軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

856 プレアールの情報

「さて、次は、お前さんに頼まれていた情報。つまり、獣人会の助っ人に関してだ」

「ん」

プレアールの言葉に、フランが改めて居住まいを正した。そして、真剣な目で老人の顔を見つめ、次の言葉を待つ。

「女と男のコンビで、獣人会の本部に住み込んでいるらしい。獣人会の依頼で動く以外はほとんど外に出ず、行きつけの店なんかもないようだ。お嬢と旦那と呼ばれているそうで、名前は分からなかった」

プレアールがそこまで言って口をつぐんだ。俺もフランもその先を待ったが、プレアールは困った顔で頭をボリボリと搔いている。

「……それだけ?」

「あ、ああ」

「……」

「いや、俺もまさかこんなしょぼい報告しか上がってこないとは思ってなかったんだよ……」

プレアールが弱ったような表情で、肩を竦めた。

たった2日で調べ終わったのかと感心していたんだが、調べるような情報がそもそもなかったらしい。

本部に住み着いていて、用心棒仕事の時以外には出歩かない。そりゃあ、少し監視していれば分かるだろう。

獣人会の人間に探りを入れもしたようだが、強くて尊敬されているということ以外に目立った情報はなかったらしい。

「す、すまねぇ。さらに情報を集めさせるから、先走んねぇでくれ! 頼む!」

「……」

頭を下げるプレアールに対し、フランはジトーッとした目を向けている。

「立腹はもっともだ! だが、お前さんはランクB冒険者。この都市の中じゃ、最もランクが高い。そんな人間が騒ぎを起こせば、冒険者ギルド全体が疑われちまうんだ!」

「……アースラースがいるはず」

「奴なら、もうこの町を出た」

「そうなの?」

「まあ、少しすれば戻ってくるがな」

狂鬼化の前兆を、自分で感じ取ったらしい。抗魔の季節ともなれば、激しい戦闘が予想される。そのせいで、町の近くで暴走してしまう恐れもあった。

それならば、遠く離れた場所で、一度発動させてしまえば迷惑は掛からない。つまり、ガス抜きをしにいったってことなのだろう。

「他にランクA冒険者は?」

「少なくとも、ギルドに報告に来た中にはいないな」

「ランクB冒険者なら、他にもいる」

「異名持ちはお前さんだけだ」

「むぅ」

俺たちが知らないうちに、この都市の筆頭冒険者的なことになってしまっていたらしい。

非常に面倒だが、ランクを下げることはできないし、ランクB冒険者の中でも異名を持つフランが頭一つ抜けていることは間違いないのだろう。

今まで、ランクが上がることのデメリットを感じたことはなかったが、初めて高ランクの責任みたいなものを実感したな。

「だからよぉ、あと数日でいいんだ。大人しくしていちゃくれねぇか?」

「……次は、信用していい?」

「勿論だ」

プレアールは真剣な顔で頷く。自信ありげだ。

ただ、信用していいのだろうか? また大した情報がないとなると、フランが暴れかねないぞ?

そもそも、手を抜いている可能性はないか? プレアールにとっては、この都市を守ることが至上命題であるはずだ。

そのためだったら、どんなことでもするだろう。闇奴隷商人だって、戦力になるとなれば見逃すかもしれない。

そんなギルドマスターにとって、フランをこの都市に留めつつ、アウトローたちへの被害を減らすにはどうすればいいか?

俺なら、ここで情報を全部渡すような真似はしない。のらりくらりと適当な情報を渡して、抗魔の季節が終わるまでフランを囲っておくだろう。

『うーむ』

そうやって疑い出すと、プレアールの報告も怪しく思えてくるのだ。

プレアールを詰問するかどうか? 悩んでいると、ギルドの酒場に飛び込んでくる人影があった。

スイングドアを乱暴に押し開けた甲高い音が酒場中に響き、そこにいた全員の視線が人影に向く。

斥候系の冒険者だろう。余程急いで駆けてきたのか、額からは滝のような汗を流し、ゼーゼーと息を切らせている。

「た、大変だ……」

「ど、どうした? 何があった!」

緊急事態が起きたということは、誰が見ても分かる。さすがのプレアールも、動揺した様子で男に聞き返していた。

もしかして、抗魔の大攻勢が始まったか? カステルにあれだけの抗魔が現れたことを考えれば、いつセンディアに抗魔の大群が襲い掛かってきてもおかしくはない。

ただ、今回は違っていた。

「り、竜王会と、獣人会が……」

男のその呟きだけで、プレアールは事態を把握したようだ。老いた体からは信じられないほど、大きく鋭い声で男性に聞き返した。

「どこでだ!」

「に、西の広場で! 獣人会の支部のあるところです!」

「他の奴らは?」

「見張ってます! でも、もう冒険者じゃ止められず……!」

アウトローたちの縄張りである西地区で、抗争が始まってしまったということか。

この男は、アウトローたちの監視役だったのだろう。

(師匠、いく)

『分かった。だが、下手に首を突っ込むと余計にこじれる。まずは様子見だ』

(ん)

最悪、姿を消した状態で雷鳴魔術をぶっ放して、両陣営を大人しくさせる必要があるかもしれない。

抗争の規模を見てからだけどな。

ドルーレイやベルメリアたちがいてくれたら、両者を大人しくさせられるか?

ギルドを飛び出したフランが裏道を駆けていくと、すぐに騒ぎが聞こえてきた。どうやら、まだ戦闘には発展していないらしい。

その代わり、離れたところにも両陣営の罵り合いが聞こえていた。余程頭に血が上っているらしく、フランの教育に悪そうな言葉が飛び交っている。

これは、落ち着かせるのは難しいか?

できるだけ流される血が少なく終わればいいんだが……。