軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#083 「理想の社会はここにあった!」

「未来最高。さよなら過去、こんにちは未来。私は過去を捨てて 未来(いま) に生きるよ」

翌日の昼過ぎ。エリーカ達が作った飯をたらふく食い、クッションを抱きしめながら娯楽室のソファに寝転んだアイが何か壮大な宣言をしていた。

昨日『ひぃん』とか言って泣いていた女の姿か? これが。

「税金も家賃も光熱費も何もかも無し! 衣食住確約! 仕事時間は朝早いけど日が落ちる前に終わり! 休憩時間も自由! 理想の社会はここにあった!」

「……まぁ、ちゃんと働くなら文句は無いが」

そもそも俺の目的そのものがのんびり農場生活だから、住人達にもそのような生活をしてもらっている。俺一人のんびりして、他の連中は働かせるなんてことはするつもりはない。そういう余裕のない生活にならないように各種作業用ボットを用意しているわけだからな。

「で、今のテックは理解できそうなのか?」

「駄目だね!」

「おい」

「大丈夫大丈夫。色々バラしてればそのうちわかるし、ボスが用意してくれた資料もたんまりあるからなんとかなるよ。フィアちゃんと二人でこのコロニーのテック面を支えるから心配しないで」

気楽な様子でそう言うアイに俺は疑惑の視線を向けた。いや、目はないが。光学センサーだが。

「それよりボス、私のことは聞かないの? どうしてあそこで眠ってたんだとか、そういうの」

「別にお前の過去に興味がないからな」

「興味持ってよ! 聞いてよ! 聞くも涙、語るも涙の経緯があるんだよ!」

「わかったわかった、話したいなら聞いてやる」

彼女の要約すると、アイは凡そ六百年前にこの辺りに入植したシュトローム帝国――当時は共和国――の市民……ではなく、入植した二級市民に連れられてきた四級市民の一人だったらしい。

ちなみに、四級市民というのは当時のシュトローム共和国における奴隷階級の『綺麗』な言い回しだそうな。

「五級市民よりはマシだけどね。一応人間としてカウントされるから。五級市民は資源扱いだったからね」

「奴らのやってることは六百年前から変わってねぇなぁ……」

今のシュトローム帝国にも同じような市民階級制度があったはずだ。奴らの捕虜にだけはなりたくないと傭兵連中の間でも言われていたな。

「ちなみに私は元々は別の国の人間だったらしいんだけど、物心つく前に親ごと共和国に連れ去られて四級市民にされたんだって」

「バチバチに戦争してた頃だろうから、そういうこともあるだろうな」

当時のシュトローム共和国がどのような戦争法規に則って戦争をしていたのかは知らないが、戦場の混乱に紛れて無法な真似を働く連中はどこにでもいる。

「でまぁ、滅茶苦茶にこき使われていたんだよ。一日十八時間労働。寝てる時以外は働けって感じの超ブラック。一応給料は出てたけど、入植地ではそもそも給料を使う場所が無かったよね」

「軌道爆撃を食らうような場所じゃなぁ……で、働いてたら軌道爆撃警報が来て、シェルターに避難して寝て起きたら六百年後か」

「うん、そんな感じ。避難時にわざともたついて、自分以外の全員が冷凍睡眠に入った後に念の為自分のコールドスリープポッドにサブジェネレーターを増設したりとか色々小細工してから寝たの。そのおかげで私だけ無事だったってわけだね!」

迫真のドヤ顔である。クッションを抱いてソファに寝転んだままだが。

「別に涙が出るような部分はなかったな」

「あったじゃん! シュトロームのクソ野郎共に奴隷にされたとことか! 超絶ブラック労働を強いられてたとことかさぁ!」

「そうか。俺から見ればまだ『マシ』だ。お前は幸運だと思うぞ」

四級市民にされてこき使われていた、ね。確かに最高の待遇とは言えないんだろうが、少なくともアイは生きている。手足がどこか吹っ飛んでいるわけでもないし、寄って集って嬲りものにされていたようにも見えない。アイにはアイなりの苦労があったんだろうがな。

