軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#085 「何のことだかさっぱりわからんな」

農場に接近しつつある純血人類同盟の部隊に偵察ドローンによる接触を行ったところ、今回の純血人類同盟の連中は聞き分けよくその場で行軍を停止した。その上で顔を合わせて話をしたい、とのことだったのでこちらで会談場所を指定した上で出向いたのだが。

「いやはやどうも、わざわざご足労頂いて恐縮です。噂通りの威容だ。それに、そちらはコルディア教会のシスター殿ですか。ディセンブラとは珍しい」

胡散臭い。第一印象でその一言に尽きた。

純血人類同盟の戦闘員達は全員が揃いの皮革製プロテクターを装備しているのだが、この胡散臭い男の格好は明らかにそれらと違う。俺から見れば古臭く見えるが、仕立ての悪くなさそうな士官服のようなものを着込んでいる。装備している武器も拳銃と刀剣程度で、他の兵士達とは装備の面から見てもやはり異質だ。

「一人だけ格好が違うということは、何かしら立場のある人間なんだな。俺はグレン、この先にある農場の主だ。こっちはミューゼン。推察の通りコルディア教会のシスターで、俺の嫁だな」

「よろ」

そう言うミューゼンの表情は完全な仏頂面であった。仲良くする気はありませんという態度が滲み出ているが、コルディア教会のシスターとしてそれはどうなんだ? 彼らの思想はコルディア教会と真っ向から対立するものだから、教義的に良き友人にはなれないのは確かだろうけども。

「このように可憐なお嬢さんとはいえディセンブラを平然と嫁と言い張るとは、聞きしに勝る剛毅なお方のようで。ああ、これは失礼。申し遅れました。私の名はヴォルペ。見ての通り純血人類同盟でこの隊を率いています。どうぞよしなに」

そう言ってヴォルペと名乗った男は糸のように目を細くしてにんまりと笑みを浮かべたが、とてつもなく胡散臭い。俺の横でミューゼンがシャドーボクシングを始めている。やめなさい。

「あー、それで? うちの農場に何の用だ? うちはコルディア教会だけじゃなくタウリシアン達とも仲良くしているから、おたくらとはあまり仲良くできそうにないんだが」

「おお、そうですね。早速本題に入りましょう。実はこの辺りで我々の監察部隊が行方知れずになっていまして。消息について何かご存知ではないかと周辺の集落に聞き回っている次第なんですよ」

「なるほど? それはどれくらいの規模の部隊なんだ?」

「私達と同程度の部隊であった筈です。何かご存知では?」

嘘だな。奴らは五十人程度の部隊だった。こいつらと比べると、その数は半分ほどだったわけだ。

「すまんが直接は見ていないな。前に南東方面から来た連中がそいつらと思われる純血人類同盟の部隊に物資を徴発されて困っていたのは知っているが」

言うまでもなく、その『連中』とは酒職人としてうちで働いているアレックスの仲間達のことだ。あいつらにも俺達は純血人類同盟の連中を見ていない、と伝えていたので、こいつが連中の村に寄っていたとしても矛盾は生じないだろう。

「そうですか」

笑顔を顔に貼り付けたまま、ヴォルペが俺の顔を見上げてくる。糸のように細められた目の奥からこちらの心を見透かそうとでもするような鋭い視線が飛んできているが……俺にそれは全く効かんぞ。俺を動揺させるには迫力が足りんし、そもそも俺には表情どころか顔そのものが無いんだからな。読み取れるものなんて何もないだろう。

俺が全く動じないので諦めたのか、ヴォルペは俺の顔を見上げるのをやめて肩を竦めた。

「やれやれ、困りましたね。手がかりが途絶えてしまいました。本当に心当たりは何も?」

「無いな。この辺りも賊だのプレデターズだの自律型駆逐兵器だのと危険には事欠かないから、そういった連中に壊滅させられたんじゃないか?」

おくびにも出さずいけしゃあしゃあと言っているが、やったのは俺である。こういう時には便利なんだよな、顔がないってのは。

「それにしてはこの辺りに彼らの遺品が全く流通していないのが不思議でしてね。賊が下手人なら余剰の装備や物資をこの辺りで売り捌くはずですし、プレデターズや自律型駆逐兵器にやられたのであれば、奴らが見向きもしない物資が漁り屋を介して流通するはず。それなのに、そういったものが一切見られない。まるで忽然と消えたかのようです」

