軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

916 冒険者の歌

満身創痍。

フランたちの状態は、まさにその一言であった。

「うらああああああぁぁぁっ!」

痛みと疲労を気迫でねじ伏せ、フランが俺を振るう。

「ギッシュァァァ!」

「ぜっぜっ……てやぁあ!」

息を整える暇もなく、襲い掛かり続ける抗魔。喉か肺に異常があるのか、吐く息は風邪でも引いてるのかと思うほどに荒れていた。

もう逃げようと提案したくなるが、フランがここから逃げ出すわけがなかった。

「でりゃああぁぁぁ! 燃えろぉぉ!」

「水竜衝っ!」

フランの近くでは、友であるメアやベルメリアが、同じように苦しみながらも戦い続けているからだ。

白い髪と肌は自身の流した血で赤く汚れ、とても痛々しいメア。鱗や爪が剥がれ、腕を振る度に血が飛び散るベルメリア。

ゼフメートも全身傷だらけだし、リンドなどは片翼を失ってしまっている。

そんな仲間たちを置き去りにして、フランが一人で逃げるわけがない。

(師匠! あわせて!)

『ああ!』

素早く動き回る抗魔をフランが斬り捨て、追撃に来た抗魔たちを俺が魔術で倒す。

それでも、素早い抗魔の攻撃を防ぎきることはできない。既に周りは漆黒型によって囲まれており、簡単にはいかないのだ。

「ガァァァ!」

「うぐぅ!」

フランの右腕に、狼型が食らいつく。何とか俺を手放さずに堪えたが、このチャンスを抗魔たちは見逃さない。

四方八方から飛びかかってきた。

フランは左手で抗魔の喉笛を握り潰して右腕を解放したが、迎撃には間に合わない。それを感じた俺は、咄嗟に魔術を発動していた。

『ぶっとべ!』

同時起動されたゲイルハザードが、周囲に風の壁を作り出す。だが、魔術の鎧で自らを守り、強風に耐えた抗魔がいた。

赤い狼型が3体。フランの肩と両足に、大きな口で噛みつく。だが、フランは呻き声一つ上げなかった。

それどころか、即座に狼型を攻撃する。深紅型は、漆黒型の上位種だ。

ここで3体撃破できれば、抗魔にはかなりの痛手だろう。

そう考えたフランはあえて回避せずに、魔力による自身の強化で耐える覚悟をし、自身に噛みつかせたのだ。そうして相手の回避能力を制限し、カウンターを当てるつもりだったのである。

向かってくる3体を前にしてそう判断し、瞬時に決断したのだろう。その動き出しは、噛みつかれるのとほぼ同時であった。

「らぁぁぁぁ!」

『フランを離せっ!』

フランが全身に纏う黒雷を操作し、右足に噛みつく1体へと集中させる。内部から黒雷に焼かれた狼型は、全身から黒い煙を吹いて倒れ伏した。

左足に噛みつく1体へは、鋼糸化した俺の飾り紐が襲い掛かり、全身に絡みついた。そうやって引き剥がし、首に巻き付けた糸に魔力を通す。首を落とせば、深紅型でも倒すことができるのだ。

そして、肩へと噛みついた最後の1体には俺を突き刺し、とどめを刺す。狼型は回避の動きを見せたのだが、フランの攻撃の方がほんの一瞬速かった。

速度特化型の牙獣型抗魔であっても、攻撃した瞬間を狙われては回避が間に合わなかったのだ。

フランの捨て身の戦法によって、敵の中でも特に厄介な、赤い狼を3体も始末できた。大戦果だが、フランの顔に笑顔はない。

「ごぷ……」

『毒か!』

狼の癖に毒を使いやがった! アンチドートで瞬時に癒すが、俺には分かる。フランが、限界だ。元々限界だったが、一瞬の魔毒がとどめとなってしまった。

棒立ちのフランに、容赦なく殺到する抗魔たち。

『フラン! もう無理だ!』

(……逃げ、ない!)

『あああ! もう!』

魔術で抗魔を迎撃していくが、俺の魔力が尽きれば本当の本当に、終りである。こうなれば、無理やりにでも転移で逃がすしかない。

メアたちも一緒に都市の中へと退避して、なんとか戦線を立て直す。本当に立て直せるかどうかは分からんが、ここで死ぬよりはましだろう。

俺が、ディメンジョンゲートをどこに発動するか悩み始めた、その時だ。

「?」

フランが不思議そうな顔で、足元を見る。

その瞬間、大地が黄金の輝きを放った。

膨大な魔力が俺たちの周囲に吹き荒れる。その力によって、抗魔が動きを止めていた。ソフィが魔力を乗せた音で、抗魔の注意を惹いたのと同じ原理だと思われた。

突如自分たちを包み込んだ魔力に、どう反応していいのか分からず動きを止めたのだ。

一瞬、アースラースが来たのかと思ったが、違う。

戦場を満たした魔力は、あの鬼人の魔力ではありえないほどに優しい。俺もフランも、この魔力には憶えがあった。

(ソフィ、戻ってきた……)

待ちに待っていた、聖女の帰還である。

崩れ落ちた城壁の向こうに、確かにソフィの気配があった。しかも、彼女だけではない。何千人もの気配が、その後ろに付き従っている。

ただ、おかしくないか? いくら何でも人数が多すぎる。これではまるで――。

俺の疑問が形を成す前に、フランが力のこもった呟きを口にする。そこには、弱気の欠片も感じられなかった。

「力が、溢れてくる」

『俺もだ!』

フランの傷が回復し始めていた、失った体力と魔力がジワジワと戻ってくる。

戦場に鳴り響く音楽が、俺たちに力を与えてくれていた。オーケストラのような、とても一人で演奏しているとは思えない、音がいくつも重なり合った音楽だ。ソフィは、楽団でも見つけてきたのだろうか?

それにしても、この曲は……。ソフィの音楽に続き、歌が聞こえてくる。ソフィの歌ではない。何百、何千という人々が、一斉に合唱していた。

「この歌、知ってる」

『酒場で冒険者たちが歌っていた曲だな』

響いてきたのは、陽気でご機嫌な、あの歌だった。

「俺たちゃ冒険者~♪ 黄金の冒険者~♪」

「どんな敵にも怯みはしない!」

「ドラゴン、デーモンどんとこい!」

「抗魔の群れもなんのその!」

合唱と聞いて想像するような、洗練された綺麗なものではない。それぞれが思い思いに歌う、不揃いで朴訥な斉唱だ。お世辞にも、上手いとか美しいとは言えないだろう。だが、だからこそ、想いだけは十分に籠っている。

空高く響き渡る、幾千もの歌声。

不思議なことに、聞いていると力が湧き出してくる。

「応援してくれてる」

『ああ。そうだな』

ただの音楽じゃない。これは、フランたちへの応援歌だ。

大勢の人々の「がんばれ」「負けるな」「私たちも一緒に戦う」。そんな気持ちが籠っている。聞いた瞬間、それが理解できた。

傷が癒え、体力が戻り、魔力も回復していく。だが、それ以上に、自分たちだけじゃないという事実が、フランたちに力を取り戻させたようだった。

「フラン! 援軍、連れてきたわよ!」

「ソフィ!」