作品タイトル不明
895 消火
俺たちはまず、ギルドマスターの執務室へと向かった。そこでプレアールの言っていた、闇奴隷商人の情報をまとめた紙を探すつもりだったのだ。
だが、戸棚が結構多いうえ、鍵がかけられていてすぐにどれが正解なのか判別できなかった。
いちいち開けて確認している時間はない。
それに、他の冒険者が戻ってきたら、執務室をあさるフランの姿は奇異に映るだろう。下手をしたら、今回のことで色々と疑われるかもしれない。
それでなくても、火事場泥棒そのものなのだ。
そこで、俺たちは室内の棚っぽい物や机を、片っ端から次元収納にしまうことにした。大分スッキリしてしまったが、今は仕方がない。
『よし、次は消火だ!』
とはいえ、あの大爆発だ。石をも燃やす炎は、既に近隣の建物に延焼してしまっている。これ以上の延焼を防ぎつつ、火を消し止めなくてはならない。
幸いなのは、住民がすでに避難を開始しているということだろう。だが逃げ遅れも相当数いるようだった。
一番簡単なのは、周囲を大地魔術の壁で囲い、その内側を叩き潰すことなんだがな。水で満たしたっていいし、空気を抜いてもいい。
まあ、魔術の炎の場合、空気がなくても燃えたり、水では消えない可能性もあるが。
どちらにせよ、人がいる状態ではどの方法も使えなかった。
とりあえず、延焼を防ごう。
『フレイムバリア!』
「おお、師匠すごい」
本来は小さな範囲を炎から守るための術で、俺は町の一角を覆っていた。外部からの火炎魔術を防ぐのではなく、内部からの延焼を防ぐ目的だ。
だが、問題がある。
『ぐぬ……維持が、難しい』
本来の用途では考えられないほど広範囲に術を使用した結果、現在は巨大な円柱状の結界が生み出されている。
これを維持するだけで、凄まじい集中力と魔力が必要だった。
カステルでの消耗によって制御力が多少甘くなっていることもあり、長時間の維持は難しそうだ。
『今のうちに、生存者を探して救助だ。俺は、維持で手いっぱいだ。任せたぞ』
「ん!」
「オン!」
フランとウルシは二手に分かれ、逃げ遅れた人間の探索を開始する。
俺が手助けできないので、転移は使えない。フランは生命感知を使いつつ、壁をぶち抜いて最短距離で生存者を助けていった。
ヒールで回復させ、後は壁をぶちぬいて脱出。助けた住人たちを外へと逃がし、再び救助に戻る。
そうやって動いているうちに、異変を感じた冒険者がギルドへと集まり出した。また、ソフィたちが近隣の冒険者を応援として、引き連れてもきていた。
変わり果てたギルドの姿を見て、緊急事態であると理解したのだろう。
冒険者たちが、率先して救護や野次馬の整理に動き出す。フランに何かを聞きたそうにしている者もいるが、誰も無駄口は叩かなかった。
救助開始から30分後。
俺たちは全ての住人を救助することに成功していた。ウルシに助けられた人たちはずっと怯えた表情だ。
炎に囲まれて震えている中、黒い狼が迫ってきたのである。一瞬、死を覚悟したのだろう。助けてもらっても、恐怖の想いは拭えないらしい。
それでも、命が助かっただけましと思ってもらおう。
俺も大分魔力を使ってしまったが、間に合ってよかった。
『あとは火を消すだけだな』
「ん!」
どうやって消火するか、ソフィにも意見を聞いてみる。すると、多少荒っぽくてもいいから、被害が広がらないようにしてほしいということだった。
この町では、火事は珍しいそうだ。木材がほとんど使われていないからだろう。だからこそ、未知の災害である火事に対して、必要以上の恐怖を感じているようだった。
ソフィだけではなく、他の冒険者や住人達も、火が燃え広がるのを防ぐためなら家屋を破壊してもいいと考えているらしい。大きくうなずいている。
だとすると、簡単だ。
『フラン、斬ってしまうぞ』
「ん!」
フランが俺を構え、魔力を練り上げる。そして、剣聖技を発動した。Lv6剣聖技ソードソニック。
まあ、簡単に言ってしまえば、飛ぶ斬撃だ。
フランの放った一撃によって、建物が水平に切り裂かれる。あまりにも鋭く、綺麗に斬られたため、普通の住人達には何が起きたのか分かっていないだろう。
フランが、超高速で剣を水平に振るったとしか見えていないはずだ。だが、フランの剣聖技はしっかりと土台と地面を切り離していた。
これで、建物は一個の巨大な置物扱いとなったのだ。
あとは、収納するだけである。
1階の床と、柱や壁の下数10センチを残して、建物が消え去った。
『残りは10棟くらいかな?』
「がんばる」
フランはコクリと頷くと、次々と建物を収納していく。
俺たちが燃える建物を全て収納したことで、なんとか火事は収まっていた。個人財産などは、あとで返したいところだ。
本当は、プレアールの残した闇奴隷商人の情報ってやつを、今すぐに確認したい。
だが、事態はまだ終わってはいなかった。
「冒険者が、竜王会に文句言いに行った?」
「文句というか、抗議というか……。竜人が襲ってきたと聞いて、竜王会の仕業と考えたようなの」
冒険者の一部が、竜王会に向かってしまったらしい。
ソフィは抗議をしにいったと言うが、殺気立った冒険者が徒党を組んでいるのだ。穏便に終わるわけがなかった。
「私では、止められなかったわ……」
ソフィが絶望的な表情で呟く。
混乱を止めたいのに、逆に拡大していく。そのことが理解できて、焦っているのだろう。