軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

991 トリスメギストス

丘の麓から城を見上げると、そこには金髪金鱗の竜人が立っている。ここからでも顔の整い具合が分かるな。

深淵喰らいの気配が満ちているせいで、男性の魔力などを感じ取ることはできない。だが、その佇まいから、ただものではないのは分かった。

「あれ、トリスメギストス?」

「そうだ。一見柔和そうにも見えるが、外見に騙されるな」

「ん」

フレデリックに忠告されるまでもない。遠目からでも、その武威が見て取れるのだ。腕前は相当なものだろう。

イザリオに促されて丘へと足を踏み入れてきた冒険者たちは、皆が同じ反応だ。最初は深淵喰らいの気配に慄き、その後フランたちの視線でトリスメギストスに気づく。

彼らもトリスメギストスを直接見るのは初めてなようで、驚きの表情をしていた。

金の竜人は動かない。まるで、早く上がってこいとでも言うかのように、こちらを見つめているのだ。

「イザリオ、どする?」

「ここは奴の城だ。無視するわけにもいくめぇよ」

「だが、奴の立ち位置が分からない。気は抜くなよ」

フレデリックは、金の竜人を睨みつけるようにして見上げている。トリスメギストスと竜人王の繋がりを疑っているせいで、穏やかならざる目になってしまうのだろう。

トリスメギストスの金の瞳からは、敵意などは感じられない。だが、歓迎しているようにも見えなかった。

「……いくぞ」

「ん」

全ての冒険者が落ち着いたのを見計らい、イザリオが階段を登りはじめる。全員が緊張しているな。

伝説の大罪人を前に、様々な感情が渦巻いているのだろう。

だが、皆が警戒するような罠もなく、一行は階段を登り切る。

「よく参った。紅蓮刃よ。歓迎するぞ」

「邪魔するぜ」

「好きにせい。紅蓮刃と巫女の弟以外の者は、初めてであるな? 我が罪人トリスメギストスである」

偉そうだ。まあ、元王様だから仕方ないのか? でも、神罰を受けて反省したって感じではなかった。

金髪金瞳。肌は抜けるように白く、シミの一つもない。角だけではなく、手の甲やコメカミに生える鱗すら、磨いた黄金のように輝いている。

一見優男に思えるのだが、身長は高いし、意外に筋肉はついているようだ。立っているだけで絵になるというのは、まさにこういう存在に対して使う言葉なのだろう。

それに、化け物の精神を持っているみたいな話だったが、こうして見る分にはそうは見えないのだ。

分かるのは、凄まじく強いこと。

武術の腕だけではなく、内に宿す魔力が今まで見た竜人の中でも断トツで高い。遠近どちらでも相当やるだろう。魔術の腕前如何では、ランクA冒険者どころか、それ以上でもおかしくはなかった。

考えてみれば、竜人にも獣人に似た強さ至上主義な面がある。その王ともなれば、一族でも最強クラスの戦士なのだろう。

これで、世界有数の錬金術師だったというのだから、いわゆる天才という奴なのかもしれない。

フランは、トリスメギストスの言葉がひっかかったようだ。

「巫女の弟? だれ?」

「ふむ」

「……!」

トリスメギストスの黄金の瞳が、フランを見た。スキルや魔術の気配はない。それなのに、全てを見透かされているかのような、不思議な感覚があった。

フランもそれを感じているのか、身を固くしている。敵とは確定していないせいで、何とか身構えることは我慢したらしい。だが、今にも俺に手をかけそうだ。

「ここは我の城であって、我の物にあらず。来るものを拒むつもりはないが、隠れたままは無粋であろう?」

「オン?」

何をした? トリスメギストスがフランの影へと視線を落とした直後、戸惑うような鳴き声を上げながらウルシが影から上がってきてしまった。

トリスメギストスが、ウルシを影から引きずり出したことは間違いない。だが、何をしたのか、全く分からなかった。

魔術かスキルか、それさえも不明だ。ただ、攻撃しようとしたわけではなく、隠れているウルシを確認したかっただけらしい。

「狼であるか」

満足げに頷くと、すぐに視線を外してしまう。

『ウルシ、大丈夫か? 何をされたか分かるか?』

(オ、オン?)

やはり、ウルシ自身も分かっていないようだ。あまりにも謎過ぎて、推測すらできん。

ただでさえ強いのに、謎の力に不老不死だ。俺の中のトリスメギストスの危険度がランクS級へと引き上げられる。

その気配が伝わったわけではなかろうが、奴の視線が再びフランを向いた。

「ああ、質問していたのだな。巫女の弟というのは、そこな邪竜――いや半邪竜人か? その者の事だ。悍ましいほどの邪気であるが、顔は忘れはせん。火神竜の巫女、ティラナリアの弟であろう?」

「そうだが……。俺のことを、憶えていたのか?」

フレデリックが異様に驚いている。トリスメギストスの記憶に残っていたことが、よほど予想外であったらしい。

相手は、悪い意味だとしても伝説上の人物だ。そんな存在に自分が認識されていたとなれば、驚かずにはいられないのだろう。

それにしても、フレデリックが火竜神の巫女の弟ってことは、ベルメリアの母親の弟ということか?

「フレデリックとベルメリア、親戚?」

「一応はな。だが、俺は半邪竜人となってしまったため、名を抹消されている。そのおかげで、ベルメリアの守役となれたのだがな」

本来であれば巫女の弟として、それなりの地位に就くことが有り得たらしい。だが、半邪竜人となったせいでこの大陸にいることができなくなり、ベルメリアのお付きとしてクランゼル王国へと派遣されたようだった。

以前から二人の関係に微妙な違和感があったのだが、戦闘術の師匠と弟子なうえに、叔父と姪。そりゃあ、普通の護衛とその対象の関係にはならんだろう。

「……ベルメリアと巫女様が、ここにいるはずだ」

「ふむ? そう言えば、ゲオルグたちがティラナリアと少女を連れていたな? あれがそうなのであれば、いるぞ」