「まぁ、寝て起きたら六百年も経ってて知り合いも何も残ってない一人ぼっち、って部分には大いに同情するがな。さ、休憩は終わりだ。仕事をするぞ。今を掴み取ったお前の機転を活かしてみせろ」

そう言って俺は立ち上がり、ソファで寝転んだままのアイに手を差し出した。彼女は不満げに頬を膨らませつつ、それでも俺の手を取ってソファから起き上がる。よし、良い子だ。

☆★☆

「ただいま戻りましたぁ~、あら? そちらが噂の新人さんですかぁ?」

フィアとアイと俺の三人で作業場に篭って作業をしていると、フィアの故郷であるノーアトゥーンに商売に行っていたライラが顔を出した。昨日出て一泊して今日帰ってきたんだな。帰りにレイクサイドにも寄ってくると言っていたが。

「おかえり。無事なようで何よりだ。アイ、挨拶しろ」

「はい! アイ・ヒダカです! よろしくおねがいします!」

「あらぁ、元気ですねぇ。ライラですぅ、よろしくねぇ。タウリシアンのまとめ役をしてますぅ。グレンさんの第二夫人ですよぉ」

「うわでっか……え? 第二夫人?」

眼の前のライラを見上げた後、アイが首を傾げる。ああ、そういえばコルディア教会関係の話はしてなかったか。

「エリーカの方針、というか彼女の信条……信仰……思想? の関係でな。一夫多妻を推奨しているんだと。まぁ、俺としては嫁達がそれで良いならってことで受け容れてる」

「えぇ……? いや、まぁシュトローム共和国でも一級市民とか二級市民だとそういう人もいましたけど。エリーカさんと、ライラさんと、他には……?」

「フィアも旦那様の妻ですよ。あとスピカさんとミューゼンさんもですね」

「フィアちゃんも!? そういえば旦那様って呼んでたけどそういう!? というか五人も!? えっ、入るの? 良いの? フィアちゃんだよ? 犯罪じゃない?」

アイが俺とフィアとの間で視線を忙しなく行き来させながら驚愕の声を上げる。わからんでもないがな。俺とフィアだと体格差がえげつないし。

「大丈夫です、フィアは頑丈なので。あと、フィアは大人ですからね? ちゃんと旦那様の子供だって産めます」

「駄目じゃん。絶対駄目じゃん。こんな純粋な子を毒牙にかけているなんて見損なったよボス」

「人聞きの悪いことを言うな。フィアはドワーフだぞ。俺達から見ると幼く見えるが、れっきとした大人の女性だ」

「はい。フィアは今年で三十歳ですよ」

「ウソォ!?」

フィアの年齢カミングアウトにアイが驚愕の表情を浮かべる。今、グレン農場で一番歳を食っているのはハマル司祭で、次点が多分た三十五歳以上四十歳以下くらいの俺。その次がフィアで、実はハマルを除いた女性たちの中では一番年上だったりする。見た目はその、少女にしか見えないが。

「アイちゃんもグレンさんの妻になりますかぁ? 見たところ普通の人間ですよねぇ? 同じ普通の人間のお嫁さんも居て良いと思いますよぉ、私は」

「すごい気軽に誘ってきますね!? そんな気軽な話じゃないですよね!?」

「この農場の主の女になれば、アイちゃんの立場も安泰ですよぉ?」

「なるほど……? それは魅力的な話ですけど、もう少し考えさせてください。私、ボスのことよく知らないので」

「それは別に良いですけどぉ、酒造り職人さんのところにも未婚で適齢期な女性がいるのでぇ、早いもの勝ちになるかもしれませんよぉ?」

未婚で適齢期の女性ってアレックスの奥さんの妹のマリーサか。確かに未婚で適齢期の普通の人間の女性だけど、あんまり話したことないぞ。ライラめ、アイをけしかけて何を企んでいるんだ?

「はいはい、その話はそこでやめ。それより交易の結果を聞かせてくれ。何か預かってきたものもあるんじゃないのか?」

「はぁい。フィアちゃんに手紙とかもありますからぁ、荷下ろししている倉庫の方に行きましょうかぁ」

そう言ってライラはにんまりと笑みを浮かべた。たまに何を考えているかわからんな、ライラは。いや、何をっていうか俺の嫁を増やそうとしているんだろうが。