軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

992 トリスメギストスの興味

「ふむ? そう言えば、ゲオルグたちがティラナリアと少女を連れていたな? あれがそうなのであれば、いるぞ」

「っ!」

トリスメギストスの言葉に、フレデリックが殺気立つ。それは、フランも同じだった。

だが、どうしてこんなにあっさりとばらした? 竜人王と協力関係にあるとなれば、フレデリックだけではなくイザリオも敵に回る可能性があるんだぞ?

その危険性を理解できないほどの馬鹿には思えないが……。それとも、自分の強さに自信があって、敵に回してもいいと思っている?

俺たち全員が不審に思う中、フレデリックが激情を抑え込んだ声で問いかけた。

「お前は、竜人王と手を組んでいるのか?」

邪竜人としての力が増したせいで、精神が不安定になっている今のフレデリックは、答え如何ではすぐにでも飛びかかるだろう。

そんな爆弾のような気配を漂わせるフレデリックを前にして、トリスメギストスには僅かな揺らぎさえなかった。今まで通りの態度で、あっさりと口を開く。

「手を組む? それはないな」

「本当に? そいつらが悪人でも?」

「大罪人たる我が、そのようなことを気にするわけなかろう。そもそも、外のことに興味はない。悪人も善人も、聖人も罪人も、我にとっては等しく他人。それ以上の意味はない」

「このお城で、悪いことしてるかもしれない」

「我が居城への立ち入り制限は、外の者らが勝手に設けたもの。我は来るもの拒まず、去る者は追わず。そなたらも、好きにせよ。何をしようとも、我は咎めぬ。それが悪行であっても、善行であってもな」

フランに質問させて虚言の理を使ったが、トリスメギストスの言葉には僅かな嘘もなかった。この男にとって、本当に他人はどうでもいい存在であるらしい。

この城の中で何をしていようが、自分の邪魔にさえならなければ興味がないようだった。なるほど、ちょっとだけ怪物性の片鱗が見えた気がする。

「とは言え、この大陸の強者が増えることは喜ばしい。故に紅蓮刃。其の方は別だ」

他人に興味がないと言い切るこの男がわざわざ第二部隊を出迎えた理由は、イザリオにあったらしい。

自身に課せられた使命である、深淵喰らいの討滅。その使命達成の大きな力となる強者だけには、多少の興味があるようだ。

「あとは……巫女の弟とこの娘も、いずれ討滅の一助となる可能性がありそうか? 励むがよい」

冒険者の強さで言えばランクA並でないと、気にかけてももらえないらしい。この男に興味を持たれることが、良いことかどうか分らんけどな。

俺たちの場合はインテリジェンス・ウェポンについての話を聞く目的があるので、顔を覚えてもらえたのはプラスと言えるだろう。

『フラン。さすがに今すぐは無理だ。ここでできる話でもない』

「ん……。私はあなたに用がある。落ち着いたら、話を聞きたい」

「ほう? 別に構わんぞ。其の方であればな」

「ん!」

「そう言えば、嬢ちゃんの目的はこいつだったな。まあ、今は竜人王の後を追うぜ?」

「わかってる」

今は、ベルメリアたちや竜人王のことが優先だ。フランもそれは分かっている。

「トリスメギストスさんよ、竜人王たちはまだ城の中にいるのかい?」

「巫女たちを連れて、地下へと降りていったようだな」

「おいおい……。地下っていうのは、核の間のことか?」

「馬鹿な! あそこに、ベルメリアたちを連れて行っただと? ゲオルグは何をするつもりだ!」

この城の地下には、深淵喰らいの核が存在していると聞いた。つまり、竜人王たちはそこへと向かったらしい。

抗魔を操れるかもしれない相手が、深淵喰らいの核に接触? 嫌な予感しかしないんだが。

「そろそろ駆除の時間だ。一緒に来るならば好きにするがいい」

「お言葉に甘えさせてもらうとしようかね」

だが、即座に部隊全員で追うという訳にはいかなかった。核の間というところは強力な抗魔が湧き出る場所らしく、ここにいる全軍で突入するような場所ではないという。

トリスメギストスは、神罰によって深淵喰らいを削り続けることを強制されている。

地下の間に産み落とされる上級抗魔を瀕死になりながら倒し、深淵喰らいの核を魔力が尽きるまでひたすら攻撃する。それを日々永久に繰り返し続けるというのが、神罰の内容であるらしかった。

「俺と嬢ちゃん、フレデリックで向かう」

「分かった」

イザリオは、神剣開放も視野に入れているのだろう。狭い地下に大軍で向かえば、確実に巻き込むのだ。

冒険者たちもそれは理解しているようで、悔し気に頷いていた。

悠然と歩くトリスメギストスに先導されながら、俺たちは城の中へと足を踏み入れた。彼はこちらを振り返ることなく、真っすぐに城の中を進んでいく。

様々な調度品が並び、壁などには絵画も掛けられている。それら全てが、最良の状態に保たれているようだ。

フランの疑問を察してくれたのか、イザリオが軽く説明してくれた。

「この城は、神の力で維持されているそうだ」

「神様が、掃除してる?」

「ははは。神罰が下されたその日から、時間が固定されているらしい。壊されても再生し、調度品なんかは丘の結界を越えられん」

「なんで?」

「神の考えることだからなぁ。ただ、この城には凄まじい量の財貨が蓄えられていた。それが持ち出せなくなり、竜人たちはかなり困ったそうだ」

トリスメギストスだけではなく、その配下であった竜人たちから財宝を取り上げるために、持ち出せなくしたってことか?

永遠に風化せずに綺麗なままで残る、手にすることのできない財宝と、華麗な城。大罪の象徴であり、強欲への戒め的なことなのかもしれない。

「こちらだ」

トリスメギストスに誘われて辿り着いた先は、玉座の間であった。

数百人単位の人間が入れる広さがあるその部屋には、フランたちしかいない。広いからこそ、無人であることの寒々しさがより強く感じられた。

トリスメギストスが玉座へと近づいていく。ただ、そこに座ろうというのではなく、脇の台に置かれた剣を取りにきたらしい。

優美な曲線を描く、白銀のファルシオンだ。武骨さと美しさを兼ね備えた、一目で業物と分かる魔剣である。

あの剣は、もしかして――。

トリスメギストスは剥き出しのファルシオンを掴み上げると、呟いた。

「今日も贖罪の時間である。いこうか、ファンナベルタよ」