軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

953 調査の道中

「お嬢ちゃん。そろそろ休憩にしないかい?」

「ん? もう?」

「元気だねぇ。おじさんは体力ないから、もう疲れちゃったんだよ」

「わかった」

調査依頼のため、早朝にブルトーリを出発してから半日。

俺たちは大陸中央部へと向かっていた。トリスメギストスの居城が存在し、抗魔の大元である深淵喰らいの本体が眠る場所でもある。

実は、神剣の情報と共に、銀の女からトリスメギストスと、その愛剣の情報を仕入れていた。人となりは分からなかったが、居場所や能力に関してはそれなりに分かっている。

大陸中央には小さい城があり、トリスメギストスはそこを寝床にしているのだ。

まあ、目的地はその少し手前だけど。

中央部での抗魔の数などを調べ、異常がないかを見てくる仕事なのだ。

イザリオは疲れたなどと言っているが、今朝の出発から食事もしていないフランを気遣ってくれているのだろう。

フランはウルシから降りると、早速食事の準備を始めた。

見晴らしのいい荒野のど真ん中に、大地魔術でイスとテーブルを生み出す。大地魔術の腕前も上がってきたおかげで、歪みの全くないきれいな食卓だった。そこに白い布をかぶせて、食卓の完成だ。

まあ、俺が念話で指示したんだけどさ。フランはそのままでも気にしない派だけど、やっぱ少しでも美味しく食べて欲しいからね。ちゃんとイザリオの分のイスもあるよ?

「こ、細かいところまでこだわるね」

「師匠の拘り」

「ふーん? そう教えられたってことかい? いいお師匠さんじゃないか」

イザリオが感心したようにうなずくと、自分の前の椅子に腰かける。食事の重要性を分かっているからこそ、本気で感心してくれているらしかった。

俺が取り出したのは、シチューとカラアゲだ。フランはカレーを食べたいのだろうが、今朝も食べたのである。栄養バランスを考えて、違う物にしておいた。

「もぐもぐ」

「オムオム」

フランとウルシがシチューと超大盛カラアゲをかきこみ始める。口元に付いたシチューを拭ってやりたいけど、イザリオの前だからな。

空腹は最高のスパイスって言うけど、フランとウルシはどんな時でも変わらない食べっぷりである。あっという間にカラアゲの山が消えていく。

イザリオがこちらをチラッと見た。羨ましそうな表情を隠しきれていないが、欲しいとは言わない。

さすがのダメおやじでも、子供に食事をたかるのはダメ過ぎると分かっているのだろう。辛子とハムのサンドウィッチを食べ始める。

冒険者にしてはマシな食事だと思うけど、フランの前だと味気なく思えてしまうらしい。どこか微妙そうな顔だ。

そんなイザリオを、フランもチラッと見た。そして、あと3つだけカラアゲが残った皿をそっと持ち上げ、イザリオの前へと置いた。

「あげる」

「……いいのか?」

「ん」

「ありがてぇ!」

自分から欲しいとは言わなくても、くれると言われたら貰うらしい。返せと言われてはたまらんとばかりに、カラアゲの皿を抱え込む。

「こ、こいつはっ!」

「おいしい?」

「おう! うめーな! これで酒がありゃぁ最高なんだがな!」

よかった。さすがに酒は持ってこなかったらしい。このダメ親父なら、普通に飲みそうだしね。

そう思っていたら、フランが数本の瓶を取り出した。なんと、酒となっている。

『ちょ、フラン? どこで手に入れた!』

(ギルドの酒場。余ってたやつを入れておいた)

妙に酒に興味を持っていたフランだ。宴の日に放置されていた酒を、いつの間にか収納に入れていたらしい。

「え? 嬢ちゃん?」

「あげる」

「いや、おじさんでも、さすがにここじゃ……」

「? お酒を飲んだ方が強いんでしょ? 何があるか分からないし、万全の体調にしておく方がいい」

「そ、そうかい?」

「ん!」

イザリオの戯言を、信じてたよ! そう言えば、俺もハッキリとは否定しなかったのだ。本気で酒を飲んでる方が調子がいいと思っていたとは!

「はい」

「お、おう」

イザリオが覚悟を決めた顔で、酒瓶を手に取った。ここまできたら、嘘だったとは言えないんだろう。

ただ、ここで飲ませていいものか? イザリオが酔った状態で不測の事態が起きたら? いや、その時には解毒すればいいか。

この親父には、自分の発言の責任を取ってもらおう。

イザリオが困ったような顔で、酒を口に含んだ。そして、目を見開く。まあ、中に入ってるの、度数の超高い酒だからね。いわゆる、スピリッツってやつだった。

それが3本、イザリオの前に置かれている。ランクS冒険者でも少しためらうほどの、凄まじいパンチ力があるのだ。

しかし、イザリオは逃げなかった。意を決した表情で酒瓶を掴むと、一気に飲み始める。一般人だったら、急性アルコール中毒でぶっ倒れる勢いだろう。

『みんなは絶対に真似しないでくれよな!』

(師匠?)

『フランは将来お酒が飲めるようになっても、あの飲み方は真似しちゃだめだからな? 味わいながら、ちょっとずつ飲むんだぞ?』

(わかった)

どうやら、フランへの反面教師になってくれたらしい。フランの教育に悪そうなやつだけど、今回は許してやろう。

「うい~、美味かったぜ」

「そう」

「あ、ありがとうよ」

というわけで、少し休憩だ。まあ、出発時には解毒してやろう。

イスとテーブルを消したフランはウルシに寄りかかり、イザリオは適当な石の上に座る。フランはウルシの体温を感じながら、マッタリ状態だ。

イザリオも、ジッとしながら、体を休めているようだった。

不思議な沈黙が数分ほど続き、不意にイザリオが口を開く。

「なあ、嬢ちゃん」

「なに?」

「嬢ちゃんは、どうしてこの大陸にきたんだい?」

イザリオの顔には、今まで通りの締まりのない表情が浮かんでいた。雑談のとっかかりなのか、本当に疑問に思っているのか、その表情からは分からない。

ただ、ほんの少しだけ、今までよりも目が真剣なように思えた。フランもそれに気づいたのか、少しだけ姿勢を正す。

まあ、ウルシに寄っかかったままだけどね。