軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

902 揺れ

竜人たちの意識を奪い、俺たちは邪水晶へと向き合った。相変わらず、強い邪気を放っている。

バルボラで見た物よりも、こちらの方が内包する邪気は凶悪だろう。考えてみたら、この大陸には邪気を持つ抗魔がいる。

こちらは、外よりも邪気を集めやすい環境なんだろう。この邪気を使って行う儀式なんて、絶対にさせちゃダメだった。

『砕いてから、収納にしまっちまおう。欠片も残さずな』

「ん。壊す」

証拠として残すべきかとも思ったが、これをどこかに提出することになったらそれも怖い。特にこの大陸の場合、どこが信頼できるかも分からないのだ。

竜人たちも捕えているし、微かに邪気の残った欠片などでも十分だろう。

「黒雷姫の姐さん、任せちまっていいですかい?」

「ん」

ドルーレイたちが邪魔にならないように下がる。

この邪水晶がちょっとやそっとでは破壊できないと分かっているのだ。

フランは静かに深呼吸をして、俺を腰だめに構えた。そして、一気に振り抜く。

フランの放った空気抜刀術によって、キィンという甲高い音とともに邪水晶が上下に分断されていた。

『うおっ!』

(師匠? だいじょぶ?)

『あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと、邪気が流れ込んできたんで驚いたんだ』

(邪気? ともぐいした?)

『いや、そういう感じでもないんだが……』

まるでスポンジが水を吸収するように、俺の刀身へと邪気が吸い込まれていった。そのおかげで回復するとかそういうこともなく、ただ邪気が消えたのだ。

もしかして、邪気支配スキルのおかげなのだろうか? それとも、俺の中に封じられている邪神の欠片が何かした?

少し不安になったが、俺の奥底に封じられている邪神の欠片が悪さをしているような気配もない。一体、何が起きたのだろうか……。

自身の内側に意識を向けても、何が起きたのかは分からなかった。

『アナウンスさん。何か分かるか?』

《否。邪気の消失を確認。個体名・師匠の損傷、消耗は確認できません。現在、さらに異変の有無を調査中》

アナウンスさんにも分からないんじゃ、仕方ないよな。ここでやめる訳にもいかんし、このまま邪水晶を――。

「ウガアアアアアアアアアア!」

突如、地下に狂ったような叫び声が響いた。やはり、竜人たちに影響が出てしまったか。

「また暴れ出した」

『催眠状態が解けたらしいな』

捕えていた竜人たちが目覚めて、激しく身を捩っていた。縛られた状態でスキルや魔術を放ち、攻撃してくる。

これ、尋問前に短絡的に邪水晶を破壊してたら、絶対に話を聞き出せなかっただろうな。

それからは何をやっても竜人たちの意識を奪うことはできず、ひたすらに暴れ続けた。自分を縛っている縄を引き千切ろうと力を入れた挙句、自身の腕が関節から折れた奴までいる。

それでも、竜人たちの暴走は止まらなかった。このままだと、いずれ脱出してしまいそうだ。結局、俺たちにできることはとどめを刺すことだけだった。

できれば証人として確保したかったのだが、残念である。

『とりあえず、残りの邪水晶を処理しちまおう。ただ、証人の確保に失敗しちまったし、邪水晶を全部破壊するのはマズいかもしれん』

(じゃあ、どうする)

『先に、1つは確保しておこう』

本当は収納に入れるのも嫌だが、これは仕方ない。そうして邪水晶を確保した後、俺たちは残りを破壊していった。やはり、邪気が俺の刀身に吸い込まれていく。

(師匠。どう? 変な感じしない?)

『特に変化はないな』

(ならいい)

俺たちはさらに手分けして、床の魔法陣を皆で破壊した。俺は魔力攪乱で、他のやつらは攻撃して床を削る。

もう僅かな魔力も感じられないし、これで竜人王の計画は阻止できただろう。

儀式の邪魔はできたが、この地下道はまだ先に続いている。竜人王がいるとは思えないが、調べておく必要はあるだろう。

一行は、フランを先頭に先へと進む。いや、進もうとした。だが――。

ドン! ズズン!

突如として地下道に走った大きな揺れにより、フランたちの足が止まる。大きな衝撃音が聞こえた直後に、強い揺れが一度だけ走っていた。

地下道の天井からパラパラと小石が落ち、埃が舞う。

地震ではなさそうだが、いったい何が起きた?

「急いで出る」

「へ、へい!」

しっかりとした造りをしているならともかく、ここは手掘り感満載の地下道だ。正直、崩落が恐ろしかった。

探索を切り上げて、入口へと大急ぎで戻るフランたち。

俺とフランが全員に補助魔術をかけて、地下道を一気に走り抜ける。元いた広場に戻った時には、フランとウルシ以外は汗だくだった。

『アウトローどもがいないな』

(ん)

普通に解散したのか。それともさっきの揺れが関係しているのか。竜王会の支部に顔を出してみたが、そこはもぬけの殻であった。

慌てて出ていったのか、食べかけの果物や、飲みかけの酒がテーブルの上に放置されたままだ。上の階を覗いても、誰もいなかった。

「何があった?」

「連絡役すらいないっていうのは……」

地下道から一緒に戻ってきた竜人の男が、難しい顔で唸る。彼らから見ても、拠点のこの状態は異常であるらしい。

すると、外で待機していたドルーレイの声が聞こえる。

「姐さん! 事情が聞けやしたぜ!」

「ほんと?」

「へい」

彼らも待っているだけではなく、周辺で聞き込みをしていたようだ。

広場に戻って、彼らの得た情報を教えてもらう。すると、とんでもない事態が起きているということが分かった。

ここからでは建物が邪魔をして見えないが、なんと都市壁の一部が崩落してしまったらしい。

慌てて建物の屋上へと駆け上ってみると、確かに都市を囲む巨壁の一部分が破壊され、大きく崩れているのが見えた。

東門付近だろう。遠目からでも、相当に広い範囲が崩れ落ちているのが分かった。幅は100メートルを超えるだろう。

先程の揺れの原因は、城壁の崩落だったらしい。

ここの支部にいた竜人たちは、その対応に出動してしまったのだろう。残っている竜人たちも、上の指示を仰ぐために本部へ行くと言い始めた。

それは獣人たちも同じである。

「姐さん。俺らもアジトへと戻ります。色々と迷惑かけやした」

「ん。ブライネたちによろしく」

「へい」

俺たちは冒険者ギルドに戻るとしよう。襲撃者の顛末を知らせなくちゃならないし、崩落の詳しい情報が手に入るかもしれないしな。