軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

867 ソフィと違法都市

「結局、私は人を不幸にするだけの存在だから……。この町に来てからだって、そう。多くの人が死んだ」

身の上を語り終えたソフィは、自嘲するようにそう呟く。

護衛リーダーのネルシュは何か言いたげだったが、結局何かを言うことはなかった。ソフィの暗い雰囲気を前にして、口を開く勇気がなかったのだろう。

だが、ここには空気を読まないことに定評のあるフランがいる。

「どういうこと? この町でも何かあった?」

「ええ、そうよ」

「多くの人が死んだの?」

「私のせいでね……」

唖然とするネルシュを他所に、ソフィが再び語り出す。多分、無意識にフランに聞いてもらいたいと思っていたのだろう。

饒舌とまではいかないが、話を躊躇う様子はなかった。

「私のせいで、大勢の人が死んだの」

「どういうこと?」

「私がこの町に来た時、その力を巡って大きな争いが起きたわ……」

この町にたどり着いた当初、ソフィは吟遊詩人として活動していた。そして、抗魔との戦いで傷ついた人々を癒して回ったらしい。

それは、純然たる善意だけではなかった。

養父たちを呪いの曲で殺したソフィは、自身の演奏が穢れてしまった気がしていたのだ。その穢れを払拭するために、演奏で人々を救いたいと考えていた。

それが、癒しの曲で人々を救うという行為だったのだが……。

彼女の行為は思いもよらぬ混乱を呼ぶ。

冒険者ギルドや治療院だけではなく、多くの裏組織が彼女を求めて争い出したのだ。彼女の癒しの力があれば、他の組織から一歩抜きんでることが可能だからだ。

守ろうとするギルドと、逃げる少女を追う組織の間で抗争が激化し、多くの死者が発生してしまう。

その後、治療院に所属することで抗争は収まったが、ソフィは自分のせいで町に迷惑をかけたという後悔の気持ちを抱える。

その想いを晴らすために、ソフィは献身的に働いた。冒険者でも、アウトローでも、奴隷でも関係なく、助け続けた。時には魔力切れで意識を失うことすらあったが、毎日朝から晩まで演奏を続けたのだ。

すると、いつの間にか聖女と呼ばれるようになっていたらしい。だが、その名声に反し、ソフィが人々の前に出る機会は減っていった。

「治療院の上層部が、私を治療の場に立たせる回数を減らしたの」

「なんで? 聖女なんでしょ?」

ソフィが治療を続ければ、治療院の名声も高まるんじゃないのか?

だが、ソフィを聖女として働かせることには、メリットだけではなくデメリットも存在していた。

「まずは金銭面の問題」

ソフィは罪滅ぼしのつもりであったため、ほとんどお金を取っていなかった。それは治療院に所属しても同様だ。

その条件で、治療院の庇護下に入ったのだから。だが、大勢の人間を一度に治療できるソフィがいれば、それでほとんどの治療は事足りてしまう。

慈善団体ではない治療院にとって、それは由々しき事態であった。

また、治療費を取れなくなれば必要な物資などを購入する金も足りなくなり、いずれ治療院は破綻するだろう。

もう1つのデメリットとして、後進が経験を積めなくなってしまうという問題もあった。若い治療師たちにとって、患者を治療することは数少ないスキルのレベリングの機会である。

ソフィが1人で治療を行い続ければ、他の治療師が全く育たなくなってしまう。実際、それに近いことが起こりかけていたそうだ。

それらの事情から、ソフィの癒しは頻繁に使うべきではなかった。

治療院は、ソフィの治療は最後の手段と定めたのである。ただ、ソフィ自身が望んだため、冒険者やアウトローなど、まともではない客への治療は彼女が担当するようになった。

ソフィとしては、祭り上げられた状態でお飾りにされることを嫌っただけなのだが……。

民衆が怒るかと思われたが、あまり姿を現さなくなったことでむしろ神秘性が増したらしい。聖女の名声はさらに高まり、ソフィへの神聖視が凄まじいこととなってしまう。

それだけなら、ソフィ自身が少々居心地の悪い思いをするだけで済む。問題は、その後であった。

ソフィがいればいざという時には癒してもらえると考えた冒険者やアウトローたちが、今までよりも無理をするようになってしまったらしい。

瀕死でも、生きて戻れば治してもらえるのだ。その油断から、命を落とすものが増えてしまう。聖女の声望を聞きつけ、今まで以上に人の流入が増したが、損耗率も増したことで、冒険者の数は変わらない。

だから誰も問題にはしないが、当のソフィがそれを最も気にしてしまっていた。自分が良かれと思ってやったことで、人死にが増えたのだ。無理もない。

また、聖女のためにと言いながら、無体を働く護衛や衛兵の姿を度々目にするようになったのも、彼女の苦悩をさらに深めた。

自分がいることで、この町がおかしくなっているのではないか? 自分は、上手く回っていたこの町を歪めただけなのでは?

さらに、治療院上層部に対する不信感もあった。明らかに、便利使いされているからだ。

いつしかソフィは聖女と呼ばれることを嫌い、治療行為を恐れるようになっていった。ここ1年ほどは治療をせず、抗魔狩りをして過ごしていたそうだ。

しかし、それでも気分は晴れず、色々あって家出をした先でフランと出会ったということだった。

「私の事情は、そんな感じね。それで、1つ聞きたいことがあるの」

「なに?」

「あなたは、私を殺しに来たの?」

「?」

どういうことだ? フランが首を傾げていると、ソフィが軽く息を吐く。

「そうよね。そんなわけがないわよね」

「ん。でも、どうしてそんなこと聞いた?」

「フィルリアが、部下に命令しているのを聞いてしまったのよ。黒猫族の少女が、獣人会と組んで私を殺そうとしているから、直ぐにとらえるように手配しろって……」