軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第166話 無くなったペンダント

アメリアがペンダントの紛失に気づいてから、ローガンの動きは速かった。

「ペンダントが無くなった?」

驚きの表情を隠せないローガンが尋ねる。

「はい……ずっとつけていたはずなのですが……」

アメリアは動揺を隠しきれず、額に手を当てて震えるように呟いた。

声は不安にかすれ、目には焦燥の色が浮かんでいる。

「とりあえず、手分けして探そう」

ローガンとシルフィたち使用人が部屋に集まり、捜索が始まった。

ベッドの下や小物入れ、クローゼットの奥までもくまなく調べる。

その手つきは焦りを含んでいて、いつも慌て気味な手つきも一層乱れていた。

ローガンも黙々と部屋の隅々を調べ、シルフィもサイドテーブルやカーテンの裏などを念入りに確認していく。

「いつから無くなったのか、覚えていないのか?」

しばらく探すも見つからず、ローガンが尋ねる。

その声には落ち着きがあり、アメリアを気遣う優しさが滲んでいた。

「それが……さっぱりなんです。昨日の朝、身支度の際には着けたのを覚えているのですが……」

必死に記憶を手繰り寄せるようにしてアメリアは答えた。

声にも焦りが混じり、視線はうつむきがちだ。

「もし見つからなかったら……」

と、アメリアが声を震わせながら言葉を溢す。

常に胸元に感じていたペンダントの重みが、今はないことに気づかなかった自分が歯がゆく、悔しかった。

「朝から何事でしょうか?」

「ナニゴトデショウカ! ナニゴトデショウカ!」

廊下から、ミレーユ夫人の声が響いた。

彼女の頭には、ナンポーインコのエルリーフがちょこんと乗っている。

その後ろからは、すっかり慣れた様子のホワイトタイガーもついてきた。ホワイトタイガーはミレーユに信頼を寄せているのか、やわらかい目つきで彼女に寄り添っている。

「それが……」

アメリアが事情を説明すると、ミレーユは深く頷いた。

「それは、使用人総出で探さなければいけませんね」

ミレーユの声が一気に真剣さを帯びて、すぐに使用人たちに指示を出した。

屋敷中の使用人たちが一斉に動き出す。

使用人たちは手分けして、アメリアが立ち寄った可能性のある場所を隅々まで確認することになった。

庭や廊下、食堂から寝室まで、あらゆる場所が調べられていく。

「お手間をおかけして申し訳ございません……」

アメリアはミレーユに向かって深く頭を下げた。

見るからに肩を落としてしょんぼりするアメリア。一方のミレーユはやわらかな微笑みを浮かべる。

「気にしないで。命を救っていただいた恩に比べたら、こんなの安いものよ」

肩を軽くすくめて、冗談めかして言うミレーユの言葉には温かみがあった。

「……ありがとう、ございます」

ミレーユの一言で、アメリアの胸の中に少しだけ安心感が広がった。

それから使用人たちは屋敷のあらゆる場所を探索したが、ペンダントの行方は依然として不明のままだった。

庭の隅々まで探し、アメリアが立ち寄ったバルコニーや温室、動物たちの食堂まで確認したが、どこにも見当たらない。

「ないな……」

ローガンが重いため息をつきながら言った。

眉間には深い皺が刻まれ、難しい顔をしている。

「めぼしいところは探したのですが……ありませんね」

シルフィも首を振りながら、残念そうな表情を見せた。

それからシルフィが少し困ったようにローガンに言った。

「ローガン様、そろそろ身支度を整えないと、船の時間が」

彼女の視線は壁にかけられた大きな時計に向けられていた。

時計の針は帰りの船の時間が近づいていることを無情に知らせている。

「そうか……もうそんな時間か」

ローガンが時計の針を見て、複雑な表情を浮かべた。

もどかしい気持ちはありりつつも、ローガンはアメリアに言う。

「アメリア、一旦切り上げよう」

ローガンの提案にアメリアは沈黙する。

少し思案する表情をした後、しっかりと首を振った。

「申し訳ございません、ローガン様。もう少しだけ……探させてくれませんか?」

「と言ってもな……また同じペンダントを買うのでは、ダメなのか?」

ローガンは再度言葉を重ねる。

するとアメリアは、もう一度首を振って、懇願するような瞳をローガンに向ける。

「あれじゃないと駄目なんです」

その一言には、ローガンにとっても予想外の切実な感情が込められていた。

普段はどちらかといえば控えめで、自己主張をすることも少ないアメリア。

そんな彼女が、こうして強い気持ちを言葉にして伝えてきたことに、ローガンは少なからず驚きを覚えた。

アメリアが続ける。

「あのペンダントは……ローガン様がはじめて買ってくれたもので……」

アメリアの言葉に、ローガンは目を見開いた。

無くしたペンダントは、ローガンが以前、アメリアのために選んでくれたものだった。

初めて二人で街に出掛けた時に買った、ローガンからの初めての贈り物ということで、アメリアにとっては大切な思い出が詰まった宝物だ。

一度、元使用人のメリサに引きちぎられるという悲劇に見舞われたが、ローガンが修繕してくれたものを再度手渡してくれた。

「アメリア……」

ローガンの胸が一瞬で熱くなった。

アメリアのそばにずっといる自分が、ここまで彼女の気持ちを理解していなかったとは、と。

自分が贈ったものを肌身離さずつけてくれたアメリアの姿が脳裏に浮かび、ローガンは自身の無理解に心が苦しくなる。

ローガンが何も言えずにいると、状況を察したミレーユがアメリアに優しく提案した。

「アメリアさん、心配しないで。もし見つかったら、すぐに領地に届けるから……」

「ありがとうございます、ミレーユさん……」

ミレーユの言葉に、アメリアは頭を下げる。

しかしその瞳には涙がにじみ出そうになっていた。

──その時、黙って状況を見守っていたホワイトタイガーがアメリアに近づき、手元にそっと鼻先を寄せて匂いをかいだ。

「ど、どうしたの?」

アメリアが驚きながらも尋ねると、ホワイトタイガーはアメリアの匂いを確認するように何度か鼻をすんすんと鳴らした後、くるりと向きを変え、部屋のドアの方へまっすぐに向かっていった。

そして、低く「ぐるる」と唸り、鋭い視線をドアに向けて何かを促すかのような仕草を見せた。

「開けて欲しいのか?」

ローガンが首をかしげ、他の者たちも思わず顔を見合わせる。

そんな中、ミレーユが察したように言った。

「ホワイトタイガーは非常に頭の良い動物です。きっと、何か伝えたいことがあるのでしょう」

ミレーユはゆっくりとドアの方へ向かい、ホワイトタイガーの前で開けてやった。

すると、ホワイトタイガーは一歩踏み出し、廊下へ出ると再びこちらを振り返った。

まるで、「ついてこい」と言わんばかりだった。

「……よくわからないけれど、ついて行ってみましょうか」

「そうだな……シルフィ、先に荷造りを頼む」

「かしこまりました」

シルフィに指示を出した後、ローガンはホワイトタイガーの元へ歩く。

その後ろをアメリアとミレーユもついていった。

ホワイトタイガーは満足そうに前を向くと、堂々とした足取りで廊下の奥へと進み始めた。