軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウーリク先生の産業会議

季節の変わり目からひと月が過ぎ、今秋の収穫に影響の大きい期間が終わった。領都近郊の収穫の減少は止められるのではないかと思う。

午前中の講義を休んで、アルマはジグルドとエリックと三人でウーリクの資料室を訪れた。既に集まっていた男たちが何かを言い合っている。ジグルドの姿を認めて全員が起立し頭を下げる。ウーリクの仕切りで全員がテーブルの周りの椅子にかけ、ウーリクは男たちにアルマを紹介した。

春が落ち着き、農作物のための祈祷はいったん終了だ。次のシーズンは秋の終わり。それまでの間はどこを改善するのかを相談するための会合だ。

ウーリクが机に広げた大きな地図に、色とりどりのインクで細かく書き込みがされている。

男たちがわいわいと検討する様子をアルマは大人しく聞く。トンプソンから習ったこともあったが、分からない話が多い。ひと月授業を受けたくらいでは仕方がない。たまに霊気や祈祷についての質問をされ、答える。

二時間ほど話し合って、初対面の男たちは部屋を出て行った。

ウーリクが廊下の使用人に声をかけて、メイドが紅茶を運んできた。一息ついて、エリックがアルマに声をかける。

「アルマ様、お話は分かりました?」

「えー、えっと、」

「エリック。アルマを馬鹿にしているのか」

ジグルドの諌める声に臆するでもなく、エリックはアルマに回答を促す。

「……………半分、くらい、なんとなく、分かったわ……」

アルマの回答にジグルドはきょとんとしている。

いやいや。無理だって。

「分かった内容をお聞かせいただいても?」

「魔獣の被害が多くて困ってるのが、鉱山と東の街道。霊流のせいかよく分からないけど羊が上手く育たなくて困ってる。東部に病気が流行りやすい。

とりあえず何にしてもお金が要るから、農作物の次は鉱山を優先したいなぁって」

「半分くらい分からなかった?」

「………ごめんなさい」

「ああ、いえ。半分も分からなくてそれだけご理解されているなら寧ろ素晴らしいです」

エリックがにこりと笑う。

アルマはエリックとはまだ数回しか話したことはない。少しずんぐりした身体つきに似合う穏やかな口調で、アルマの理解を確認しながら話してくれる。好意的に見えるが、ずっと笑顔を張り付けているので、本心は読めない。

「概ねそういう話でした。実際に祈祷なさる立場として、何かご意見はありますか」

「………そうね、優先事項は分かったけど、ええと……ウーリク先生、霊脈図はありましたか」

地図に霊流を落とし込んだ図。祈祷の計画を立てるにあたって、通常は最初に作成されるものだ。領内の霊流を中央神殿の神官が記録し、各領の領主が保管している。二十年前にはウィンターハーンにも中央神殿から祈祷師が来ていたのだから当時の霊脈図があるはずだ。捜してくれるよう、ウーリクに頼んでいた。

ウーリクが残念そうに首を振る。

「今のところ、見つかっていません。ないのかもしれません」

「そしたら、その、鉱山の一帯の霊脈を整えるためにはどこで祈祷すべきなのか、すぐには分かりません。前も言いましたけど、ちゃんと計画を立てるなら神官を呼んだ方がいいです」

アルマの言葉にエリックがジグルドを見遣る。ジグルドは感想も無さそうな顔で言った。

「その話は打診してみた。神官は借用品ではないと断られた」

「えっ? そ、そうなんですか」

「中央神殿は根回しが難しい。今回は諦める。神官を借りられず、霊脈図も見つからない状態では難しいか」

その一帯を包む流れの、一番近い源泉で祈祷をするのが効率の良いやり方だ。整えたい場所で祈祷をしてもすぐに元に戻るし、力の届く範囲でしか整えられない。

「高い所から見渡せば見えると思いますけど、そういう場所がないなら……辿っていくしかないのかな……」

「高い所、ね。ミスティグの近くの高台ならここですね」

エリックがウーリクの地図の右側を指差す。

ジグルドが顎を撫でた。

「大森林を通るしかない。護衛に小隊が要るな」

「遊ばせておかずにすんで良かったじゃないですか」

アルマが王都からウィンターハーンの領都まで来るのに馬車で五日かかった。直進距離ではミスティグの高台までその二割ほどなのに、片道三日かかるという。驚くアルマにエリックが説明してくれた。

「ミスティグまでの道は起伏もあるし、あまり馬車の通行に適していません。昔は王都からここまでも十日ほどかかったそうですよ。街道が整備されている、ということの強みですねぇ」

「道って、大事なのね……」

五日馬車に揺られていただけでもアルマは腰が痛くなった。あれが倍だったかもしれないと思うと先人の努力に感謝しかない。

「あの、あと、ひと月神殿で祈祷してて思ったんですけど、ウィンターハーンの霊脈の中心は神殿じゃないかもしれません」

アルマの言葉に三人が動きを止める。

「そんな気がするってだけで、霊脈図が見つかれば分かることだと思ってたんですけど。昔来てた祈祷師たちがどこで祈祷してたのかとか、何か分かれば教えてください」

三人の了承を得てアルマはほっと息をつく。

神殿が中心じゃないなんて、信じてもらえないかと思った。

色んな領の霊脈図を見ても、大体領都の神殿が霊流の中心になっている。

祈祷が重要なウィンターハーンの中心が領都の神殿ではないのは、アルマには俄かに信じ難いことだ。そんな奇怪なことをあっさり信じてもらえるほど信頼関係ができたのだ―――

「因みに、それは珍しいことなんですか?」

違った。