軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

956 アメとムチ

「この爺を殺せぇ!」

「爺だなんて、おじさん傷ついちゃうなぁ。まだそんな歳じゃないのに」

「うるせぇぇぇ!」

イザリオの挑発に耐えきれなくなった竜人たちが、一斉に襲い掛かってきた。イグニスを抜かない状態のイザリオを見ても、有名人だとは分からないらしい。

躊躇することもなく、全員で襲い掛かってきた。一見すればピンチだが、イザリオは余裕の顔でフランに向かって手を振った。

心配するなってことか? いや、やり過ぎるなってことだろうな。

『こいつら、竜人王の配下かもしれん。殺さず、無力化するぞ』

(わかった)

フランは軽く頷いて俺を構えるが、竜人たちの多くがイザリオに向かって行っていた。やはり挑発したイザリオに怒っているんだろう。

フランは向かってきた数人を捕縛すると、そのままもう一方の戦いを観察し始めた。加勢するまでもないだろうし、イザリオの戦いを近くで見たいんだろう。

イザリオは抗魔と戦っている時と同じように、イグニスで攻撃を受けながら、のらりくらりと防御を続ける。ヘラヘラと笑うその姿に、相手はより苛立ちを掻き立てられるようだった。

「死ね! 死ねっ死ねぇっ!」

「ぶっころしてやらぁぁ!」

「ぶっ殺すとか物騒だねぇ。若いもんはすぐそうやって強い言葉使うんだから。でも、できないことを叫ぶのはみっともないよ?」

「なんであたらねぇ!」

「うおおぉぉぉ!」

フランたちに比べりゃ雑魚扱いでも、一応は竜人だ。基礎能力は高いし、下級抗魔よりは強い。だからこそ調子に乗ってしまうのだろうがな。

そんな竜人たちの猛攻を、イザリオは全て防ぎきっている。

そうして、一方的に攻撃されているかと思う展開が続いたが、3分もせずに終わりが訪れていた。竜人の1人が、いきなり体勢を崩して倒れ込んだのだ。

「う、が……?」

荒い息を吐きながら、言うことを聞かない自分の体に戸惑っている。そこからは早い。なんと、他の竜人たちも同じように倒れ、動けなくなっていったのだ。

ズバルブをあしらった時と同じである。ただ、今回は俺も予想ができていた分、すぐにその絡繰りを見破ることができていた。

まあ、単純なことだけどさ。

やったのは、抗魔戦で見せた高熱付与と同じだ。相手の体内温度を上昇させ、ダメージを与える。

ただ、今回は火傷をするほどの高温ではなく、それよりもやや低い温度に上昇させたという点が違っていた。

体内の温度を上げて、体力を奪ったのだ。竜人たちは、普通なら寝込むレベルの高熱状態で暴れ回ったことになり、あっという間に体力を使い果たしたという訳である。

怒って興奮していたことと、少しずつ体温を上昇させたせいで、竜人たちも異変に気づけなかったのだろう。

今回は相手の体温を上昇させるだけに留めたが、空気を熱すれば呼吸器を焼くこともできるし、眼球などにダメージを与えることもできる。一見すると火炎を操るよりも地味だが、恐ろしい戦法であった。

「もしかして、気づいたかい?」

「ん」

「ははは。さすがだねぇ。炎を使うおじさんの場合、相手を傷つけずに捕まえるのが難しくてね。試行錯誤した結果さ」

火炎を操るイザリオだからこそ、必要に駆られて生み出したということか。イグニスの火炎を使えば、どう手加減しても火傷は免れないのだろうしな。

捕らえた竜人たちを縛り、一か所に集める。負けはしたものの、心はまだ折れていないようだ。全員がこっちを睨んでいる。

「さて、君たち。少し話を聞かせてもらっていいかな?」

「ぐ……話すことなどない!」

プライドが高そうだし、普通に訊ねたくらいじゃ素直に話をしないか。尋問をするため、フランが俺を構えたまま一歩前に出る。

しかし、イザリオが軽く手を突き出し、フランを止めた。自分に任せろというのだろう。フランは、相手が竜人王の配下だと考えて、明らかに殺気を漂わせていた。やり過ぎを心配したのだろう。

