軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2:お世話になりました!

「では、長い間お世話になりました」

「は…………?」

おやつどきの三時。

元夫だった 男(ひと) が部屋を訪れ、なぜか菓子とお茶を用意しろと言いました。

ニヤニヤしながら、泣いて縋って使用人でもいいから側においてください、と言うのなら考えてもいいとか、ほざい……申し出て下さいました。

笑顔で間に合ってますので、大丈夫ですとお断りしました。

しかし、出て行けと言ったのに謎です。使用人は足りているでしょうに。

まぁ、元より気分屋の方なので、言うことはコロコロ変わります。離縁や再婚やらも、そんな感じで決められたのでしょう。

新しい奥様が献身的な方だといいですね。

屋敷を出る準備も終えましたし、トランクを持ち元夫に挨拶をして玄関へと向かいました。

後ろで何やら叫ばれていますが、いつもの癇癪のヤツでしょう。私はもう妻でもなければ使用人でもないので、聞く必要がありません。

自由っていいですね!

屋敷の門を出て、目の前に広がる貴族街に別れを告げ、平民街を目指しました。

徒歩ですと二時間は掛かりますが、久しぶりの外歩きで気分は晴れやかですし、散歩がてら周囲の景色を楽しみつつ向かいたいと思います。

夕方目前の空が薄紫に包まれだしたころ、平民街に到着しました。

先ずは、ずっとやってみたかった、カフェでのティータイムにしましょうかね。

商店街のような通りを歩いていると、色んなお店が立ち並んでいました。ステーキ専門店なんてものも。そういえば、ステーキって食べたことがないかもしれません。

元夫だった男はよく食べていましたが。焼き加減に煩く、少しでも焼きすぎていると床に投げ捨て踏みつけていたのを思い出して、少しモヤッとしてしまいました。

色々なお店を眺めつつ進んでいると、他の建物より少し大きめのカフェがありました。

お店から出てきた方とすれ違ったのですが、とてもにこやかな表情でした。そして、コーヒーのとてもいい匂いをふわりとさせていました。

入口からそっと中を覗くと、少しだけ短めの黒髪を横に流したメガネの店主さんと目が合いました。

「いらっしゃい、どうぞ」

柔らかな微笑みと一緒に、誘導するように手のひらを動かされたので、つられて店中に一歩踏み入れてしまいました。

ふわりと香るのは、芳ばしくもあり爽やかでもあるコーヒーの香りと、なんだかお腹がなってしまいそうなお料理の匂い。

「あの、こちらはお料理も出されているのですか?」

何人かいたお客さんの前には空のお皿があったのですが、何を食べられたのかは分からず、そう聞いてみました。

「あぁ、軽食からガッツリめのまでありますよ」

メニューを手渡されましたので、視線をそちらに落としました。

エッグベネディクト『朝にオススメ』

トースト&ベーコンエッグ『安い早い!』

パストラミビーフサンド『肉の量は応相談』

ミートボールパスタ『ガッツリ系』

プレート料理『その時の気分で色々変わる』

メニュー名の横に、店主さんのコメントが書かれていて、なんだか面白かったです。

お昼を抜いていましたので、少し多めに食べたいことを伝えると、それならプレート料理がおすすめだと説明してくださいました。

今日は、チキンステーキを挟んだサンドイッチ、揚げたポテト、茹で野菜とハニーベースのドレッシング。それに牛テールのスープだそうです。

「ぜひ、それをお願いいたします」

「ほいよ」

しばらくして到着したプレート料理は、なんというか全てが輝いて見えました。

サンドイッチはただ切っただけではなく、少し斜めにカットしてあり、並べ方も工夫されていました。目で見て楽しむ、といった感じでしょうか。

平民街にはこんなにもお洒落な食べ物があったのですね。

今まで厨房の隅で食べていた、二日前のパンと具無しスープ、くず野菜炒めと比べ物にならないほど美味しく、空腹で鳴いていたお腹を充分に満たしてくれました。