軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

932 フランが目覚めて3日後

フランが目覚めて3日後。

俺たちは、砲撃によって崩された壁の前へとやってきていた。住民たちによって簡易的な柵などが設けられており、既に修復が始められている。

だが、広範囲に渡って破壊された城壁を簡単に直せるはずもなく、完成までは数ヶ月かかるとみられていた。

前回の襲撃は撃退したが、次にどうなるかは分からない。今は抗魔の季節なのだ。

そこで、フランの出番である。

「ここにおねげぇしやす!」

「ん」

案内役の獣人に指示されたのは、修復中の壁よりも10メートルほど手前の場所であった。分かりやすくするためか、長いロープが張ってある。

フランはその前に立つと、詠唱を開始した。無詠唱でも使えるが、詠唱有りの方が消耗が少ないからね。

「――グレイト・ウォール」

「おおぉぉぉ! こ、こいつぁすげぇ!」

俺たちが作り出したのは、巨大な土壁だった。都市壁の完全修復が終わるまでの間に合わせとして、土魔術による簡易壁造りをお願いされたのである。

グレイト・ウォールを連続で使用し、崩れた場所の手前に長く高い壁を生み出す。両端の、都市壁と土壁の間には少し隙間があるが、ここは獣人たちが土を運んで埋めるそうだ。

上級抗魔に対しては全く意味をなさないが、下級抗魔の侵入を防ぐことは問題ない。壁本体の修復が済んだら崩せばいいし、応急処置としては上等だろう。

それに、ノクタや北、西の港からの2000人を超える援軍も到着している。万単位の抗魔に襲われるようなことにならなければ、センディアの守りは問題ないのだ。

「さすが黒雷姫の姐さん! ありがとうございやした!」

「「「ありがとうございやした!」」」

「ん」

獣人たちは、完全に舎弟になったな。メアがボスで、フランが姐さんと呼ばれている。ベルメリアは竜の姉さんだ。

腰を落として頭を下げる獣人たちに見送られるフランは、完全に姐さんになり切っていた。同じ獣人から認められているようで、気分がいいんだろう。

それに、頭を下げてくれるのは獣人たちだけではない。

「おや? 黒猫族の剣士さん! こんにちは」

「黒雷姫殿、ご苦労様です」

「あー、黒猫のお姉ちゃんだ!」

とまあ、行く先々で色々な人が声をかけてくれるのだ。

一緒に戦った市民たちであったり、冒険者やアウトローたちである。彼らはみな、フランたちが命を懸けて抗魔を殲滅する姿を見ていた。そして、それに自分たちが助力したということも、誇りであるらしい。

結果、自分たちと共にこの都市を救った英雄として、どこでも大人気であった。

子供たちが英雄ごっこをする前に、聖女役と共にフランたちの役を取り合っているのを見たこともある。

物資が乏しい中、ご老人方は食べ物を渡してくれるし、大人の中には頭を撫でてくれる人もいた。フランは一行の中でも特に幼く小さかったので、より可愛がられているという部分もあるようだ。

ただし、全ての人が好意的かといえば、そうではなかった。

「おい!」

「ん?」

「お前が黒雷姫だな! 俺と勝負べらっ!」

「ちょっと手加減失敗した」

多いのが、フランを倒して名を上げようというバカどもだ。

抗魔の大群を殲滅したと言われているが、見た目はとても強く見えない少女だ。運が良かったのだろうと短絡的に考えて、襲い掛かってくる者がいた。

しかも、雑魚ばかりだ。実力者は運だけで抗魔の大群相手に生き残れるはずがないと分かっているし、フランを見ればその実力を見極められるからね。

フラン的には、肩慣らしにちょうどいいと思っているらしい。敵意を向けられた瞬間、嬉しそうに反撃していた。

ただ、筋肉痛のせいで微妙に力加減を間違うらしく、必ずグレーターヒールが必要になるんだよね。

次に多いのが、フランを取り込もうという阿呆どもだった。戦闘力はあるのかもしれないが、所詮は脳筋獣人の小娘。どうとでも騙せる。そう考える奴もそれなりに多かったのである。

力を落として戦力を求めている小組織から、フランをパーティに加えてこき使いたい冒険者や、上位者たちへの執り成しを頼みたい元権力者たちまで、その身分は色々だった。

だいたいの奴は、威圧をぶつけつつ、本調子じゃないから働かないと言えば諦めてくれる。それでもしつこければ実力行使だ。

怪我の責任を取れとか言ってくる奴もいたが、警備兵に突き出せばそれで済んだ。今真面目に働いている兵士たちはフランに感謝している人ばかりなので、ちょっと不安になるくらいフランの言葉だけを信じてくれた。

やるつもりはないけど、冤罪を被せるくらい簡単にできてしまいそうなほどだ。クイナやフレデリックが、敵対相手をあっさり追い落とせた理由が分かったぜ……。

それだけ、町を救ったフランに感謝してくれているということなんだろうけどね。

あとは、逆恨みをしてくる者もいた。

この町を捨てて、逃げ出した一部の者たちだ。複雑な気持ちではあるが、俺自身は仕方ないだろうと思う。抗う力がない者が、魔獣災害時に避難するのは当たり前だからだ。

ただ、今回は普通の魔獣災害とは色々と違っている。全てが終わってひょっこりと戻ってきたところで、周囲は許さないだろう。何せ、残った彼らは命懸けで戦ったのだ。

行きがけの駄賃として隣家から物を盗んでいった者も多く、大抵の奴らは住民に捕らえられ、許された者も針のむしろ状態だった。

フラン自身も俺と同じで、逃げた者たちに対して含むところはないようだ。

依頼を受けた冒険者でもないのだし、立ち向かえないなら逃げるのは当然。逃げた者を責めたり蔑んだりするつもりもない。自分だって、勝てない敵が現れたら逃げる。

フランは真面目にそう考えていた。それが、フランが理想とする、冷静で理性的で自由な冒険者像なんだろう。

実際にその場面になったら、挑んじゃうと思うけどね。

ただ、逃げた以上、捨てたのだ。それがただ謝罪しただけで戻ろうとしていることについては、否定的であるらしい。

逃げるのは自由。責めはしない。だが、逃げた以上はその選択に責任を持つべき。フランの意見はそんなところだ。

そして、揉めている現場に遭遇して、そう告げたことが逆恨みの原因でもあった。その話が出戻りの者たちに広まり、黒雷姫は自分たちを追い出すつもりなのだと思われたらしい。いや、完全に間違っているわけじゃないけどさ。

今も、それっぽい奴らに睨まれたばかりだ。フランの身内としては、押しつけがましいと言われようが、助けてやったのにっていう想いがなくはない。だが、フラン自身は全く気にしていないようだった。

『フラン。大丈夫か?』

(なにが?)

『いや、今の奴ら……』

(ん。残念。弱かった。肩慣らしにならない)

『ああ、そっち……』

市民から向けられる敵意など、抗魔の大群の凄みに比べればないようなものだったな。

(もうちょっと強い奴、こないかな?)