作品タイトル不明
922 王狼と狂信と智慧
『フラン! 待たせたな!』
「ぜんぜん待ってない」
精神世界に深く潜っていたせいでかなりの長時間に感じたが、実際は数分くらいしかたっていなかったらしい。
まあ、その数分で、戦況は激変していたけどね!
フランは城壁から離れ、かなり前へと進んでいた。完全に抗魔の軍勢に囲まれている。だが、今のフランにとっては、この方が戦いやすいのだろう。
仲間を巻き込まずに済むからな。
「てりゃあぁ!」
周囲に黒雷を大量に放ち、大量破壊の真っ最中である。
(師匠、いくよ?)
『おう!』
柄を握られただけで、フランの進化が理解できる。ただステータスが上昇しただけではない。剣術も強化されているようだ。
まるで、剣神化状態のフランに握られているかのような、不思議な高揚感がある。
『こっからは、ガンガン使ってくれ!』
「ん!」
フランが背中の俺を引き抜き、そのままの勢いで振り切った。ただ魔力を乗せただけの斬撃。しかし、それが剣聖技を上回る威力を発揮していた。
「はぁぁぁ!」
『はははは! すげぇ! すげぇよフラン!』
「ん!」
これが神獣化の力か! さっきも十分速いと感じたが、まだ本気ではなかったのだ! 恐ろしい速度だ!
残像すら残さぬほどの、超高速で周囲を縦横無尽に駆け巡るフラン。俺が振るわれる度に抗魔が無数に消滅し、衝撃波がさらに遠くの抗魔を吹き飛ばす。
そうしてフランが駆け抜けた後では極太の黒雷がいくつも暴れ回り、さらに広範囲で抗魔を食らっていった。
まさに無双。抗魔の色が黒かろうが赤かろうが関係ない。もはや、普通の抗魔なぞ、ゴブリンと大差がなかった。
行く手の抗魔を当たるを幸いに消滅させながら、フランは俺を振るい続ける。
「師匠! なんか! なんか、楽しいっ!」
『や、やる気が凄いな!』
「ん!」
フランが笑顔だった。いつも以上にテンションが高い。どうやら、神獣化したことで興奮状態にあるようだ。
強い力を得た高揚感と、より獣に近くなったことによる野性味の増大。それらが合わさっているんだろう。
これほどの笑顔は、初めて見たかもしれない。
(ねぇ! 師匠は、どんな力を手に入れた?)
『お、見たいか?』
(ん!)
『いいぞ。手に入れたスキルを見せてやる!』
(おー!)
テンションが上がっているのは俺も同じか。冒険者の歌には、聞いた者を高揚させる効果もあるのかもしれない。
『いくぞ! スキル『王狼』発動!』
ズズズズ!
俺の内から、莫大な魔力がゴッソリと抜けていくのが分かった。まあ、ゴッソリと言っても、普段の俺なら、だが。
今の俺にとっては、大した消費ではない。
「む?」
フランの体を黒い魔力が覆っていく。覆い隠すというよりは、薄いヴェールのように包んでいる状態だ。
威厳がある、とでも言えばいいだろうか? 邪気のような禍々しさとも、黒雷のような猛々しさとも違う。
その黒い魔力を纏ったフランからは、自然と周囲を従えるような貫禄と風格が感じられた。最も近い雰囲気を放っているのは、やはりフェンリルだろう。
王狼スキルは、フェンリルの魔力を使った強化スキルだ。ただ、このスキルの力は、それだけでなかった。
異変は俺自身にも起きていたのだ。飾り紐が勢いよく伸び、凄まじい速度で枝分かれしていく。同時に、複雑に絡み合って、何かを形作ろうとしているのが分かった。
しかも、絡み合って丸まりながらも、さらに枝分かれして、どんどん膨れ上がっていくのだ。その形は、巨大な巨峰の房を、横にして置いているかのようだった。
やがて、1つ1つの実が肥大化し、ブチブチと枝から離れて個として確立されていく。
「「「グルル!」」」
「鉄の狼?」
『あれも、王狼の能力だ』
生み出されたのは、体長5メートルほどの金属製の狼たちであった。その威圧感ある姿に、俺は既視感を覚える。
『あれは……あの時の俺か!』
アースラースの狂鬼化をスキルテイカーで奪った結果、暴走してしまった俺。潜在能力解放を使った挙句、鋼の狼と化してキアラばあさんたちに襲い掛かった。
正直、記憶はハッキリとはしていないが、自身の姿くらいは何とか覚えている。この狼たちは、その時の俺によく似ていた。
王狼スキルは、装備者をフェンリルの魔力で強化するとともに、鋼の狼たちを生み出すスキルであった。
まさに、装備者を狼の王へと変貌させる力だ。群れを作る狼の特性を反映した能力なのかもしれない。
『いけ!』
「ガアアアア!」
「おー、すごい!」
鋼狼たちは、かなり強かった。その牙と爪は抗魔を容易く引き裂き、その装甲は下級抗魔の攻撃程度は軽く弾き返す。その動きについていける抗魔は稀であり、狼が駆ける度に抗魔の姿が消えていく。
群れであれば、オラトリオによって強化される前のウルシと真っ向からやり合えるレベルだ。まあ、勝てはしないだろうが。
(あれ、師匠が全部動かしてる?)
『半分はな』
本来、この鋼狼たちは自律式の眷属だ。個々に考え、動く。意識があるとまではいかないが、ロボット的な個性は持ち合わせている。
だが、そんな鋼狼たちは、今俺と繋がった状態だった。個別に動きながらも、俺の指示に従って動かすことも可能だ。しかも、全ての狼を、完璧に制御できている。
俺は同時演算スキルを持っているが、普段であればこれ程の制御力は持っていない。
これは、王狼スキルだけではなく、狂信スキル、智慧スキルのおかげであった。王狼で生み出した鋼狼たちと狂信で繋がり、智慧で完璧に制御している。
智慧は、ケルビム――アナウンスさんから引き継いだ能力だ。神域の情報にアクセスし、書き換えることが可能な神剣。その部分に目が行きがちだが、最も恐ろしいのはその演算能力にあった。
世界中の情報が収められているライブラリから、瞬時に目的の情報を見つけ、選び出すほどの情報処理能力を持っているのだ。鋼狼10体の同時制御程度、朝飯前だろう。
王狼、狂信、智慧。それぞれのスキルは、本家から比べたら遥かに弱い。
王狼はもっと強く、もっと多い。狂信はもっと悍ましく、もっと醜い。智慧はもっと賢く、もっと速い。
多分、本来の10分の1程度しか能力も発揮できていないはずだ。だが、それぞれを組み合わせることで、本来ではありえない能力を発揮できていた。
『さらに、こんなことも可能だ!』
俺が命じると、鋼狼の1体が弾けた。だが、自爆したわけではない。体を構成している俺の一部が鋼糸と化し、暴れ回りながら周囲を蹂躙しているのだ。
そして、100以上の抗魔を滅した鋼の糸が、再び狼の形をとる。こいつらは、狼であり、俺でもあった。
(師匠、すごい!)
『ふふん。だろう?』