軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

930 10日間

フランたちが抗魔の群れを撃退してから、すでに10日が経過していた。

抗魔は完全に撃退され、町は危機から脱することができている。

フランたちが守った東側だけではなく、他の門もしっかりと防衛に成功していた。アウトローたちが頑張ったらしい。

ソフィがクイナに説明するのを横で聞いていたので、だいたいの事情は分かっている。

最初、突然現れたクイナを皆が警戒していたのだが、ゼフメートとのやり取りを見ていた者たちがいたので、すぐにソフィたちに受け入れられていた。

メアの護衛として、火事場泥棒や、はぐれ抗魔を撃退したのも大きかったのだろう。あっという間に『激強メイドさん』としてちょっとした有名人になっている。

クイナに加え、ソフィとともに援護に回っていたフレデリックもいたので、フランたちの護衛は問題なかった。

そのフランたちは、現在は塔へと身柄が移され、ソフィが信頼できる者たちが世話をしてくれている。

ソフィの護衛役であったネルシュが人員を選んだので、実は裏で――といったことはないだろう。

因みに、ネルシュはフレデリックとともに兵士を率いて戦ってくれていた。ただ、砲撃に巻き込まれて意識を失い、目が覚めたのは戦闘が終結した後だったらしい。

そのことを非常に悔いているようで、事後処理は先頭に立って行動していた。

塔を私物化しようとしていた兵士長などを捕らえ、闇奴隷商や竜人王の情報を集めるようなことまで率先して行ってくれたという。

冒険者ギルドでは、例のサブマスが自分たちだけで逃げようとしたことが発覚していた。そのせいで他の冒険者に突き上げられており、未だに業務がまともに回ってはいない。

サブマスの情けなさのせいで市民からの信頼も低下しており、混乱はまだまだ続くだろう。

多くの裏組織も、今回の事件でその影響力が大きく落ちた組が多いらしい。普段偉そうにしていたのに、戦力を出し渋ったという噂が広まったからだ。

話を聞いた感じ、事前に決められていた戦力は各門へと送り出したらしいが……。自分たちが戦場に立った市民からすれば、納得はできないのだろう。

理性ではなく、感情で各組長たちを許せないのだ。排斥とまではいっていないが、今までのような武力を背景にした恫喝は効きづらくなるだろう。

なにせ、市民が団結し、武器を取ることを思い出したのだ。下手をしたら、返り討ちに遭いかねなかった。

元々、いざという時の戦力として働く代わりに、許されていた部分もあったのだ。その役に立たないと分かったら、わざわざアウトローたちを野放しにしておくメリットもない。

多くの市民がそのことに気づいた時、違法都市は大きくその姿を変えることになるかもしれなかった。

ただ、その中で躍進を果たした組もある。今回、唯一全面協力をした、獣人会だ。幹部全員を叩きのめして組を掌握したメアによる指示だったが、多くの市民が共に戦ったということを忘れていなかったのだ。

メアはまだ昨日起きたばかりだが、クイナによってしっかりと組の手綱が握られていた。復興にも尽力し、今や1人勝ちと言ってもいい状態である。

竜王会も戦うには戦ったが、むしろ最も力を失った組と言っていいだろう。竜人王の暗躍がバレてしまい、市民から恨まれることとなってしまったのだ。

邪悪な儀式を行うために、センディアを生贄に捧げようとした竜人王。そして、それに協力した配下たちによって誘導された、大量の抗魔。

今回のセンディアの危機は、竜人王と、それに与した者たちのせいといっても過言ではない。

そういった論調になるように、フレデリックが市民の間に噂を流したようだ。恨みの多くを竜人王に集め、今回戦いに参加したまともな竜人たちが責められることを防ぐ目的があるらしかった。

ぶっちゃけ、ベルメリアのためだろうな。彼女が理不尽な誹謗中傷を受けないように、竜人王を絶対の悪として生贄に捧げたのだ。

一昨日目覚めたベルメリアは、竜人王の配下以外の者たちをまとめ上げて、新たに竜人ギルドという穏健な組織を立ち上げようとしているらしい。

神竜化してみせたベルメリアは竜人からすると上位者のような扱いになるようで、ほとんどの竜人が彼女に従うと誓ったそうだ。まあ、ベルメリアは市民から好意的に見られているので、その配下になることで自分たちも竜人王とは無関係だと示したいんだろう。

竜人ギルドの幹部には、今回の戦いで名を売ったガズオルら三爪が就任するそうだ。そのことで、市民たちも竜人ギルドに対して友好的に接してくれているらしい。

そして、最も混乱が激しい治療院では、セリアドットとソフィが立て直しに奔走していた。フィルリアとその部下を拘束し、治療師たちを落ち着かせ、市民の信頼を取り戻す。

中々大変かと思われたが、今回のことでソフィの名声は盤石な物となっている。神剣を所持し、人々の先頭に立って戦う聖女。そりゃあ、人気が出ないわけがない。

市民たちの協力と信頼によって、塔は急速に新たな組織へと生まれ変わっているそうだ。市民の代表が運営に参加する、開かれた組織にするんだとソフィは言っていた。

どこまで上手く行くかは分からんが、ソフィの名声が大きいうちは、健全に運営されるだろう。

因みに、フィルリアは行方不明だということになっている。どうやら、クイナとセリアドットがやっちまったようなのだ。まあ、混乱は大きいが、生かしておいたらもっと酷い混乱を起こすだろう。知らないふりをするのが正解なのだ。

『あとはフランが目覚めれば……』

「オン」

ポーションを飲ませることで栄養は取っているが、少し痩せてきてしまっている。このまま寝たきりで、大丈夫だろうか?

フラン以外の皆はもう目覚めているし、そろそろだと思うんだけどな。

4日前にすでに目覚めていたウルシと一緒に、フランの寝顔を覗き込む。

「……っ」

『お? フラン?』

「オン?」

俺たちの願いが通じたのだろうか? フランの長いまつ毛が、微かに震えた。次いで、瞼がゆっくりと上がっていく。

『フラン! 起きたのか? フラン?』

「オン!」

「し、しょ……? うる……? ここ、どこ?」

『治療院だよ』

俺が体の調子はどうかと尋ねようとする前に、大きな音が病室に響き渡っていた。

ググー!

フランが切なそうな顔で、お腹をさすっている。

「おなかへった」

『そ、そうか』

「カレー、食べたい」

10日も絶食した直後にカレーって、大丈夫かね? 固形物食ったらやばいって、歴史物の小説でよく言うよね?

だが、何はともあれフランが目覚めてくれてよかった。