フランも、イザリオの言葉には素直に従うのだ。足を止めて、軽く頷く。

「ははは、そういきり立たないでよ」

「うるさい! 殺せ!」

「まあまあ、おじさん。感心してるんだよ? 仲間がどれだけ倒れても、怯まずに向かってきたじゃない?」

「戦士だったら当然のことだ」

こいつら、竜人の戦士なのか? てっきり、脱落したチンピラ組だと思っていた。

「いや、さすが竜人族だよね。勇敢だよ」

「ふん。竜人族は戦いの一族だからな」

竜人のリーダーが、まんざらでもない感じで胸を反らす。縛られ正座させられている状態なのに、器用なことだ。

にしても、チョロすぎないか? ただ、考えてもみれば、イザリオは圧倒的強者である。そんな相手に褒められて、悪い気はしないんだろう。こいつらが単純であるというのは、間違いないだろうけどね。

竜人たちの態度を見て、いけると判断したのだろう。イザリオがここぞとばかりに説得を開始した。

「勇敢な戦士たちを、できれば殺したくないんだよ。ここはひとつ、素直に情報を話しちゃみないかい? そしたら、こちらも必要以上に事を荒立てずに済むんだけどな」

イザリオは全く攻撃的な気配を見せず、むしろ穏やかな口調で竜人たちに語り掛ける。イザリオの見せた予想外の態度に、竜人たちも戸惑っているようだ。

「お前さんらがどこの誰かは知らんが、ここで死んじまうのは本意じゃねぇだろう? だが、さっきも言った通り、俺たちは冒険者ギルドの正式な調査員だ。襲われた相手をただ許したら、ギルドそのものが舐められちまう。それはできないんだよ。だからさ、ちっとでもいいから情報を喋っちゃくれないかい?」

「……どうせ、全部喋らせて殺すつもりなんだろうが!」

「そんなことしねぇよ。ただ、相方がなんて言うかね……」

イザリオがチラッとフランを見た。その動きに釣られるように、竜人たちもフランを見る。その顔には、この小娘が何だというのだと書いてあった。明らかに舐めている。

だが、イザリオは恐ろしいものを見たかのように肩を竦めると、声のトーンを落として竜人たちに語り掛けた。

「あのお嬢ちゃんは、闇奴隷商人を憎んでてなぁ。竜人が闇奴隷商人と繋がりがあるかもしれないって情報を仕入れてから、ちょいと興奮しててよぉ。尋問が、少しばかり厳しいことになっちまいそうなのさ」

そこで、イザリオが再びフランを見た。明らかに、アメとムチを狙っているのだと分かる。イザリオがアメで、フランがムチってわけだ。そこで、俺はフランに脅しの言葉を口にさせた。

「闇奴隷商人、許さない。ミナゴロシ」

俺をビュンビュン振るフランが棒読みでセリフを呟くが、放たれる殺気は本物だ。竜人たちも、フランの本気を感じ取ったのだろう。

顔を引きつらせている。

「お前さんらも、子供に遊び感覚で体をグチャグチャにされたかないだろ? だからよ、吐いちまいなよ。な?」

「ミナゴロシ」

「う……」

「ほらほら。今なら間に合うぜ?」

「まずは鱗を全部剥いで、お肌ツルツルになるか試す」

「うひぃ。恐ろしいぜぇ。で、どうするかい?」

「しゃ、喋れば、助けてくれるのか?」

「勿論さ」

イザリオが胡散臭い顔で、ニヤリと笑いかける。すると、目に見えて竜人が安堵するのが分かった。

こりゃあ、墜ちたな。