軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

急募:可愛く応援してくれる人

随分とましな気分で目を覚ました時には、既に日が高くなっていた。

手拭いで拭いきれていなかったようで寝衣にも髪にも汚れが残っている。

動き出した理性の反省会が始まる。

辺境伯の寝所を汚してしまった。

え、これ、なに罪?

額を押さえていると、扉が開いた。

ラフな格好のジグルドと目が合う。

今日も絶賛美青年だ。よれよれの自分との落差がひどい。

「起きたか」

表情の薄い声。怒っているのかいないのか判定しづらい。

「おはようございます。ベッドを汚してしまって、すみません……」

「構わない。まだ休むか」

「起きます。………授業、受けれなかった……」

クリスにどんな顔をして会えばいいのだろう。メイドに朝はなんとしても起こしてくれと頼んでいたのに、どうしたんだろう。自分のベッドにいなかったからもう起きていると思われたのだろうか。

ジグルドは寝室に入らないまま扉を閉める。

暫くぼうっとベッドに座っていると、扉から勢いよく天使が飛び込んできた。

「アルマ!」

そのままベッドによじ登ってアルマに抱きつく天使を、肩を押さえて離す。

「クリス。あの、ごめんね、授業、寝坊しちゃった……臭いから離れて」

「アルマ。しんどかったのに、気づかなくてごめんね。―――ううん。僕、気付いてた。でも、一緒にいなくて良いよって、言えなかった。ごめんね。

イェンスもローラもご病気じゃないって言うけどほんとう? お医者様に診てもらったほうがいいんじゃない?」

「病気じゃないわ。仕事で疲れちゃっただけ。クリス、ほんとに、汚れがついちゃうから」

「そんなの平気だよ。ねぇ、レモン水持ってこようか? オレンジ食べる?」

「クリス。少し顔を見るだけと言ったはずだ。アルマは湯浴みを済ませたら神殿へ行く」

扉口でジグルドが淡々と言い放つ。

クリスが青い目をまんまるに見開いた。

「こんなに疲れてるのに、今日も仕事するの!?」

「そうだ」

「だめだよ! 寝てないとだめ!」

「それはお前が決めることではない」

「だめ! 無理してアルマが死んじゃったらどうするの」

「アルマが祈祷をすることは決定事項だ。体力の心配をするならまずお前が煩わせるのをやめなさい」

「ジグルド様は、アルマが心配じゃないの? アルマよりお仕事が大事なの? アルマが『あくさい』だから、苦しくてもいいんでしょう!」

「………お前は毎日、何の教育をされてるんだ」

「閣下!」

慌ててアルマは割って入る。

「閣下。もう少し優しく対応してください。クリスも、勝てない相手と喧嘩するなら、作戦を立ててからじゃないとだめよ」

クリスが涙を溜めた目でアルマを見る。ふうふうと呼吸に合わせて小さい肩が上下する。アルマの寝衣の袖を、白い手がぎゅっと握っている。

ジグルドが怖いのに、アルマを守るために戦ったのだ。胸がきゅんと高鳴る。

「庇ってくれてありがとう。わたしのかっこいいクリスをぎゅーってしたいから、まずお風呂に入らせて」

「臭いなんて気にしないよ」

「わたしが嫌。クリスには、アルマはいい匂いって思ってほしい。女心よ。分かって」

「……そんなこと言って、こっそり神殿に行っちゃうんじゃない?」

「神殿には行くわ。クリスとお話ししてから行く」

促されて、クリスは渋々メイドに連れられてジグルドの部屋を後にした。

アルマもメイドに付き添われて浴室に向かう。メイドが髪も身体も丁寧に洗ってくれた。ジグルドの寝室に送り込まれた時の矢鱈と痛いマッサージがなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。

普段は風呂に入るとすっきりするのに、今日は湯に浸かっただけで体力を持っていかれた感じだ。すっかり慣れた臙脂色のお仕着せを着せてもらって、ソファでぐてりと伸びているところにジグルドとマークが顔を出した。

「体調はどうだ」

「きついです。でも多分今日までだから」

「そうか。何か必要なものはあるか」

「ヨーグルトに、蜂蜜かけたやつ……」

「用意させる」

「あと、クリスの激励……」

「なに?」

「クリスに、『頑張って』って言ってほしい」

ジグルドが眉を顰めた。

マークが面白そうに言う。

「それ、閣下じゃだめなんですか」

「可愛く応援してくれるなら閣下でもいいわ」

「クリスを連れてこさせる」

「閣下がクリスを説得してきてくれたら、嬉しくてもっと元気出ちゃう」

「……………」

ぎろりとアルマを睨んでから無言で踵を返すジグルドに、アルマは太々しく追加注文を投げる。

「泣かせちゃだめですよ!」

マークがくつくつと笑う。

「アルマ様、閣下のこと、全然怖くないんですねぇ」

「怒ったらきっと怖いわ。こんなことで怒らない人だと思う」

勝手に寝室に入ったことにもベッドを汚したことにも怒らなかった。今も、自分でアルマの需要を確認しに来た。

夫としては微妙だが、なかなか鷹揚な良い上司だ。

出発の直前に漸くやってきたクリスはアルマの首にぎゅっと抱きついて「頑張って」と応援してくれた。涙の痕はみえたが憤っている様子はない。ジグルドは頑張ったのだろう。