軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

862 抗争鎮静

広場に戻ると、獣人も竜人も騒ぐことなく静かにしていた。

フランの威圧に、謎の爆発と、立て続けに衝撃的な事件が起こったので、諍いを続けるどころではなくなってしまったのだろう。

互いを意識しつつも、困惑した様子で立ち尽くしている。

特に下っ端たちは、所在なさげだ。リーダーであるワンゴンやゲフの命令なしでは立ち去ることもできないし、どうしていいのか分からないのだろう。

そのワンゴンとゲフからも、もう戦意は感じられない。

「お嬢と旦那! 黒雷姫の嬢さんと知り合いなんですかい?」

「ああ。その通りだワンゴンよ」

「ん」

「……やっぱ黒雷姫殿だったんじゃねーか」

「!」

あ、そういえば否定してたんだった! やるな、ワンゴン! フランは慌てて首を横に振るが、もう遅かった。

「違う。黒雷姫なんて知らない」

ワンゴンはジト目でこっちを見つめている。それでもフランは、否定を続けたんだが……。

「いや、お嬢も一度認めたじゃねーか」

「……」

「そ、そんな目で見られても……。済まんかった」

「もういい」

フランがそう呟いて肩を落とす。せっかく正体を隠していたのに、あっさりバレてしまったからだろう。ちょっと悔し気だった。

「それで、話したいこともある故、とりあえず矛を収めて落ち着いて――はもういるな」

「もう、何が何だかわからねぇっすよ」

ワンゴンはフランだけではなく、メアも格上認定しているようだ。舎弟ムーブが凄い。メアに言い含められれば、これ以上争うことはなさそうだ。

獣人たちへの説明はメアに任せて、フランはゲフへと近づいていった。獣人の仲間扱いされるかと思ったが、ゲフが警戒するようなことはなかった。

他の竜人たちは身構えているが、ゲフはむしろ笑顔だ。

「あんた、すげぇな!」

「ん?」

「あの迫力! いやー、久しぶりに震えが来たぜ! あんたが竜人だったら惚れてるところだ!」

どうやら、フランの強さに感動したらしい。今にも舎弟にしてくれと言いだしそうな雰囲気であった。

にしても、竜人だったら惚れてたって……。ロリコ――いや、それくらい気に入ったってことだよな? そうであってくれ。

「これ以上の喧嘩を止める」

「……分かったよ。だが、俺たちも仲間をやられてるんでな。ただ引き下がるわけにもいかねぇんだよ」

ゲフとしてはフランの言葉に従いたいらしい。そもそも、フランが実力行使に出れば、自分の仲間が大勢倒されると分かっているのだ。

だが、アウトローたちは面子を大事にする生き物だ。部下の手前、日和った姿を見せるわけにはいかないらしい。

「ガズオルのこと?」

「知ってんのかい?」

「ん。でも、獣人会が犯人じゃないと思う。説明するから、とりあえずこっちきて」

「……分かった」

ということで、アウトローたちが見守る中、ワンゴンとゲフに対する説明が始まる。まず、フランがあるものを取り出した。

周囲のアウトローたちが騒めくのも無理はないだろう。それは、ヌメラエエの下半身であった。中には口元を押さえて、吐き気をこらえている者たちもいる。

意外と繊細だな。いや、この都市の人間が戦う相手は抗魔であることが多いし、意外と血には慣れていないのかもしれない。

「ず、随分と物騒なもんを出すじゃねぇか。こいつは?」

「この矢を撃った犯人」

「ほほう? つまり、竜人どもの射手が撃ったわけじゃねぇと?」

「ん。獣人と竜人を喧嘩させるために、この矢を使った」

ワンゴンとゲフが、鋭い視線でフランが取り出した矢を睨む。彼らも、ヌメラエエが抗争を煽るために暗躍していたと理解したんだろう。

「ミランレリュの矢を真似て、うちに罪を擦り付けようとしてたってわけかよ」

「こいつは、どこのどいつなんで?」

「名前はヌメラエエ。それだけしか分からない」

「詳しく尋問する前に、目の前で死んでしまったからな」

メアとフランが、その時の状況を軽く説明した。まあ、さほど複雑ではない。矢を撃ったことは認めたが、その後爆発の魔道具で殺されてしまったのだ。

「つまり、どこかの誰かさんが、うちらと竜王会の抗争を煽っているってわけですかい? この下半分は、その手下のもんだと?」

「ん」

「……信じられんが、あんたらが嘘を吐いているようにも見えんな」

「うむ。嘘ではないぞ!」

「……そうかい」

ゲフはメアを不審気に見ている。顔を隠しているのに、妙に偉そうだからだろう。それでも正体を問い質さないのは、それがこの都市の暗黙のルールだからだ。

違法都市に流れてきたやつらなんて、過去を聞かれたくない奴の方が多いだろうからな。

「ガズオルのことも、こいつらが攫っていったと思う」

「なるほどなぁ。だが、どうしてあんたがあいつを知ってるんだい?」

「戦ったから」

「はぁ?」

フランがガズオルに襲われた時のことを語る。ガズオルに襲われ、返り討ちにしたこと。傷を癒すと驚かれたこと。その後、放置したせいで攫われたかもしれないこと。

話しながら、フランが顔をしかめる。俺たちが拘束したまま放置したせいで、抵抗することもできずに連れていかれてしまった可能性があるからだ。

すると、話を聞き終わったゲフが、怒りの表情を浮かべていた。ただ、その怒りはフランに向けたものではない。

「ガズオルの奴を、闇討ちに使ったぁ? 上は何を考えてやがる? あいつにそんな仕事が向かないのは、分かっているだろうが!」

それは、不向きな任務に駆り出した上層部への怒りであった。

「あんたは責任を感じてくれてるようだが、不要だ。こっちが100悪い」

「……ん」

先に襲いかかってきたガズオルが悪いことは分かっているんだが、それが竜人と獣人の対立を煽る理由の1つになっていると思うと、なんとなく嫌な気持ちになるのだ。

「ともかく、コソコソと動き回っている奴らに踊らされるのは業腹だ。ここは引くとしよう。黒幕ってやつも探さなきゃなんねぇし、上の奴らにも話を聞かなきゃなんねぇからな」

良かった。なんとか、この場は引いてくれそうだった。ただ、竜王会が内部で争いなんてことにならないよね?