軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

858 ワンゴンとゲフの実力

ワンゴンは元々犬に近い顔だったのだが、覚醒して赤狼となった今は、腕なども毛むくじゃらで獣感が凄まじい。

そんな人狼のような姿のワンゴンは、その場で思い切り息を吸い込んだ。

5秒、10秒たっても吸引が終わらず、仕舞いには破裂するのではないかと心配になるレベルで胸が膨らんでいた。

その直後、ワンゴンの口から凄まじい咆哮が発せられる。

「狼咆ぉぉぉ! ぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」

仲間の獣人たちや竜人、少し離れたフランまで耳を押さえるほどの大音量だ。

しかも、この爆音はただの副産物である。本命は、前方へと発せられた衝撃波であった。

まあ、さほどの威力ではないようだし、防壁が破壊されるほどでは――。

(壁、消えた)

『まじかよ!』

衝撃波は防壁に弾き返されるどころか、その半数を一気に消し飛ばしていた。

どうやら、衝撃波もおまけで、そこに乗った魔力が本命であるらしい。魔力をぶつけることで、魔術を妨害する効果があるらしい。

それとほぼ同時に、残りの防壁も消え去ってしまっている。

「邪突衝!」

ゲフだった。邪気を纏った槍で、防壁を貫きやがったのだ。術が安定を欠き、あっさりと防壁が消滅する。

この現象、心当たりがあった。シエラと魔剣ゼロスリードが、相手の魔術やスキルを打ち消すために使っていた、邪気を利用した技だ。

規模は小さいながらも、似た効果のある技を使えるらしい。

防壁を破壊した勢いのまま、ワンゴンとゲフが再度武器を構え合った。

「おるぁぁぁ!」

「どらぁぁぁ!」

風の防壁を張った程度では、もう止められそうもなかった。フランもそう考えたのだろう。俺が止める間もなく、屋上から飛び出してしまっていた。

空中を蹴り、超高速で2人の間に割って入る。

「そこまで」

「なぁ? ガキィ?」

「ケダモノどもの助っ人か?」

自分の攻撃を剣一本であっさり弾き返したフランに、どちらも驚きの表情を浮かべていた。

『あー、やっちまったぁ!』

(止めるためには、仕方ない)

『そうだけどさぁ』

ワンゴンとゲフ、双方から不審の目を向けられている。とりあえず、竜人たちと獣人たちの殺し合いは止められたが……。

「ちっ」

「くそっ」

ワンゴンとゲフが、ほぼ同時に後ろへと飛び退く。

「おい、ガキィ。テメェ何もんだ? で、なんのつもりだ?」

「ああ? テメェらんとこの助っ人だろうが!」

「お嬢のことか? こんなチビじゃねーよ!」

「だったら、どこのどいつだよ!」

赤狼となったワンゴンと、邪竜化によって鱗などの特徴が強く出たゲフが、フランを挟んで言い合いをする。

実は仲がいいんじゃないか?

ただ、ワンゴンがいち早くフランの正体に気づいたらしい。

「お前は――いや、待てよ。黒猫族のクソ強いガキ……? もしかして、黒雷姫か?」

「……違う」

「はぁ? 何いってる? お前、噂の黒雷姫だろ?」

「……黙秘」

フランはフルフルと首を横に振って、自分の口を塞いだ。もしかして、自分で名乗らなければ何とかなると考えているのだろうか?

「黒雷姫っつったら、最近名前を聞く冒険者だったよな? まじか?」

「間違いねぇ!」

やっぱこいつら仲いいな!

ほぼバレてしまったが、フランは頑なに首を横に振った。

「違う」

「嘘つけ! おい! お前獣人なんだから、こっちに付け! 奴らぶっ殺すんだよ!」

ワンゴンの言葉に、ゲフが焦った表情を浮かべる。さすが実力者。フランの強さを理解し、ここで向こうに付かれては危険であると分かったのだろう。

「あ! ズリィぞテメェ! お、おい! まだ獣人会に所属してるわけじゃないんだろ? だったら、ここはとりあえず消えろ! 駄賃やるから!」

自分たちの味方をしろと言わないところが、竜人という種族なんだろう。

「どっちの味方もしない」

「ほう? 俺たちにも、蜥蜴どもにも味方しないと? それじゃあ何のつもりでやってきたんだ?」

ワンゴンが目を細め、フランを睨んだ。ゲフも同様だ。

どうやら、冒険者ギルドが介入をしようとしていると思われたらしい。

これ、結構ヤバくない?

『フ、フラン、一度退こう。な?』

(だいじょぶ! 師匠は見てて)

フランは自信満々にそう言って、両者に向かって口を開いた。

「まずは、喧嘩をやめる!」

「け、喧嘩って……」

「喧嘩じゃねぇ!」

「みんなが迷惑する。だから喧嘩はダメ!」

なんというか、微妙に白けた気配が周囲に漂い始める。

自分たちの誇りをかけた争いを、フランのような子供に喧嘩呼ばわりされ、少しだけ客観視したようだ。

「喧嘩の理由はなに?」

「喧嘩じゃねぇ! 蜥蜴どもがいきなりこっちのシマを荒らしやがったんだ!」

「先にそっちが手を出してきたからだろうが!」

「出してねぇ!」

「惚けんじゃねぇ!」

せっかく落ち着き始めていたのに、また熱くなってきてしまった。その時、フランが弾かれたように横を向く。

(師匠。あっち)

『何かあるのか?』

フランが目を向けた先を俺も見つめるが、何も感じられない。だが、フランは明らかに何らかの異変を感じ取っている。

この都市に来てから、何度目だろうか?

(殺気)

『はあ? 殺気?』

それは――。

「師匠っ!」

『分かってる!』

俺は気配を感じられないが、さすがに放たれた矢を見逃すことはない。そう、どこからともなく、1本の矢が射かけられていた。

その矢を、俺は念動で受け止め、引き寄せる。それは、中が空洞になったあの矢であった。

『こないだと同じ奴だ!』

(ん!)