軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

985 ベルセルクの気配

「神剣開放!」

マツユキの声に応えるように、鞘に入ったままのベルセルクから黒い魔力が溢れ出す。同時に、その鞘からもまた、白い魔力が噴き上がっていた。

不規則に混ざり合う白と黒。禍々しい黒の魔力の中で、白い魔力が蠢く。白い部分が時おり恨めし気な髑髏のようにも見えるのは、ベルセルクに対する怖れ故だろうか?

マツユキが、鞘からベルセルクを抜いていく。少しずつ漆黒の刃が姿を見せ、それに比例して悍ましい魔力が周囲を覆っていった。

「!」

「クゥン」

『逃げろ逃げろ!』

ただ漏れ出した、攻撃の意図もない魔力に包まれているだけなのに、フランとウルシが冷や汗をかいている。

いや、直接的なダメージはなくとも、悪い影響がないわけではなかった。

『ちっ! 魔術が……!』

強烈な魔力に包まれているせいで、魔術の制御が急に難しくなっていたのだ。転移をしたつもりが、上手く発動しない。

『すまん! フラン! 走れ!』

「ん!」

フランは背後を気にしつつも、さらに速度を上げる。だが、そのまま真っすぐには逃げなかった。

「イザリオ!」

「嬢ちゃん! 止まるな! ここもやばいかもしれんぞ!」

全速力で走る冒険者たちを、心配しているのだろう。すでに神剣開放を止め、ダルそうにしているイザリオに声をかけた。

かなり消耗しているが、それでも動けないほどではなさそうだ。

ただ、その足はかなり鈍っているだろう。それに、他の冒険者たちも、フランに比べればかなり遅かった。

彼らが安全圏まで逃げ切るには、まだまだ時間がかかりそうだった。

魔術が使えりゃ、ディメンジョン・ゲートで距離を稼げたんだがな!

そんな冒険者たちの先頭に、フランが入った。後ろを振り返ると、皆を激励し始める。フランにしては稀なことに、声を張り上げていた。

「みんな! 頑張って!」

「そうそう。お嬢ちゃんの言う通りだ! 根性見せろよぉ!」

「「「おう!」」」

フランの叫び声に応えた冒険者たちが、無理やり声を上げる。彼らだってもうかなり疲れているが、年下のフランに励まされては折れる訳にはいかないのだろう。

すると、明らかに部隊の足が速まっていた。フランの持つ称号の効果が、発動したのだ。

「イザリオ! アジサイと、おじいちゃんたちは!」

「来てねーが、奴らはどうせ逃げない! 気にするな!」

マツユキを見守るように立ち尽くすアジサイを守るように、ハガネ将国の老兵たちはその周囲で足を止めていた。イザリオが言う通り、彼らは逃げるつもりなど毛頭ないのだろう。

「それよりも、走れ走れ!」

「……ん」

さらに走り続ける冒険者たち。そのまま30秒近く走ったところで、ついに全体の足が鈍ってきていた。体力面で劣る魔術師たちが、全速力で走り続けたせいでバテ始めてしまったのだ。

本来ならもう少し走れたんだろうが、激戦続きで消耗しているからな。

それでも戦士たちが魔術師を背負いあげ、逃げる足を止めなかった。

皆が、堪らないほどに感じているのだ。不穏で剣呑な雰囲気を。

「嬢ちゃん、すまん」

「イザリオ、だいじょぶ?」

「だいじょばねぇ……」

フランがイザリオを背負っていた。倒れるほどではないが、やはり消耗のせいで辛そうだったからだ。イザリオも、それを拒否しなかった。

プライドを優先できる場面ではないからだろう。

フランたちは凶悪なベルセルクの気配に追われるように、必死に足を動かし続けた。

『くるぞ!』

マツユキの戦意が、一気に高まる。獣が獲物に襲い掛かる瞬間のような、猛々しさが感じられた。

あれだけ不吉に思えた抗魔竜人が、もう気にならない。眼中にないと言ってもよかった。それほどまでに、ベルセルクの発する気配が恐ろしいのだ。

あれが、戦闘力だけはアルファを凌ぐと言われる、最強の神剣の一角。いまだ戦闘に入っていない状態でありながら、それが理解できてしまった。

「るうううぉぉぉぉぉぉぉおぉっ!」

まるで獣のような、マツユキの咆哮が響き渡った。聞いただけで、冒険者たちの表情が硬くなる。

すでにベルセルクの魔力圏は抜け出したが、身震いするほどの存在感が減じることはなかった。

マツユキが振り上げたその手には、ベルセルクが握られているはずなのだが、あまりにも濃密な漆黒の魔力を纏っているせいで刃が視認できない。

そして次の瞬間、神炎の壁が弾け飛び、消滅していた。

マツユキがベルセルクを振り下ろし、抗魔竜人ごと炎壁を斬り裂いたのだ。たった一撃で、抗魔竜人が1体斬り伏せられていた。

どう考えても高い防御力を誇っていたはずの抗魔竜人が、一刀両断だ。弱いのかと錯覚しそうになるほど、あっさりと倒されてしまっていた。

「「「ウオオォォォォォォ!」」」

先制攻撃を許した抗魔竜人たちが、警戒するように身構える。奴らもまた、本能的にベルセルクを恐怖しているのだろう。

即座に襲い掛かるような真似をせず、マツユキを囲むように広がっていく。

だが、マツユキは様子見など許さず、自ら抗魔竜人たちへと突っ込んだ。

「死になさい!」

ガラガラにしゃがれた、老いた獣のようなマツユキの声が、戦場に響き渡る。

大きく振り払われたベルセルクから、黒い花びらのような細かい魔力が噴き出し、抗魔竜人を包み込んでいた。

「ガァァァ!」

途端に苦しみだす抗魔竜人。その体が急激に萎んでいくのが分かる。開放前に見た能力を、より強力にしたものだろう。

だが、俺はベルセルクの能力よりも、気になることがあった。マツユキの精神状態だ。かなり興奮しているようだが、暴走しているようには思えない。

どういうことだ? ベルセルクを開放したら、死ぬまで暴れ続けるんじゃないのか?