軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

939 二大国

ジェインたちと分かれたフランは、冒険者ギルドへと戻ってきていた。聖国シラード、ハガネ将国の情報を仕入れるためだ。

女王コンビからも両国のことは色々と教えてもらったけど、さすがにこの町にきた理由までは知らなかったからね。

もしこの辺で戦うなら、神剣の発動を見ることができるかもしれないのだ。

冒険者ギルドに到着すると、聖騎士や兵士たちの姿はない。もう帰ったかな?

中に入って、冒険者に声をかけようとする。だが、話をする前に、受付の女性に先に声をかけられていた。

「黒雷姫様! お戻りになられたのですね! ギルドマスターからお話があるそうなので、執務室へお願いできますか?」

「ギルマスの部屋?」

「お願いいたします」

「……わかった」

フランを待っていたらしい。ギルマスに直接話を聞ければ早いし、ここは素直に従っておく。フランが僅かに逡巡したのは、あの色気ムンムンギルマスに苦手意識があるからだろう。

少しだけ重い足取りでギルマスの部屋に向かうと、そこにはギルマス以外にも数人の男女が待ち構えていた。

1人は頼れるダンディズム、サブマスだ。この人がいれば、リプレアの暴走も何とか抑えてくれるだろう。

さらに、イザリオもソファに腰かけていた。ギルマスの正面の三人掛けソファを一人で占拠し、酒をラッパ飲みしている。

これがランクS冒険者か……。いや、偉い人の前で食事を始めるフランも、どちらかといえば同じタイプかもしれんけどね?

まあ、一応の知り合いがいてくれて心強い。

問題は残りの2人だろう。1人はギルマスたちの座るソファ右横の椅子に腰かけ、もう1人はそれとは反対の左側に置かれた椅子を使っている。左側の男の後ろに立っているのは、護衛の聖騎士だろう。感じる威圧感からして、神剣の所持者ではなさそうだ。

仲が悪いことが一目で分かるほどの緊張感が、両者の間にはあった。決して目を合わせようとはせず、それでいて相手を凄まじく意識しているのだ。

どちらの顔も見たことはないが、どこの所属かは一目で分かる。ここで出会っちまうことが分かっていれば、断ったのにな。

「後で呼び出そうかと思ってたのだけど、ちょうどいいところに来てくれたわぁ」

「ささ、そちらへお座り下され」

「ん」

フランは横目で聖騎士を見ながら、サブマスの正面。イザリオの横に腰かけた。酒臭いが、他の奴らの隣よりはマシだろう。

フランが腰かけたことを確認し、サブマスが口を開いた。

「まずはこちらの方々を紹介させていただきましょう。黒雷姫殿の横に座っておられるのが、ランクS冒険者の――」

「才無しのイザリオだ。ま、改めてよろしくなお嬢ちゃん」

「あなたはまたそのような……」

「自分がどう名乗ろうが勝手だろう。紅蓮刃だの燼滅炎剣だの、洒落た名前は俺には合わんよ。俺みたいな男には才無しがお似合いだ」

サブマスの責めるような呆れるような視線に、イザリオが肩を竦めて言い返す。その声色からは、謙遜しているわけでも、恥ずかしがっているわけでもないということが分かった。

イザリオは真剣に、才無しという異名が自分に合っていると思っているらしい。

フランは首を傾げている。やはり、ランクS冒険者の異名に『才無し』はおかしいと思ったのだろう。

「なんで才無し?」

「はっは、気に入ってるんだよ」

「ふーん」

フランはそれ以上突っ込むことはなかった。本人が気に入っているなら、仕方ないと思ったのだろう。

サブマスたちにしてみたら、もう少し押し出しの強い異名を名乗って欲しいらしい。なんといっても、全冒険者の頂点にして、憧れであるランクS冒険者だからな。

そんな人物に変な異名が付いているのは、冗談ではなく冒険者の士気にかかわる。だが、イザリオはどこ吹く風と聞き流していた。

「ほれほれ、今は紹介の最中だろ?」

「そ、そうでしたな。申し訳ない。そちらにお座りの男性は、聖国シラードの騎士殿です。神剣を管理する神剣庁と呼ばれる機関の長。最高位の方ですぞ」

「よろしく」

「そして、その後ろに立っておられるのが、現在の神剣騎士殿です」

「神剣騎士! なの?」

フランが驚きの顔で、聞き返す。すると、護衛の男は笑顔で再度頷いた。

「こんにちはお嬢さん、私は当代の神剣騎士、アドル。お見知りおきを」

護衛と思われた男は、なんと神剣アルファの所持者である神剣騎士アドル・ヤレスフェイムであった。一見すると、爽やかな好人物である。フィルリアとの密約の件がなければ、信じていたかもしれない。

ただ、本当にこの男が神剣騎士なのか? 強いことは強い。だが、神剣の所持者と考えると、物足りなさを感じた。

それに、神剣を帯びてもいないようだ。正直、この時点では本当に神剣の所持者か、怪しかった。

多分、今の状態ではゼフメートよりもはるかに弱いだろう。

フランが驚いてしまったのは、神剣騎士という身分だけではなく、その肩書に見合わぬ実力の低さのせいでもあった。

ただ、フランは表情を押し殺し、ペコリと頭を下げる。このくらいの判断はできるようになったのだ。

「私はランクB冒険者のフラン」

「リプレア殿から聞いております。素晴らしい冒険者であると。お会いできて光栄です。センディアの防衛戦は、聞きしに勝る大激戦であったとか?」

「ん。抗魔が何十万もいた」

「それは凄まじい! 我が国の聖騎士たちもセンディアで戦い、命を落としたようなのです。ですが、それほどの抗魔がいたのであれば、それも納得ですね」

アドルの言葉に嘘はない。どうやら、あのクズ聖騎士たちは、本隊に戻る前に抗魔に殺されてしまったらしい。

正直、助かったという気持ちが大きい。これで、聖騎士に敵視されるという最悪の展開は防げただろう。

フィルリアとの関係を問い質したいが、藪蛇は勘弁願いたい。ここはとりあえず挨拶しておくだけで済ませよう。

「そして、そちらにお座りの方は、ハガネ将国の部隊指揮官殿だ」

「よろしく頼む、黒雷姫殿。私はシキミと申す者。此度の遠征部隊の指揮を任されている」

「ん。よろしく」

頭を下げたのは、非常に中性的な人物だった。多分女だと思うが、一見するとイケメンの貴公子にも見える。

シキミはアドルよりは強いかな? だが、指揮官ということは神剣の所持者ではないのだろうか? ハガネ将国の所有する神剣ベルセルクは、使用者が死んでしまう筈なのだ。指揮をする者が使うタイプの兵器ではないだろう。

「いずれゆっくりとお話をしたいですね」

「ん。私も色々聞きたい」

「ふふふ、その時はよろしくお願いいたします」

敵意は感じないが、真意は読めない。一見すると友好的に見えるが、実は――的なことがあり得なくはないタイプに思える。

むしろ、一番警戒しないといけないかもしれなかった。