軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

960 ブルトーリの惨状

巨大抗魔を倒した後、フランたちが移動する前に再び異変が起きていた。

強弱の違いはあれど、何度も何度も地面に揺れが走る。

そして、遥か彼方に舞い上がる粉塵と、その中に立つ巨大な影が見えた。

「ここと同じの?」

「多分な。この揺れの感じ、5体や6体じゃ済みそうもない。それに、あの一番近くに見える奴」

「あれ?」

「そうそう。多分、ブルトーリに近いと思うんだよねぇ」

イザリオの言葉に、フランが唸る。ブルトーリの戦力で、巨大抗魔を倒せるとは思えなかったからだろう。

実際、イザリオとイグニスの攻撃力があったから瞬殺に見えたが、普通に戦えば厄介過ぎる相手なのだ。

「……どうする?」

いつもならここは俺に意見を聞いてくれるフランだけど、今は隣のイザリオを見上げている。べ、別に嫉妬してるわけじゃないぞ?

フランが俺以外の大人に頼れるようになるのは、悪いことじゃない。それだけ、フランの持つ人との縁や輪が、広がっていってるってことだからな。

ただ、ほんのちょっとだけ、寂しいだけなのである。でも、それ以上に、フランが人としっかり交流していることが嬉しかった。

「ま、戻ろうか。ブルトーリを見捨てるわけにはいかないからねぇ」

「わかった」

何だかんだ言ってこの大陸で長年戦い続けるイザリオは、大勢の人を見捨てることができないだろうとは思っていた。

フランもその言葉に嬉しそうに頷いているし、ここは戻る選択以外はないだろう。

「じゃあ、少し急ぐぜ?」

「ん! ウルシ、がんば」

「オン!」

イザリオは移動用ボードに飛び乗ると、魔力を流し込んだ。直後、凄まじい速度で一気に加速し始める。止まった状態から高速でいきなり進み始めたその姿は、ちょっとおもちゃっぽかった。

ただ、その速さは笑えないレベルだ。おもちゃどころか、F1カーを超えているだろう。あっという間に見えなくなったイザリオを呆然と見ているウルシに、慌てて声をかける。

『ウルシ! いくぞ!』

「オ、オフ!」

炎を噴き上げて地面を滑っていくイザリオのボードに、ウルシが必死に追いすがる。ウルシも本気だ。それなのに、イザリオに中々追いつくことはできない。

強化魔術を使い、回復魔術をかけ続け、ウルシが全ての力を振り絞ってようやっとその背後までたどり着く。

「嬢ちゃん! 無理せずに後からでもいいんだぞ!」

「わかった!」

「オンオン!」

ウルシは強がっているけど、かなり無理をしているだろう。最悪、イザリオを先にいかせねばならないか?

そう思っていたら、ウルシがメチャクチャ頑張った。フランの足を自任するウルシにとって、移動速度で魔道具に負けるのは我慢ならないんだろう。

俺やフランが無茶をするなと諭しても、その速度を下げることはなかった。

血を吐くのではないかと思うほど息を荒らげ、込み上げてくる酸っぱいものを必死に飲み込みながら、最後まで走り切ったのだ。

ブルトーリの100メートルほど手前で一度足を止めると、即座に倒れ込んでしまった。息が乱れているせいで、胸が上下するタイミングが不規則だ。

「ゼー……ゼゼー……ゴフ……」

「嬢ちゃんの従魔、すげぇな! 俺は本気だったんだぜ? まさか、最後まで付いてくるとはなぁ!」

「ウルシ、がんばった」

「ゼハッ……」

「声、出さなくていい」

『ウルシ、落ち着くまで休んでろ。凄かったぞ』

(オン)

ウルシは倒れ込んだまま、休息のために影へと潜っていった。立ち上がる体力も残らないほどに、無理をしてくれたのだろう。

だが、そのおかげで日暮れ前にブルトーリへと戻ってこれたのだ。

都市の向こうに、巨大抗魔の姿が見える。やはり胎児のような格好で、不思議な液体につつまれていた。

都市との間は300メートルも離れていないだろう。広い大陸の中では、間近といっても過言ではない距離である。

「城壁の上の兵士が少ないか」

「抗魔の魔力たくさん!」

「デカブツが動いていないってことは、こっちでも抗魔の群れが出たみたいだ。向こうの門でまだ戦ってるみたいだねぇ。急ごうか」

「ん」

2人が一度足を止めたのは、ウルシが限界を迎えてしまったというのもあるが、この都市を一気に突っ切るためでもあった。

イザリオのボードは高空を移動できないため、自力で移動しなければならないのだ。

イザリオが足の裏や背中から火炎を噴出し、そのまま一気に跳び上がる。メアがやっていた、バーニアの複数発動だろう。

一瞬の加速と跳躍を組み合わせて、一気に都市内へと入り込む2人。家々の屋根を足場に駆け抜けるイザリオを、フランも空中跳躍で追っていった。

「人がたくさん座ってる」

「魔力を吸われたんだろう。あとは、邪気酔いかね」

巨大抗魔の魔力吸収能力に抗えず、一気に魔力を失ってしまったのだろう。そのせいで、貧血のような症状を起こしているらしい。しかも、巨大抗魔の放つ濃密な邪気が都市を覆っており、邪気酔いを併発していた。

魔力を大量に失っているせいで、邪気への抵抗力も下がっているのかもしれない。

ただ、魔力枯渇と邪気酔いでは、俺たちにもどうすることもできなかった。フランとイザリオは力なく座り込んだ人々の上を通り抜け、巨大抗魔へと急いだ。

城門付近に近づくほどに、座り込む人々の姿が増え、中には倒れている者もいる。巨大抗魔との距離が縮まるほど、魔力吸収の力が増しているからだ。

都市中にその力が及んでいるとなると、どれほどの力が巨大抗魔に流れ込んでいるのか分からなかった。

「このままだと、みんな危険」

「ああ。あのデカブツ、町をひとつ喰らうつもりだ。サッサと倒さにゃ、いずれ町中の人間が衰弱死しちまうぞ」