作品タイトル不明
884 フィルリアの次の手
何らかの装置が作動し、地下室の天井が崩落してしまった。
俺たちが大地魔術の使い手じゃなかったら、完全に生き埋めになっていただろう。
轟音が響き渡ったうえに、塔の真横に巨大な穴ができたのだ。注目を集めないはずがなかった。
塔の内外にいた人々が、穴の周辺に集まってくる。
その中に、フィルリアの姿もあった。
フランとミランレリュが、射貫くような視線でフィルリアを睨む。しかも、自身の悪行が白日の下に晒されようとしているというのだ。なのに、相変わらずのアルカイックスマイルを崩さない。
悠然とした態度で、こちらを見下ろしている。いや、口元がやや引き攣っているか?
内心の怒りを押し殺しているらしい。それでも喚き立てないのは、完全には余裕を失っていないからだろう。
その理由は、すぐに分かった。
「ついに尻尾を出したようね!」
周囲の人々に聞こえるような大声で、フィルリアが叫ぶ。
「竜人の一部が竜王会を裏切り、獣人の暗殺者と手を組んだという噂がありました! 同じ都市に暮らす仲間として、信じたくはありませんでしたが……。どうやら本当の話だったようですね!」
そう言って、フランたちを指さした。
なんと、自身の悪行を隠すどころか、フランたちを悪者にしてしまおうと考えたらしい。実際、この惨状を見ただけでは、地下の研究施設のことなど分からない。
土砂で全てが隠れてしまっているし、俺たちがその土砂を収納して消し去ったとしても、後に残るのは焦げた地下室の残骸だ。
まあ、ヌメラエエの死体が残っていたとしても、フランたちが殺したという扱いにされていただろうが。
ガズオルを連れてきて証言させたとしても、フィルリアの言葉を覆すだけの説得力はないだろう。
「何をわけわからないこと言ってるんだい! あんたがうちのガズオルを捕まえて、奴隷にしようとしてたことは分かってるんだよ!」
「そちらこそ、訳の分からないことを言わないでください。奴隷? 何を言っているのです?」
「とぼけんな! すました顔して、裏であくどいことやってるくせによ!」
ミランレリュがフィルリアに向かって吠える。フランは無言だ。一緒に口を開くかと思ったんだが、今回は仲間を闇奴隷にされかけたミランレリュに譲ったらしい。
ミランレリュがフィルリアの悪事を糾弾するが、人々からの視線は冷たかった。犯罪者が言い訳をしているとしか思われなかったらしい。人々は殺気だった目で、フランたちを睨みつけ始めた。
警備兵も程なくやってくるだろう。捕えられたら牢屋の中で暗殺コース。逃げたら犯罪者として賞金首コース。
どちらにせよ、御免こうむりたい。
「あの黒猫族――」
「間違いないわ――」
「やっぱり暗殺――」
ついさっき、塔の中でフィルリアとやりあったフランを覚えている人も多かった。フランを見て、ヒソヒソと囁き合っている。
どうすりゃいい? ガズオルたちがどうなったかも分からないし……。
逃げるか戦うか言い返すか。
だが、そこに新たな登場人物が現れていた。
「待ってください! その方々は、裏切り者でも暗殺者でもありません!」
「ソフィ」
「遅れたわ。ごめんなさい」
当然、これだけの騒ぎだ。ソフィだって気づくし、やってくるだろう。だが、現れたソフィとネルシュを見て、フィルリアが驚愕の表情を浮かべていた。
すぐに取り繕ったが、明らかに想定外であったらしい。フィルリアが、ほんの僅かに上ずった声で話しかけた。
「聖女様、今は危険です。結界の張られたお部屋から出ぬようにと、お伝えしてあったはずですが?」
「出ぬように? 監禁して出さぬの間違いでは?」
「な、何をおっしゃいますか! そのようなこと、するはずがありません」
どうやら、邪魔なソフィを閉じ込めていたようだな。しかし、どんな方法を使ったのか、ソフィが監禁場所から脱出してきてしまった。それで焦っているのだろう。
「フィルリア。あなたは――」
「きゃああああぁ!」
ソフィはフィルリアを問い詰めようとしたのだろう。しかし、甲高い女性の悲鳴によって、その言葉は遮られてしまっていた。
そちらを見ると、1人の女性が血を流して倒れ伏している。その傍らには、血によってあかく染まった剣を提げた、1人の竜人がいた。
複数の人間がこちらにかけてきているのは分かっていたのだ。だが、警備兵なのかと思ってしまっていた。
あの竜人、どう見たって警備員じゃないよな? しかも、凶行はまだ終わっていなかった。竜人の隣にいた獣人が、同じように周囲の人間へと襲い掛かろうとしていたのだ。
それを見ながら、フィルリアが叫ぶ。
「仲間を助けに来ましたか! やはり、その黒猫族たちは暗殺者に違いありません!」
竜人と獣人の暴漢は、即座にフィルリアによって取り押さえられた。というより、自分で動きを止めたようにも見えた。
二人の首には奴隷の首輪が嵌められているし、一切の言葉も発さない。明らかに、フィルリアの自作自演だった。
闇奴隷を使って、こっちをさらに追い込もうというのだろう。しかし、普通の人々には、フィルリアの大活躍に見えているようだ。
尊敬の念の籠った目で、医長を見詰めている。これは、かなりマズいんじゃないか?
「フランは私の友よ!」
「純粋な聖女様を騙して取り入るとは! なんて卑怯な!」
「騙されてなんかいない!」
「いいえ、騙されております! 耳に痛いでしょうが、その者たちはあなたを利用しているだけなのです!」
利用しっぱなしの奴が何を! だが、形勢は向こうへと傾きかけている。明らかに、人々がフィルリアを信じ始めているのだ。
「その者たちを捕えて聖女様を救い出します! 力を貸してください!」
そして、フィルリアの言葉に、多くの人々が反応していた。
「聖女様を助けろ!」
「無法者たちを取り押さえるんだ!」
叫びを上げながら、こちらへと駆け出す。
中には元冒険者だけではなく、一般人も多いはずである。それなのに、そのやる気は凄まじかった。
皆がやる気に満ちた顔で、穴を降りてくる。転げ落ちる者たちも多いが、それでも闘争心は消えていなかった。
ソフィを助けるのだという、義侠心に満ちているのだろう。
『フィルリアの奴! 警備兵を使うんじゃなくて、一般人を動かしやがった!』