軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

914 皆の奥の手

「ベルメリアが右。リンドが左」

「任せて!」

「クオォ!」

フランたちは三手に分かれて、巨大魔砲型に襲い掛かる。近くで見ると、亀の甲羅に、蜘蛛のような足が付いた姿だ。

これは通常の魔砲型と変わらないが、甲羅の縁部分に見慣れないパーツが付いている。

先端が分銅のように膨らんだ、長い触手だ。それが左右4本ずつ、計8本存在していた。近づいたフランたちに、その触手から魔力弾が放たれる。

死角のできやすい巨体の周囲を守る、迎撃装置的な存在なのだろう。

その攻撃を躱しながら、フランが巨体に斬りかかる。速度と魔力によって強化された斬撃だったが、一撃では撃破しきれなかった。その巨体から想像できる通り、防御力と生命力が非常に高かったのだ。

「閃華迅雷っ! はぁぁ!」

『燃えろ!』

フランは黒雷を纏うと、俺を魔砲型の傷口に突き立てた。黒雷と、俺の放った火炎が魔砲型の体内で暴れ狂う。

「ギイイイィィィィイ!」

さすがの巨大抗魔も、この攻撃の前にはひとたまりもなかった。全身から煙を上げて、崩れ落ちる巨体。

数瞬警戒していたが、魔砲型が塵に変わり始めるのが見えた。

『よし、次だ!』

「ん!」

フランは同様の方法で5体までは仕留めた。だが、そこまでだ。敵の砲撃開始が、思ったよりも早かったのである。ベルメリアやリンドも数を削り切ることはできず、砲撃の開始を許してしまっていた。

「「「ギュオオォォォ!」」」

悲鳴にも似た甲高い咆哮を引き金として、その背中の砲塔から閃光が放たれる。直径が10メートル近い魔力の塊だ。

そこに込められた魔力の量は、尋常ではなかった。

異常に強力な砲弾を放った巨大魔砲型だったが、彼らにも異常が現れる。なんと、その場でズンと崩れたかと思うと、その身を塵へと変えてしまったのだ。

一発打ち切りの、使い捨て抗魔だったらしい。個という概念が薄く、集団の維持を優先する抗魔だからこそ可能な生態だろう。

強大な力を持つ巨大抗魔が、自らの命すら贄とした一撃だ。それが、弱いはずがなかった。

震えるほどに凶悪な魔力を秘めた20発もの魔力弾が、高い山なりの放物線を描いて飛んでいく。距離は7、800メートルはありそうだが、魔力弾の軌道は正確に城壁を捉えているようだった。

俺たちとメアが咄嗟に放った魔術で半分は撃墜したが、10発が城壁に向かって降り注ぐ。

ドドゴオオオオオオォォォォンンン!

魔力が一気に放出され、閃光が城壁を覆い隠した。強烈な光と土煙が晴れた時、城壁の無残な姿が晒される。

城壁が、300メートル近くにわたって破壊されていた。一部、食い残した林檎の芯のような状態で、なんとか立っている部分もある。

だが、攻撃を少し食らえばあっさりと崩れてしまうだろう。もはや、城壁の意味など、なさない。

しかも、魔力弾の余波で、城壁周辺の建物が吹き飛んでいる。一瞬で生み出された広大な空間は、守りにくく攻めやすい。俺たちだけではなく、センディア全体の危機と言ってもよかった。

「やられた」

フランが、悔し気に唸る。その近くでは、ベルメリアが呆然とした様子で呟くのが聞こえた。

「フレ、デリック……」

そうだ、彼女の従者であるフレデリックは、壁の上にいたんだった!

竜人たちの指揮を執るためにフレデリックが立っていた場所は、完全に破壊されて瓦礫の山と化している。

あの砲撃が直撃していたら、さしものフレデリックも――?

