軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#029 「それを言うな……」

翌日。まだコルディア教会からの連絡はない。

今日はエリーカとミューゼンの二人で周辺での採取をしてくるということだった。なんでも少し離れた場所にリンゴという果樹が群生しているところがあるそうで、野生種だから生食にはあまり向かないが、ジャムにはできるという話だった。リンゴのジャムか。どういうものかわからないが、楽しみだな。

一方、俺は何をしているのかというと。

「形になってきたな」

「はぁい、こういうのって夢だったんですよねぇ」

そう言って俺とライラが見上げる先には一つの建物――いや、店舗があった。まぁ、奇抜なところは何一つない建物だ。内装には少し力を入れているが。

「殆ど武器店だよな」

「この居住地の主力商品ですからねぇ……鹵獲品の武器は」

店舗の中には銃器だけでなく、鹵獲されたナイフだの槍だの剣だのまで陳列されていた。その他にもエリーカの作ったラズベリーのジャムやドライフルーツ、、ガッツリと水分を抜いて燻した干し肉やドライソーセージの他、ペミカン――獣脂と干し肉が主原料の高カロリー保存食――なども並べられている。

干し肉やドライフルーツ、ドライソーセージ、ペミカンなどの保存食が商品として並んでいるのはエリーカとライラの功績だな。彼女達の提案で大型の食品乾燥機を数台作ったのだ。伝統的な自然乾燥を用いた天日干しや陰干しでは数日から下手すると一週間や十日ほどの時間がかかる乾燥作業も、食品乾燥機を使えば丸一日くらいで終わる。それで乾燥食品が量産できるようになったわけだな。

「うーん、これ以上の商品追加となると、缶詰かフリーズドライ製品といったところか」

「この辺りではあまり出回っていませんけどぉ、上の三国の監視兵団が駐屯している周辺地域ではそういうのも出回ってますねぇ」

ライラの言う『上の三国』というのはリボース星系を緩衝星系として睨み合っている三つの星間国家のことだ。奴らはこのリボースⅢが他の二国によって実効支配されないように監視兵団をこのリボースⅢに派遣しており、現地勢力の一部を取り込んで代理戦争じみたことをしていると聞く。

奴らの息がかかった勢力には星間国家由来の高度なテクノロジーや物資がある程度供給されていて、その中にはライラが言ったような缶詰やフリーズドライ食品を作るテクノロジーも含まれているというわけだな。

もっとも、その程度の技術なら俺も持ち込んでいるので、時間と資材を投入すればそれらを作成できる作業機械も製造可能なわけだが。

「でも、あんまり手の内を晒すのもですよねぇ」

「そうだな。まぁ、あんなものを店内に配置してる時点で手遅れといえばそうなのかもしれんが」

店内の天井に複数配置されている小型のレーザーガンタレットを見上げながら肩を竦める。

屋外に配置されているレーザータレットに比べると威力も射程も控えめだが、ソフトターゲットが相手なら十分に対象を殺傷できるだけの威力があるものだ。まぁ、小口径低品質のレーザーガンをタレットに転用したものだな。集束レンズやレーザー発振器、内部コンポーネントなども構成機と作業場の作業機械ででっち上げた間に合わせ品だ。

「レーザーガンとかは作れないんですかぁ?」

天井に鎮座しているレーザーガンタレットを見上げながらそう聞いてくるライラに、俺は同じく天井のレーザーガンタレットを見上げながら応じる。

「現状では難しいな。製造できる集束レンズの精度は甘いし、レーザー発振機の品質も最低限のものしか作れない。キャパシターもダメだな。何より、今の設備じゃエネルギーパックが製造できん」

「えっとぉ……つまりぃ?」

「今の設備でゴミみたいなレーザーガンをでっち上げるくらいなら、実弾銃を作ったほうがマシだ」

エネルギー網に直接接続するレーザーガンタレットだから許容できるレベルの性能になるのだ。

レーザー兵器の肝はキャパシターだからな。励起状態のエネルギーをどれだけ素早く貯留し、放出できるかで連射速度が決まるし、どれだけの量貯留できるかとレーザー発振機の品質で最大出力が決まる。また、出力とレンズの精度によって射程が決まる。何にせよ高品質のエネルギーキャパシターが作れないと、まともなレーザー兵器は作れない。大出力のエネルギー網に直接接続するならその問題はある程度無視できるんだがな。

