軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

874 フィルリアと闇奴隷商人

フランとフィルリアが静かに見つめ合う。

両者の間には、何とも言えない緊張感が流れていた。

表面上ではソフィを挟んで近しい間柄であるが、裏では互いに敵であると知っているのだ。

まあ、フィルリアにとってフランは、彼女の邪魔をしている目障りな冒険者程度の認識だったのだろうが。

まさか、ソフィとフランに繋がりがあるとは思ってもいなかったらしい。

それでありながら、咄嗟にフランの暗殺者疑惑を口にして、その仲を裂こうとしたのは恐ろしい。それでフランたちが互いに不信感を抱かなかったとしても、絆の強さを推し量ることができるのだ。

瞬時にそこまで計算したのだろう。

ここからどう動くべきだ?

理想は、この場所でフィルリアの悪事を暴いて、排除することなんだが……。無理だろう。

悪事の証拠もないし、あってもそれを信じてもらえるかすら分からない。

この町の最高権力者の一人であるフィルリアがその証拠を捏造だと言えば、そっちが信じられてしまうに違いない。

他の国で考えれば、貴族みたいなものなのだ。しかも、それなりに地位の高い。彼女が黒と言えば、白だって黒になりかねない。いや、なる。

この場で、ソフィが友人だと宣言した相手を、無理に排除しようとは思っていないようだが、この後は何をしてくるか分からなかった。

だが、先に攻撃してしまえば、こっちが悪者だ。そもそも、結界屋の能力が分からない以上、無理はできない。

実は、こいつらが現れた時、鑑定をしていた。鑑定を感知されたとしても、間違えて咄嗟にという体を装えると考えたからだ。

だが、鑑定は届かなかった。感知系スキルが無効化されるのと同じだ。結界魔石や、それに近い道具を所持しているらしい。

どちらにも鑑定が効かなかったことを考えると、鑑定阻害系の結界道具をセリアドットが量産できるのかもしれなかった。

ともかく、能力が不明のランクA冒険者なんて、万全の状態でも勝てるかどうかわからないのだ。

それに、大勢の患者さんがいるここで、戦闘を始める訳にもいかなかった。だが、ここで何もせずに逃げ帰るのは勿体ない。

少しでも情報を引き出そう。

「私は、闇奴隷商人を探してる。どこのどいつなのか、知らない?」

「私が知るわけないでしょう?」

「この町で一番偉いのに? それに、治療院なら患者を死んだことにして、奴隷にすることも可能」

「我らがそんなことをするわけがありません! 次にふざけたことを言ったら、叩き出します」

「じゃあ、本当に闇奴隷を売っても買ってもいない?」

「出ていきなさい!」

「質問に答えたら出ていく」

「闇奴隷などという汚らわしい存在、関わりがあるわけがありません!」

フランの質問で、相当取り乱したらしい。金切り声で叫んだ。隠していたことをいきなり質問されて、焦ったんだろう。

こいつが闇奴隷商人に関わりがあるってことはよくわかった。少なくとも、闇奴隷商人がどこの誰なのか、知っているようだ。

これは、近いうちに本当にセリアドットと戦うことになるか?

俺がそんなことを暢気に考えていたら、フランがふいに戦闘態勢に入ったのが分かった。

見た目には、ほんの少し前傾姿勢になっただけだが、今のフランなら一瞬で俺を抜いて斬りかかることができるだろう。

それに気づいたのは、ソフィとセリアドットだけである。フィルリアを含む他の人間たちは、フランが少し不機嫌になった程度にしか見えていないはずだ。

フィルリアが闇奴隷商人に関係があると、まだフランに伝えていない。だが、俺の微妙な雰囲気から、虚言の理の結果を理解したようだ。

互いに深く理解しあっているからこそ、隠し事ができなかった。

『フラン。気持ちは分かる。だが、ここで戦うのはまずい!』

闇奴隷商人の元締めがフィルリアで、こいつを倒しただけで全てが終わるのであれば、お尋ね者になる覚悟で戦いを挑むのもいいだろう。

しかし、そんな単純な話ではないはずだ。大きな組織の末端でしかなかった場合、フィルリアを尋問して情報を引き出さねばならない。

人目がいくつもあるこの場所から、誰にも気づかれずにフィルリアだけを捕えて連れ出すのは不可能だった。

フランだってそのことは理解できているはずなのだが――それでも抑えきれない殺意が、フランの体を僅かに動かしてしまったのだろう。

「おぬし、何のつもりじゃ?」

セリアドットがギロリとこちらを睨む。可愛らしい顔からは想像もできないほどの、凄まじい重圧がフランを包み込んでいた。

彼女からしてみれば、自分の雇い主に無礼な質問をぶつけたうえに、不貞腐れて逆切れしているように見えたのだろう。

互いに警戒するせいで戦闘態勢を解くことができず、緊迫した雰囲気が流れる。

そんな緊張感をぶち壊したのは、新たに塔へと駆け込んできた人影だった。

冒険者であるようだ。よほど急いできたのか、入り口で膝を突いてしまった。それでも、力を振り絞って、叫んだ。

「こ、抗魔の軍勢が! 町に! 冒険者は、全員迎撃に向かえとの指示だ!」

なんと、抗魔の季節がこの違法都市にもついに押し寄せたらしい。

フィルリアが、直ぐに冒険者へと質問をぶつける。

「数は?」

「最低、3万!」

「……様子見の先遣部隊かしらね?」

「そうであろうなぁ。ここを襲うには数が少なすぎるわ」

3万というと多そうだが、カステルの抗魔よりも少ない。大きな町を襲うには、戦力が不足しているだろう。

フィルリアが言う通り、先遣隊の可能性が高かった。

自分の護衛と推測を話し合っていた嘘つき女が、フランを見る。

「抗魔が襲ってきた場合、冒険者は強制的に招集されるはずよ。行かなくていいのかしら?」

「……セリアドットは?」

「儂は治療院の護衛じゃぞ? 動かんでいいと言われとる」

重要拠点の護衛まで、戦闘に駆り出すわけにはいかないのだろう。

「……私は行く。ソフィ、また会いに来る」

「私はここで人を治すわ。死なないで」

「ん」

フランはソフィに挨拶すると、そのまま塔を飛び出した。まずはギルドへ向かわないとな。

ただ、ギルドマスターのプレアールが、いよいよ信用ならない。

あの爺さん、この町にはランクA冒険者はいないと言っていたはずだ。だが、実際にはセリアドットがいた。

護衛役だから戦力に数えられないのかもしれないが、それでもフランに伝えるくらいはしてもいいだろう。ランクA冒険者の情報は、うっかり忘れでは済まされない重さがある。

それに、わざと伝えなかったという可能性も高かった。フランを上手く動かすために、情報を隠したのだ。

前者であれば、能力的に信用ならない。後者なら、人格的に信用ならない。どちらにせよ、警戒する必要があった。

『単純素直なアウトローたちの方が信用できるって……。さすが違法都市。一筋縄じゃいかないな』