も、そして勿論、居場所も教えてはいない。なのでマリアルは、私のことは『カルロスのためにお力添えをして下さった、セレスティーヌ様の御友人である女神様』だと思っているはずである。そのために、わざわざ人間界へと降臨した……。

なので、私がここにいることを知っているはずがない。

ということは、偶然?

何か、別の用件でこの店に来た?

……しかし、貴族家の当主自らが、平民が営む小さな小売店になど、いったいどんな用件があるというのだろうか。

マリアル来訪の理由に予測が付かず、私が固まっていると……。

「そこの店員さん、店主様はおられますか?」

え?

今、私、そんなに変装してないよね?

確かにあの時は髪と瞳の色を変えていたけれど、栗色だった髪が黒くなっただけで、金髪とか銀髪とかの、完全にイメージが変わるほどの色彩変化じゃないはず。瞳の色は蒼から 薄茶色(ヘーゼル) へと大分変わったが、人相が変わって見える程のものじゃない。そして肌の色も、少し白くしてはいたけれど、普通、多少日焼けしたからといって人の見分けがつかなくなるようなものでもないだろう。それくらいで分からなくなるはずが……。

事実、フランセットと再会した時も、初対面の時は銀髪で眼の色も違い、そして女神様がまさかそのあたりの街中を歩いているはずがないという思い込みがあったであろうにも拘わらず、一発で見破られたではないか。

……って、まさか……。

私は、両手を軽く握り、人差し指をピンと立てた。

そして、その指をそれぞれ両眼の目尻に当てて、……そのまま指を下ろして、垂れ目にした。

「ああっ、女神様っ!」

やっぱりかよ、ドちくせう!!

* *

あの後、ドアに臨時休業の札を掛けて施錠し、カーテンを閉めて2階へと移動した。とりあえず、マリアルから話を聞くのが最優先事項だ。

同席しているのは、私達の他には、フランセット、ベル、そしてレイエットちゃん。マリアルは深窓の御令嬢だから、知らない男性がいると緊張するかも知れないからね。

男性陣は、隣室で耳を澄ませているだろう。ここ、壁の防音については紙装甲だからねぇ。

マリアルは子爵様だけど、私のことを女神様だと思っているし、面倒だから、話す口調はタメ口でいいか。

「大変です! 王都から、商人が!」

うん、知ってる。

「そして、何と、王宮の手の者らしき連中が!」

うん、知ってる。

「更に、目付きの悪い少女を捜しているら……しく……」

うん、それも知ってる。

そして、私の顔をまじまじと見詰めるマリアル。

「……女神様のことでしたか……」

うん。

で、とりあえず、私が今知りたいのは、だ。

「どうして私がここにいることを?」

どこから情報が漏れたのか。それを突き止め、漏洩した穴を潰し、塞ぐ。それが第一優先事項だ。

そして、マリアルをじっと見詰めると……。

「あ、うちの犬達に聞きました」

「へぁ?」

思わず、間抜けな声が出てしまった。

「いえ、ですから、うちの犬達に……。女神様が、」

「あ、待って! とりあえず、その『女神様』っていうのは止めて。どこに人の耳があるか分からないし、言い慣れていると、言っちゃ駄目な時にも、ついうっかり、スルッと出ちゃうからね」

「あ……」

うむ、理解してくれたらしい。

「私のことは、カオルと……」

「あ、ハイ!」

マリアルには、『クァオル』と名乗っても仕方ない。それに、どうせフランセット達が私を『カオル』と呼ぶのを聞くだろうし。

で、改めてマリアルに尋ねると、どうやらマリアルが子爵家の犬達に私の居場所を知らないかと尋ねたところ、まず私が犬やカラス達に餌をやっていた場所まで案内し、そこから臭いを辿ってここを突き止めたらしい。子爵邸から臭いを辿っても良かったけれど、その方が早い、と言われたとか……。

くそ、結構鼻が利くじゃないか。……犬だけに。

ここに辿り着いたのは閉店時間帯だったらしく、後日訪問することにして、その日は帰宅。そして今、ここにいるというわけだ。

「あああ、そういえば、犬やカラスには、私のことを口止めしていなかったあァ!

だって、マリアルが動物と話せるようになったのは予定外だったし、そもそも、犬やカラスが私の居所を喋るなんて、考えもしなかったよ!!」

そう、当初の予定では、カルロスを人間の言葉を話せるようにしてあげるつもりだったのだ。それを、マリアルの希望で『マリアルが動物の言葉を話せる』という方に、 急遽(きゅうきょ) 変更したのである。

その方が野良犬やカラスへのサポートが確実にできて、協力に対する報酬である『怪我や病気の時に、1回だけ助ける』という約束を破ってしまうことになる心配がなくて安心、というマリアルの説明に、なる程、と納得したからだ。なので、急な変更だったため、それに付随した修正事項のチェックが甘かった……。

ま、私のミスだ。今更考えても、仕方ない。

でも、確認しなきゃならない重要なことが、ひとつある。

「マリアル、ここへ来る時、跡をつけられたという可能性は?」

私がそう尋ねると、マリアルは、真面目な顔で答えてくれた。

「はい、物事、『絶対』ということはありませんから、その可能性がゼロとは申しません。しかし、ここまで尾行されたという確率は、かなり低いのではないかと……。

ありふれた、地味な恰好でこっそりと邸を出て、事前に話を通しておいた店で部屋を借り、予め先行させておいた、私と背格好や髪の色が似たメイドと衣服を交換。私はメイドが店から出て暫く経ってから、裏口から出ました。

そしてその後、それに類した偽装工作を更に2回。その後、人通りの多い大通りの強引なすり抜けや、人の流れへの逆行、その他諸々で、かなり尾行に手慣れた見張りがいたとしても、おそらく追跡は振り切れたものと思います」

……何者だよ、マリアル!