軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

980 竜神の秘跡

挑発された竜人たちが――いや、沸点低すぎて最初から怒ってる感じだったが、異常なほどの怒りのままにイザリオに襲い掛かる。

行動は非常に雑魚っぽいが、その戦闘力はかなりの物だろう。10人の竜人全員が、ランクC冒険者並みだった。リーダー格とその横にいるやつは、もっと強そうだ。

戦力だけなら、一流の冒険者パーティを超えるだろう。

だが、それに反して装備はさほど強いものではない。元々竜人は鱗自慢なので、重装備をしている者は多くない。だとしても、目の前の竜人たちの装備は手練れの戦士が身に着けるものとは言えなかった。

冒険者であればランクDか、Eの上位くらいの者たちが装備するレベルだろう。構える武器も、それなりのランクで強いとは言えない。

下っ端のような喧嘩っ早さに、精鋭には見えない装備品。それでいて、ステータスは非常に高い。

なんともちぐはぐな部隊であった。

ただ、相手がどんな者たちであったとしても、イザリオの敵ではない。疲労が残っていたとしても、イザリオが負けるなんて想像もできなかった。

フランが心配そうなのは勝ち負けに不安を覚えているのではなく、イザリオが再び疲労してしまわないかと思っているからだ。

「うおおおおおぉぉぉ!」

「死ねぇぇ!」

「はっはっは、その程度じゃ死なないな」

「くっそがぁぁ!」

「どりゃぁ!」

「大ぶり過ぎてあくびが出るねぇ」

イザリオが挑発を繰り返しながら、竜人の攻撃を躱し続けている。もう、竜人たちはイザリオの術中だ。

奴らは頭に血が上り過ぎて全く気づいていないが、少しずつ周辺温度が上がっているのが分かった。

異変を感じた時には、もう手遅れだろう。

案の定、5分ほどで竜人たちはへばり、動けなくなっていた。

だが、異様なのはそこからだ。

竜人たちは、明らかに限界なのに、それでも動こうとしているのだ。特にリーダー格の男は、フラフラの状態でまだ戦おうとしている。

「ぐぶ……う……うがぁぁぁ!」

「おいおい、無茶するねぇ」

「がぁぁぁ!」

口から胃液を吐きながら、それでも止まろうとはしない。その目は明らかに正気を失っていた。

この状態、既視感がある。

センディアの地下で捕らえた竜人たちだ。邪水晶を破壊されそうになった時に異様な狂乱ぶりを発揮したが、あれに近しい物を感じる。

竜人王の持つ竜支配スキルによって、洗脳されているのだと思われた。

イザリオは竜人たちを捕まえて、尋問するつもりだったのだろう。しかし、どの竜人も拘束されても暴れることを止めなかった。

魔力と生命力がどんどん減っていき、ついには竜人全員が息絶えてしまう。死ぬまで暴れるように、精神操作されていたらしい。

「いやー、すまんな。情報を喋らせようと思ったんだが」

イザリオは申し訳なさそうに謝るが、誰でも同じ結果であっただろう。

「いえ。紅蓮刃殿は悪くはないかと。あれは、どうしようもありません。何らかの操作を受けていたのでしょう」

「あんたもそう思うかい? 竜人ってのは多かれ少なかれ、他種族を下に見ているもんだが、ありゃあ酷い。愚昧な劣等種ときたもんだ」

「紅蓮刃殿のことも分からないようでしたからね」

「おじさん、これでも有名人だからね」

イザリオもあの竜人たちの様子は普通ではないと感じたらしい。まあ、俺たちから見ても酷かったしね。

竜人たちの亡骸を見ながら、フレデリックが考え込んでいる。

「竜人の兄さん、どうしたんだい?」

「この竜人たちには見覚えがあります。北の居留地の、下級兵士だったはず」

「……あれで下級兵士? そりゃあ、まじかい?」

「はい」

イザリオが驚きの表情を浮かべる。挑発するために煽ったが、本当に雑魚だとは思っていなかったのだろう。

俺も驚きだ。あのレベルで下級戦士? 上級冒険者並みに強かったのに? だが、確かに装備などは下級と言われれば納得のものだった。

すると、フレデリックがフランとイザリオ、シキミを呼んだ。どうも、他には聞かれたくない話があるらしい。

「……竜神の秘跡を使ったのかもしれない」

「りゅうじんのひせき?」

「ああ。遥か昔、トリスメギストスが開発したという、竜人の能力を飛躍的に高めてくれる魔法薬だ。俺がこの体になったのも、その薬のお陰でもある」

「半邪竜人の能力じゃなかったの?」

「それも正解だ。正確には、竜神の秘跡を飲んで強くなったことで能力も強化され、より多くの邪気を取り込めるようになったということだ」

「なるほど。その薬は、厄介そうですね」

「副作用も強いがな」

竜人族の一部にだけ伝わる、禁忌の薬であるらしい。作り方は巫女だけが知り、所有すら厳密に制限されている。

効果は、竜人に受け継がれる竜の因子を刺激し、その能力を永続的に増幅させること。一時的ではなく、服用すれば永久の強さを手に入れられるのだ。

竜人にとって、凄まじい効果を秘めた薬である。レベルアップしたわけでもないのに、強くなれるのだから。

ただし、その副作用も凄まじかった。

まず、肉体が作り変えられることに対する拒絶反応が大きく、半数は服用直後に命を落とす。これだけでも恐ろしいが、残った者の内さらに半数は、肉体が異様な姿に変形して数日で死んでしまうらしい。

つまり、この薬を服用すると75%の者が死んでしまうということだった。フレデリックが無事にここにいることは、奇跡なのだとよく分かったよ。

「あまり大っぴらにしていい情報ではないので、できれば言いふらさないでほしい」

「わかった」

「勿論だぜ。だが、奴らは元々下級戦士なんだろう? その副作用に耐えられるものなのか?」

「実は、副作用を減らす方法があります」

「ほう? だったら、もっと気軽に使ってもいいんじゃないか?」

「いえ、その方法は、寿命を大きく削るのです」

竜神の秘跡は、お猪口一杯ほどの液体だ。それを飲み干すことで、強化が発動する。

だったら、それを数滴だけ飲むと、どうなるのか? 本来の半分ほどの強化で、即死はせずに済むという。

それだけ聞けば、最高の結果である。

だが、そこに罠が隠されていた。中途半端な強化に留まることで、強化されなかった部分への負担が数十倍にも増し、結果的に寿命を削る。そして、長くとも10日以内に命を落としてしまうそうだ。

イザリオと戦った竜人たちが命を落としたのも、負担を無視して全力を出し続けた結果であるのだろう。

洗脳した配下に、必ず命を落とす強化を施し、戦わせる。竜人王は、本当に胸糞悪い野郎だな!

「竜人王か……。いよいよ、放置できないねぇ」

呟くイザリオの声にも、今までにない殺気が乗っているようだった。