いや、大丈夫だった。瓦礫を押しのけて、竜人の男が立ち上がるのが見える。生命感知を使うと、まだ生き延びている者もいそうだ。

俺たちなら救助できるかもしれない。今すぐに向かえば、救える命はあるだろう。

だが、俺たちがここを離れる訳にはいかなかった。

『フラン! 抗魔が動きを変えた!』

どうやら、抗魔たちが大きく群れをバラけさせ始めているようだ。

今までは、一点突破の陣形だったのだろう。だが、城壁が崩れたことで、広がって町を目指す戦略へとシフトしたらしい。

広範囲に広がられてしまえば、少数で防ぐことは難しくなる。というか、もう完全に抗魔の侵入を防ぐことは、不可能だろう。

それは、フランも理解しているらしい。厳しい表情で、一言呟いた。

「できるだけ、減らす」

『分かった。もう、出し惜しみなしだ』

「ん!」

コクリと頷いたフランは、俺を構えてそのまま飛び出した。温存とか継戦とか言ってる場合じゃない。今、どうにかせねばならなかった。

「閃華迅雷! はぁぁぁぁ!」

狙うのは、上位の抗魔たち。下級の者なら、町の中の兵士や冒険者でも対処できるかもしれない。ならば、俺たちが倒すべきは、個としての強さを持った抗魔たちなのだ。

そうして戦い始めてから、10分。

常に時空魔術で速度を上げながら戦い続けているため、時間感覚がメチャクチャだ。消耗も凄まじく、もう何時間も戦っているような錯覚さえ覚える。

それでも、フランはトップギアのまま戦い続けていた。

「うらぁぁぁ!」

「ガァァァ!」

「くぅ!」

黒雷を纏ったフランが雄叫びを上げながら、赤狼型の抗魔を叩き斬る。同時に、周囲にいた黒い狼型の放った範囲攻撃を食らってしまっていた。

上位種を囮にしやがったのだ。障壁で防ぐことには成功したが、大分魔力を削られた。

本気を出したフランは、まともなダメージは喰らわずに済んでいる。しかし、魔力の消耗だけは如何ともし難かった。

抗魔たちも、こちらが魔力を少しずつ減らしながら戦っていることに気づいたのか、できるだけ消耗させるような戦略に切り替えてきている。

だが、仲間に助けを求めることなどできなかった。

すでにメアたちも、奥の手を使い、持てる力の限りを尽くして戦っていたのだ。

「金炎よ! 白き火よ! 荒れ狂い、敵を燃やし尽くせ!」

メアの全身から、白金の炎が勢いよく溢れ出す。少女の姿が覆い隠されてしまうほどの巨大な白金の炎が、濁流となって周辺の抗魔たちを飲み込んでいた。

「まだまだぁぁ!」

渦巻く炎は勢力を増していく。まるで、獲物を探しているかのようだ。直径50メートル近い炎の渦が、千を超える抗魔を僅かな間で灰に変える。

あれがメアの奥の手なのだろう。確かに凄まじい。

だが、これほどの攻撃だ。代償があってしかるべきであった。

「くううぅぅ……!」

メアの押し殺したような悲鳴が聞こえる。何があった?

俺の疑問の答えは、火勢が衰えた時に判明する。なんと、火の中から姿を現したメアの腕が、赤黒く変色していたのだ。

酷い火傷であった。黒天虎には雷鳴無効があるように、金火獅であるメアには火炎無効スキルがあるはずだ。自身の火炎で、被害を受けることはない。

それでも火傷をしたということは、メアの白金の炎が火炎無効スキルさえ上回ったということだった。つまり、神炎の領域に片足を突っ込んでいるということだ。

火傷の再生が明らかに遅いのも、僅かに神属性を含んでいるからだろう。あの炎、制御を間違ったらあっという間に自滅しそうだ。

それだけ危険な力を振るい、自身が傷ついているというのに、メアの戦意はさらに増している。

ランランと輝く目で抗魔を睨みつけ、城壁を越えようとする抗魔たちを倒していく。炎の暴威を纏った獅子が、まさしくその身を盾としてセンディアを守っていた。

リンドはメアと離れた場所で、抗魔と戦っている。火竜であるリンドであっても、メアの白金の炎を浴びればダメージを負ってしまうんだろう。

その巨体を壁として抗魔の邪魔をして、少しでも侵入を減らそうとしていた。

ゼフメートやフレデリックも同様である。大小の傷をポーションで癒しながら、体を張って抗魔たちを押し止めていた。

ベルメリアなど、長さが100メートルを超える水の壁を生み出し、なんとか抗魔の町への侵入を防ごうとしている。水壁に触れた抗魔に自動反撃する能力があるようで、何百もの抗魔が屠られていた。

それだけの水魔術を維持しながら、攻撃まで行っている。水で生み出した短剣を両手に持ち、抗魔の中で舞っていた。ベルメリアがクルクルと回る度に、抗魔が千切れ跳んでいく。

さらに、ベルメリアの頭部に魔力の高まりが見えた。いや、頭というよりは、口か?

驚いてみていると、ベルメリアの口から白い閃光が放たれた。

「うああああああああぁぁ!」

(すごい。竜みたい)

以前見た竜族のブレス攻撃に、魔力の流れが非常によく似ていた。まさか、こんなことまでできるとはな。

横に薙ぐように放たれたベルメリアのブレスは、たった一発で千を超える抗魔を巻き込んでいた。だが、感心してばかりもいられない。ベルメリアの体内の魔力が、急激に減っていくのが分かったのだ。

神竜化の力の一部を引き継いでいるとはいえ、相当無理しているのだろう。

それは、他のみんなも一緒だった。

『まずいな……!』

今は、みんなが後先を考えずに広範囲攻撃をばら撒いているおかげで、奇跡的に突破されていない。

しかし、誰かの魔力が尽きた時が、バランス崩壊の始まりとなるだろう。惨劇の足音がすぐ近くで聞こえるようだった。