「ほう、そいつは確かに妙だな。その漁り屋とやらがまだそいつらの遺品を見つけられていないだけの可能性も無くはないと思うが。南東の集落の連中から話を聞いた時期を逆算すると、捜索はかなり難航しそうだ」

人間の死体であればとうに白骨化している頃合いだ。環境にもよるが、大概の 人類(ヒューマンレース) の死体は屋外に放置された場合、およそ十日ほどで白骨化するわけだからな。奴らがこの農場に来たのはそれよりずっと前だ。賊だのなんだのに壊滅させられたのだと仮定すると、その遺体の状態は推して知るべしだろう。

実際には構成機によって分子レベルにまで分解されて肥料になっているから、どこにも見つからないわけだが。装備品もほぼ全て資源化したし、資源化していないものに関しては地下倉庫にしまい込んである。そうそう尻尾を掴むことはできまい。

「いやはや手強い。こうなったら言ってしまいますが、私は貴方と貴方の農場を疑っています」

「なるほど、道理だな。うちはコルディア教会ともタウリシアンとも仲良くしているわけだから、監察部隊とやらと接触した場合にトラブルになる可能性は高い。仮に戦闘になってうちが勝った場合、死体を含めてその全てを闇から闇へと葬ることもできるかもしれん。そうした上でしらを切るなんてこともな」

あくまでにこやかに俺に猜疑の言葉と視線を向けてくるヴォルペに対し、俺は頷きながらそう言った。

「だが、それだからなんだって言うんだ? 疑わしいからとりあえず殺すってんなら受けて立ってやっても良い。その場合、真っ先に死ぬのはお前だぞ」

俺の横にいるミューゼンの拳と触手がシュシュっと風を切る音が聞こえる。元気だなオイ。

それを目にしたヴォルペは苦笑いを浮かべながら肩の上辺りに両手を挙げた。

「はい、はい。この距離で全身義体化している貴方やディセンブラのお嬢さん相手に喧嘩を売るような真似は致しませんよ。私も自分の命は惜しいのでね。しかしそれは半分がた認めたようなものではないですか?」

「何のことだかさっぱりわからんな。疑いの目を向けて仕掛けてくるなら相応に対応すると言っているだけだろうが。その場合、ここから東に三キロメートル程の岩場に隠れているお仲間にも後を追ってもらうことになるから、慎重に行動することを勧めておくぞ」

俺の言葉を聞いたヴォルペの顔が明確に引きつった。馬鹿め、こちらを疑っているお前が万が一に備えて人員を伏せさせているのなんざお見通しだ。

グレン農場を監視しやすい岩場や茂みなんてものの位置はとっくに把握している。敢えて残してあるんだよ、そんなものは。こうやって何かを企む連中はこぞってそういう場所を利用してくれるからな。索敵が逆に捗るってもんだ。

「何のことだかさっぱりわかりませんが、余計なリスクを背負わないのが私のモットーなのでね。今日のところはお暇させて頂きます」

「そうか。この辺りで消えた連中と同じような末路を辿らないことを祈っておいてやるよ。多分余計なことをしないでまっすぐ帰れば大丈夫だと思うがな」

「……肝に銘じておきますとも」

そう言ってヴォルペは部下達を引き連れて来た道ではなく北東方面へと進路を変えて去っていった。偵察ドローンが東の岩場に潜伏している連中も動き始めたのを察知する。ふむ、どれくらいの距離届くのかわからんが、無線機か何かで情報をやり取りしているようだな。まったく油断ならん。今後のことを考えて通信をジャミングする装置を仕込んでおくか。

「逃がしていいの?」

「あの程度の戦力なら一気に十倍襲ってきたところでも怖くもなんともないからな。泳がせておく。そもそも俺は戦場暮らしに嫌気が差してこの星に降り立ったんだぞ。できることなら争いからは距離を置きたいんだよ」

「その割には好戦的。農場の防衛戦力も過剰」

「仕掛けてくる相手には抗うしか無いし、攻めるに容易いと見られれば仕掛けてくる奴が絶えることはないだろう。平穏無事な生活を得るためには力が必要だ」

「そうかな……? そうかも……?」

ミューゼンが触手をうねうねさせながら首を傾げている。そういうものなんだよ。暴力一本でここまで生き抜いてきた俺が言うんだから間違いないぞ。絶対にな。