作品タイトル不明
941 ブルトーリ
ブルトーリへの道中は、本当に何も起こらなかった。多少の抗魔が現れても、シラードの聖騎士たちと、ハガネの黒歩兵たちが競うように倒してしまうので、冒険者には一切の仕事がなかったのだ。
しかも、その行軍速度が尋常ではない。聖騎士も黒歩兵もかなりの練度で、駆け足を延々と続けられるだけの体力と、回復薬などの備えがあった。
そんな二大国に、冒険者たちが遅れることなく付いていっている。
イザリオは1人で飄々と飛んでいるし、冒険者たちはフランの持つ進軍の戦乙女の称号効果で、聖騎士たち以上の速度で走れていた。
おかげで、予定の半分ほどの時間で、ブルトーリに到着できたのだ。多分、4時間はかからなかっただろう。
聖騎士たちが驚いた顔で、こちらを見ている。
どうやら、二大国の者たちは、冒険者の行軍速度をだいぶ遅く見積もっていたらしい。聖騎士や黒歩兵たちにしてみれば、雑多で信頼のおけない、格下の戦力だったのだろう。
冒険者を疎んでいたのも、戦力的に心許ない者たちに自分たちが合わせなくてはならないからだ。
それが、蓋を開けてみれば足手まといになったのは自分たちの方。冒険者を見る目に微妙な変化があるのも当然だろう。
まあ、それで友好的になるわけではないけどね。「ちっ! 足手まといの雑魚どもが!」から「ふ、ふん。まあまあ使えるみたいじゃないか。せいぜい邪魔になるんじゃないぞ」くらいの変化である。
一行はブルトーリの町に入り、門前の大広場で物資の荷ほどきなどを行っていた。また、抗魔に対する偵察兵の派遣なども開始しており、着々と準備を進めている。
そして、フランたち指揮官は、ブルトーリのギルドマスターと打ち合わせ中だ。
「よ、よよ、ようこそいらっしゃってくださいました! か、歓迎いたします!」
ブルトーリのギルドマスターは超低姿勢だった。というか、土下座寸前?
そもそもブルトーリの冒険者ギルドは規模が小さく、ノクタのギルドの支部のような扱いであるらしい。そのため、ギルドマスターもまだ若く、格上相手の経験が少ないらしかった。
確かにブルトーリの冒険者ギルドは、この規模の町にあるにしてはかなり小さい。冒険者の多くが、近隣のノクタへと流れてしまうからだろう。
冒険者の数が多くないので、大きなギルドは必要ないのだ。また、ギルドが大きくないせいで、冒険者が余計に寄り付かないのだろう。
小さいギルドの狭い会議室で打ち合わせが始まるが、完全に二大国のペースだった。彼らが上から目線で要求を告げ、それをギルマスが容認するという儀式でしかない。
要は、抗魔が現れたら自分たちが単独で相手をする、冒険者は引っ込んでろ。そう言いたいだけであった。
神剣を使うこともあり、他国や他組織の人間と協力するという観念が薄いのだろう。なにせ、同行している騎士や兵士でさえ、神剣を使えば邪魔者になるのだから。
対抗心剥き出しの二大国のことだ、どちらが先に戦場に出るかで揉めるかと思ったが、そうはならなかった。
どうやら、大昔から両国の間で取り決めがあり、毎回出撃が優先される国を変えているらしい。
今回は聖国シラードに優先権がある番だそうだ。特に侃々諤々の意見交換をすることもなく、自然とシラードが一番に戦うことが決まっていた。フランとイザリオに関しては、話しかけられもしない。
フランが首を傾げていると、ギルマスがそっと色々と教えてくれた。フランが余計なことを言って、二大国の不興を買うことを恐れているんだろう。
ここのギルマス的に、フランが送られてきたのは微妙な人選という感じらしい。その実力は分かっているので、見下しているわけではない。しかし、子供なうえに噂は過激。二大国と揉め事を起こすのではないかと、心配でならないようだった。
フランが身じろぎするだけで、ピクッと動き、ハラハラした顔で見てくるのだ。
イザリオに関しては、ずっと酒を飲んでいる。働かなくていいなら働かないってことらしい。それでもこの都市にきたのは、有名人であるイザリオが姿を見せることで、この町の人間が安心するからだ。
酒飲みのおっさんだが、その辺の機微は理解しているようだった。
結局、最初に出撃するのがシラード。次に何かあればハガネ。その次があればイザリオが出撃し、他の冒険者たちは門の守りということになったのだった。
フランは出撃したいのだろうが、二大国に逆らうのは危険だし、ここは見守るべきだ。フランもそれは分かっているので、不承不承頷いていた。
打ち合わせ後、なんとなくだがイザリオと一緒に酒場に向かう。冒険者への指示出しはギルマスが張り切っているので、全部任せることにした。
彼としても少しは存在感を出したいのだろうし、フランに任せるのが不安でもあるんだろう。冒険者たちを班分けして、ローテーションで門の守りに就かせると言っていた。
フランは後でローテーションの内訳を聞いて、その通りに門の守りに向かうだけだ。
イザリオが酒のツマミを、フランが大量の料理を頼み、酒場の隅に座る。二人とも気配を消しているせいか、絡んでくるような奴はいなかった。
フランもイザリオも、黙々と食事を続ける。気が合う訳じゃないんだろうが、黙っていても気まずい感じはしない。
高ランク冒険者同士だからか? それとも、年齢や性格が違い過ぎて、ぶつかる部分がないからだろうか?
意外と相性は悪くない2人である。そうしてある程度料理が減ってくると、イザリオがようやく口を開いた。
「にしても、嬢ちゃん、信用されてないな」
「師匠が適材適所って言った。やりたいならやらせる」
「くはは、その師匠さんとやらはいいこというなぁ。そうだそうだ。仕事なんざ、やりたいやつがやりゃぁいい」
「でも、戦いになったら出る」
「嬢ちゃん、そういう手合いか」
「?」
「戦うのが好きってことだよ」
「戦わないと強くなれないから」
「真っすぐな目だねぇ。おじさん、そんな目を見ると羨ましくなっちゃうよ」
イザリオがそう呟いて、酒をグイッと呷る。相変わらず飄々とした口調だが、俺にはその言葉が本気に聞こえた。