軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

865 聖女ソフィ

「フィルリアの命令が聞こえたから、慌ててきてみたけど……。本当にあなただったのね」

ソフィが疲れた様子で呟く。

どうやら、ソフィは色々と事情を知っていそうだった。そんな彼女の登場に、フランが首を傾げる。

「ソフィはどうしてここにいる?」

「お前! 聖女様を呼び捨てにするとは何事だ!」

「不敬だぞ! 牢にぶち込んでやる!」

「黙りなさい!」

「し、しかし……!」

「私は、黙れと言ったのだけど?」

「も、申し訳ありません!」

フランがソフィを呼び捨てにしたことで気色ばんだ警備兵たちだったが、そのソフィ自身に叱られたことで、シュンとなっている。

しかし、聖女って呼ばれてたか? 治療院の聖女と言えば、要注意人物の1人だったはずだ。

本人は悪人ではなく、周囲が暴走しがちという話だったが……。

「ですが、聖女様を蔑ろにするような発言をするのは――」

「私の命令を聞かないあなたたちこそ、私を蔑ろにしているんじゃない?」

「そ、そんなことはありません!」

「そうです!」

「なら、もうそろそろその口を閉じなさい。耳が悪いようだからもう一度言うけど――黙れ」

「……!」

ソフィが苛立った様子を隠すこともなく、言い放つ。その表情は、カステルでともに戦った少女と同じ人物だとは思えないほどに酷薄な印象だった。

登場した時から感じていたが、妙に苛立っているようだ。

ソフィの迫力に怯えたのか、警備兵たちが蒼白な顔で黙る。

だが、反省の色はなく、かなり戸惑っている様子が分かった。自分たちが悪いことをしたと思っていないのだろう。

これは、ソフィがいない場所でどんな暴走を仕出かしているか分からんな。

「あなたたち、フィルリアに命じられて彼女を捕えにきたのよね?」

「は、はい。正確には、医長の護衛の方に命じられました」

「敷地の外で怪しい動きをしている黒猫族の少女が、盗賊の仲間だと……」

医長? そいつが黒幕なのか?

「ソフィ、医長って、誰?」

「……ここではちょっと。私の部屋へ行きましょう。彼女は連れていくわ。いいわね?」

「……は!」

警備兵たちはどう見ても不満気だが、逆らう様子はなかった。

「こっちよ」

「ん」

ソフィがフランを待たずにサッサと歩き出す。一瞬迷ったようだが、フランはすぐにその背を追って歩き出した。

治療院は怪しいが、ソフィがフランを嵌めるとは思えない。それに、聖女と言われるほどなのであれば、彼女と一緒にいればおいそれと手出しはされないだろう。

色々と聞きたいことはあるが、移動するまでは下手な質問はできそうもない。

黙って歩いていると、前方からこちらへと駆け寄ってくる、厳しい顔の男たちがいた。

見覚えがある。それは、ソフィの護衛をしていた男たちであった。カステルでも一緒に戦った仲である。

信頼できるとは言い切れないが、ソフィを裏切るような真似はしないだろう。何せ、死ぬ可能性のある場所にまで付いてくるほど、ソフィへの忠誠心が高いのだ。

「聖女さ――お前はっ!」

「久しぶり」

「ああ……。そ、それよりも聖女様! 部屋を勝手に抜け出されていたので、心配しましたぞ!」

以前は聖女と呼ばないようにしていたはずだが、もうフランにはバレていると判断したのだろう。普通に聖女と口に出している。

「ちょっとね」

「そ、そうですか」

そっけなく答えたソフィに、護衛がたじろぐ。そして、直ぐにフランを睨んできた。

「なに?」

「なんでもない!」

何でもないわけなさそうだが、男はそのまま黙ってしまう。まあ、フランのような冒険者が、ソフィに対して馴れ馴れしくするのが気に食わないのだろう。

微妙な雰囲気のまま、俺たちは治療院へと足を踏み入れた。聖女と呼ばれるだけあり、周囲の人間たちが次々と頭を下げる。

兵士、患者、アウトロー、全員が敬意を持っていることが分かった。中には、かなり狂信的な感じの表情を浮かべている者もいる。

フランを不審に思うのは、兵士くらいであるようだ。ほとんどの人間はソフィに集中しているので、気配を消しているフランなど目に入らないのである。

ソフィはそんな人々に特に言葉を返すこともなく、黙ったまま治療院を奥へと進んでいった。魔力を利用したエレベーターに乗り込み、上へと上がっていく。

ソフィはフランを驚かせたかったらしく、エレベーターに無反応なフランにむすっとしていたな。

驚いていないわけじゃなくて、顔に出なかっただけなんだが。

「この部屋よ。入って」

「ん」

「あなたたちは、外で誰も来ないように見張りを。ネルシュだけ入って」

護衛のリーダーはネルシュというらしい。他の護衛たちは大人しく部屋の前で待機する。

「さて、フランには少し私の立場を説明しておくわ」

「ん。聖女様?」

「様はよして。ソフィでいいわ」

「わかった。ソフィ」

フランがコクリと頷くと、ソフィが嬉し気に微笑んだ。対してネルシュは複雑な顔である。

治療院で再会した時から薄々勘づいていたが、ソフィは聖女扱いが好きではないらしい。ネルシュはそれを苦々しく思いつつも、ソフィの意思も無下にはできないってとこかな?

「聖女だとか、この塔の有力者だとか言われてるけど、別に特別な身分があるわけじゃない」

「そうなの?」

「周りが聖女って呼ぶから特別扱いされているだけで、身分は客分みたいなものよ。ここに来たばかりの頃は、そうじゃなかったんだけどね……」

沈んだ様子でそう語るソフィの顔には、紛れもなく寂しさが浮かんでいた。