軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第59話 最愛の人

シャロルが去った後、程なくしてオスカーや使用人たちがやってきた。

ローガンが一通りの事情を説明した後、気絶したままのメリサはどこかへと連れて行かれた。

ローガンにどこに連れて行かれたのかとアメリアが聞くと、『牢』との事。

大戦の名残りか何かで地下にあるらしい。

彼女の処遇に関してはこれから協議されるそうだ。

一方、アメリアはというと……。

「本当にすまなかった」

屋敷に入ってすぐの応接室に入るなり、ローガンに頭を下げられた。

「え、えっと……あの?」

何に対する謝罪かわからないアメリアは狼狽する。

頭を下げたまま、ローガンは続ける。

「君の実家から、使者が来る想定はしていた。だがこれほど早いとは思ってなく、直接俺の許可が出るまで何があっても通さぬよう門番へ伝達する事が抜けていた……全て、俺の責任だ……」

心底申し訳なさそうに言うローガンに、アメリアはおろおろしながら言葉を投げかける。

「そんな、謝らないでください……それを言うなら私も、一人で不用意にうろうろしてしまったのが原因ですし、門番の方へ私がちゃんと言っていれば、メリサを入れるという事態にはならずに……きゃっ」

言葉は途中で中断させられた。

突然の衣擦れの音。

自分以外の吐息、熱、鼓動、そして、がっしりとした感触。

シトラス系の落ち着く匂いが、今までで一番強くアメリアの鼻腔をくすぐる。

ローガン様に抱き締められた。

と頭が追いついた瞬間、頭を包み込むように回された腕に力が篭って。

「……君が無事で良かった」

心の底から漏れ出た、安堵の声。

「君の身に何かあったらと……失ってしまったらと、本当に……怖かった」

その声は、微かに震えていた。

腕も、震えていた。

「……ローガン様」

自分よりも大きな背中に、アメリアも両の腕を回す。

「私は、ここにいますよ」

「…………ああ」

しばらく、そうしていた。

女性としても小柄なアメリアは、抱き締められるとちょうどローガンの胸のあたりに頭がくる。

とくん、とくんとローガンの鼓動が聞こえてくる。

そのたびに、胸の奥がきゅうっと締まった。

(ああ……そっか……)

気づく。

初手で契約結婚と言われて、なるべく考えないようにしていた自分の感情に。

それはもうずっと以前から、アメリアの底に芽生えていた。

もっとローガン様のことを知りたい。

もっとローガン様と色々なところに行きたい。

もっとローガン様と色々なものを食べたい。

もっと、もっと、もっと。

これからもずっと、ローガン様と一緒にいたい。

そんな“もっと”がたくさん溢れて止まらなくなる感情。

こうして抱き締めあっているだけで心臓がうるさいくらい高鳴って、顔が熱くて、夢見心地で……。

こんなにも幸せな気持ちにさせてくれる感情は、ひとつしかない。

(私は……ローガン様のことを……)

どうしようもなく──。

「……すまない、急に」

アメリアが自分の気持ちを言葉にする直前。

ゆっくりと、ローガンが身体を離した。

見ると、ローガンは視線を逸らし口元に手を当てていた。

彼が、気恥ずかしさを覚えている時にする仕草。

その仕草すら、胸がきゅんと妙な音を立てる。

「その、お気になさらず……夫婦なんですし」

言いつつも、アメリアの方も茹で上がりそうだった。

夫婦のような落ち着きはなく、これじゃあ付き合いたてのカップルだ。

妙に気まずい間に耐えかねて、アメリアは話を振る。

「そういえば私も、謝らなければいけません」

「何をだ?」

「ローガン様から初めて買って頂いたペンダントを……壊してしまいました」

アメリアがしょんぼりして言うと、ローガンは「ああ、そんなことか」と前置く。

「気にするな。ペンダントはまた買えばいい。それに……」

小さく、ローガンの口角が持ち上がる。

「むしろ、あの侍女がそのペンダントを壊した事は、良い方向に転ぶかもしれない」

言葉の意図を理解する前に、ローガンがアメリアの頭に手を乗せた。

そのままわしゃわしゃ撫でられて、アメリアは頭がぽーっとなる。

そんな頭に浮かんだ問いを、ローガンに投げかける。

「また一緒に、買いに行っていただけますか?」

「ああ、何度でも」

その言葉が聞けただけで、充分だった。

いや、充分じゃない。

まだ聞きたいことがあった。

「ローガン様」

「なんだ?」

「クラウン・ブラッドのもう一つの石言葉は」

「最愛の人」

淀みない口調で、ローガンはその言葉を口にする。

その七文字の単語を理解するのに、アメリアは数秒の時を要した。

「あ……えっ……?」

頭が追いついたが、今度は気持ちがついてこない。

構わず、ローガンは続ける。

「最初は契約結婚で、ドライな関係で済まそうと思っていたが……今は違う」

澄んだブルーの瞳が、アメリアを真っ直ぐに捉える。

未だおろおろした様子のアメリアの両肩にそっと手を添えて。

「俺は、アメリアを愛している」

紡がれたその言葉は、すとんとアメリアの心に落ちてじんわりと広がっていった。

今度は、気持ちもついてきた。

その瞬間、瞳の奥にもじんわりと熱が灯った。

目尻に浮かんで、頬を伝い落ちた雫をローガンが指先で拭う。

「……涙は辛くて痛い時以外にも出る事を、初めて知りました」

涙を零しながらも笑顔を浮かべるアメリアを、ローガンはとても美しいと思った。

それから、ローガンは尋ねる。

「君は、どうなんだ?」

そんなの、決まっている。

さっき答えは出たんだから。

いや、答えは多分、ずっと前から決まってたんだ。

今まで、呼んでいいのか迷って結局口にしていなかった呼び名で。

ローガンの目をまっすぐ見つめてから、アメリアもその言葉を口にした。

「私も、旦那様を愛しています」