軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.駄目な人

どうしましょう、今すっごく幸せです。

「これね、すんごくおいしいんだよ!」

「これは私が選んだの。とっても綺麗でしょ?」

お二人から王都土産をたくさん頂いてしまいました。

美味しいお菓子に綺麗な硝子細工。私のことを忘れないでいてくれたことが嬉しくて仕方がありません。

「ミッチェはうさぎさん。姉さまがねこさんで、ぼくはおおかみさんなの!」

「これ、どう見ても犬でしょ」

「おおかみさん!」

ガラスで作られた動物の置物は、キラキラしていてとっても綺麗です。

「では、狼の子どもかもしれませんね」

「そうなの、つよいんだよ!」

がおーっと真似っ子している姿は可愛らしいですけど、その仕草は熊なのではないでしょうか。

でも、やはり馬車移動が疲れたのでしょうか。少し眠たそうです。

「そろそろお昼寝にしましょうか」

「えーっ、やだ!」

言うと思いました。でも駄目ですよ?

「じゃあ歌って?ミッチェの歌が聞きたいわ」

「いいですよ、何がいいですか?」

「そうね、……海の歌がいいな」

「にんぎょさんの?」

「そうよ」

人魚の少女が恋をする歌。恋の相手は人魚ではなく、人でもない。海に沈んだ船の中で見つけた、美しい青年の肖像画に人魚は恋をしてしまうのです。

少しずつ朽ちていく絵に、どうしようもない恋心を抱く人魚の少女の、美しく、少し物悲しい歌です。

子供向けの内容ではありませんが、メロディーがとても綺麗で私のお気に入りでしたので、つい、フェミィ様達にも歌ってしまいました。まさか気に入られてしまうとは思わなかったのですよね。

「絵が波にさらわれてなくなってしまったら、人魚の恋も終わるのかしら」

「どうなのでしょうね。残念ながら恋をしたことがないので、私には分かりませんわ」

「ミッチェは子供ね。まあいいわ、早く歌ってちょうだい」

……七歳児に子供だと言われてしまいました。かなりショックです。だって恋なんてする暇がなかったのですよ。言い訳ですけどね。

恋心を知らない私ですが、優しく切ない人魚の恋を歌いました。

ゆったりとした美しい旋律は、お二人を優しい眠りに誘うことに成功したようです。

やはり疲れていたのでしょう。お二人ともすぐに眠ってしまわれました。

「奥様、少しよろしいでしょうか」

「何かあった?」

ポーラが神妙な表情でそっと話し掛けてきました。

そのまま私の部屋まで移動します。

中に入り話を聞くことになりましたが、それはまったく想像しなかった話でした。

「ダイアナ様の右足がない?」

「……はい。膝から下がございませんでした」

そんな……事故?それとも……

「……お二人は今、何をされているのかしら」

「ダイアナ様が旅の疲れか熱が出てしまって、今、医師を呼びに向かわせております」

「旦那様は?」

「ダイアナ様の側を離れません」

それは仕方のないことですが、今、お話を聞くのは難しいですわね。

「医師の診察が終わったら話を聞けるかしら」

「残念ながら家族でもありませんし、病状を洩らしたりはしないかと思われます」

では、やはり旦那様に聞くしかないのね。

「分かりました。お医者様にはダイアナ様のお食事などの生活面での注意事項を聞いておいて。

旦那様の食事も部屋に持って行くように。運ぶのは口の固い子にしてちょうだい」

「では、私が参りましょう。ダイアナ様も顔見知りの方が安心なさるでしょうから」

「……あなたにそんなことまでさせて申し訳ないわ」

「お任せください。旦那様には何か伝言いたしますか?」

どうしようかしら。本当は早くお話をしたいけれど。

「たぶん、今日の旦那様には私を構う余裕などなさそうだわ。また、明日にでも様子を見てお願いすることにするわね」

「……畏まりました」

「あ、王都まで同行したメイドと話がしたいわ」

「では、すぐにこちらに向かわせます」

「よろしくね」

次から次へと問題が起きるものなのですね。

旦那様はダイアナ様に一点集中でこちらを見向きもしませんし。子ども達のことすら頭にないのではないかと心配になってしまいます。

それにしても片足を失うだなんて。

フェミィ様達はこのことを知ってしまったのかしら。でも、それにしてはお母様と離れてしまっています。

「奥様、旦那様に同行していたメイドです」

「疲れているのにごめんなさい。王都でのことを簡単に教えてくれるかしら」

はい、と頷いてから、少し緊張した面持ちで話し始めました。

「旦那様は王都に着いてすぐダイアナ様の家に向かいました。

ですが、ダイアナ様はかたくなに会うのを拒否しておられました。

旦那様は一日中ダイアナ様の家の前で待ち続けて、お嬢様達はタウンハウスでお留守番して、ずっとあちらの使用人が面倒を見てくれていました」

「何ですって?!」

子供達を任せきりだなんて。それならどうして連れ行こうと思ったの!

「数日過ぎたあたりで、ようやく子ども達も一緒に来ていることをダイアナ様に伝えたみたいで」

何故先に伝えないのかしら。それとも、一緒に戸口で待たせなくてよかったと思うべきなの?

確かに、両親の口論を聞かせたくなかった気持ちも理解はできるけれど。

「その後は旦那様との話し合いというか口論になったようで……とうとう旦那様が泣き叫ばれて、仕方なく、とりあえずは屋敷に戻ることになったみたいです。室内にはお二人だけでしたので、会話の内容は分かりません。

やっと戻ることになったのですが、馬車の中で旦那様の再婚を知って、ダイアナ様が飛び降りようとなさって!

そこでまた揉めに揉めて、帰るのがさらに遅くなってしまいました」

メイドからの話は聞いているだけで頭が痛くなるものでした。旦那様は本当に駄目な人のようです。

いえ、子ども達の前でそのような振る舞いをしたダイアナ様にも物申したいところ。

「大変だったわね。同行してくれたあなた達には特別手当をつけるから。本当にご苦労様」

「え?!あ、ありがとうございます!」

旦那様、許すまじ。フェミィ様達を放置していたってどういうことですか!

あら?では、あの素敵なお土産も旦那様とではなく、使用人達と買いに行ったのかしら。両親の修羅場を見るよりは王都見学をしているほうがよっぽど楽しかったかもしれません。

しかし、まる一日家の前に大男が 佇(たたず) む……通報されなくてよかったです。伯爵家の黒歴史が増えるところでしたわ。

それにしても、駆け落ち相手はどこに行ってしまったのでしょうか。