「作るんですかぁ?」

「うちは農場であって、武器製造工場じゃないからな。まぁ、身内用に高品質、高精度の武器を少量作るくらいなら良いと思うが」

例えばスピカ達の面倒をうちで見るということになったなら、彼女達用にもっとマシな銃を作るのはアリだと思う。今のところ、そういう未来が訪れるかどうかはわからんが。

「まぁ、今のところ最初の客もまだなんだ。商品の拡充に関してはおいおい考えていけば良いんじゃないか」

「そうですねぇ……うーん、弾薬くらいはいけません?」

「弾薬か……考えておく」

実弾銃の弾薬製造は然程難しくはないからな。少なくとも、レーザーガンやレーザーライフルに使うエネルギーパックに比べれば何ということはない。ただ、数を作るとなると結構資材を食うんだよな……まったく、エコじゃない武器だよ。

☆★☆

「それで、今は弾薬の製造施設を作ってる?」

「そうだな」

「あんまり農場っぽくない」

「それを言うな……」

作業場に弾薬製造用の自動化ラインを作っていたところにミューゼンが来たので説明していたのだが、ストレートに俺が気にしていたことを指摘されて思わず少し凹む。凹んだ俺の頭にミューゼンが触手を伸ばして撫でてきているんだが、それは慰めているのか?

まぁ、製造ラインなんて言っても作業機械そのものは大した数ではない。弾頭、薬莢、装薬、雷管の製造にそれぞれ特化した製造装置と、それらの装置から出力された弾薬の材料を実包として組み上げる装置をラインで繋ぎ、統合するだけだ。製造装置の設計図も弾薬の設計図もテクノロジーデータアーカイブにあったので、作業用ボットに指示を出したらあとは眺めているだけである。

もっとも、ただ眺めていても仕方がないから鹵獲品の銃器を整備しながら眺めていたわけだが。そこにミューゼンが現れて俺の繊細な心を抉ったというわけだな。

「それで、そっちの成果はどうだったんだ?」

「リンゴ、たくさんとれた。これ」

そう言ってミューゼンが懐から赤く色づいた果物を取り出して差し出してくる。拳よりは少し小さいそれは、作業場の照明を照り返してピカピカと輝いていた。

「食えるのか?」

差し出されたそれを受け取り、ためつすがめつしてみる。結構硬いな。野イチゴ――ラズベリーは注意して触らないと指先で潰してしまうくらい柔らかいものだったが。

「そのまま食べられる。食べてみて」

ミューゼンに言われるままに果実の側部を齧り取って咀嚼する。うん、酸っぱい。ラズベリーとはまた方向性が違う香りと酸味だな。甘みは……仄かにあるか? シャクシャクとした食感は心地良いな。酸っぱいけど。

「酸っぱいな」

「うん、野生種だから。栽培種はもっと甘い」

ミューゼンが俺の手にあるリンゴに顔を寄せて一口かじり取る。

「そうなのか。だからジャムにするって言ってたんだな」

「そう。でもパイとか焼きリンゴにしても美味しい。ドライフルーツにもできる」

「ほう……是非食ってみたいものだな」

ミューゼンと二人で一つの酸っぱいリンゴを齧りながらリンゴの利用方を教わる。すぐにリンゴは芯の部分だけを残して俺とミューゼンの腹に収まった。

「この部分は食べられないんだな」

「この部分は生ゴミとして捨てる」

「そうか」

そういうことならと作業台の近くに設置してあるゴミ箱に捨てておく。後で清掃ボットが回収してくれるだろう。

「なんか少し食ったら小腹がすいたな。エリーカにおやつでもねだりに行くか」

「賛成」

ミューゼンの触手がピーンと頭上に向かって伸びる。それは喜びの感情の表現なのか? よくわからんが、嬉しいみたいなのでヨシ。さて、宣言通りエリーカにおやつでもねだりにいくとしよう。