軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

847 治療院の噂

ギルマスのプレアールに情報収集を頼んだ翌日。

俺たちは町の中央へと向かっていた。昨日の内に、住宅街や大通り沿いはだいたい回ったのだ。

(あの高い建物?)

『ああ。あの塔が治療院の本部らしい。治療所だけじゃなくて、幹部の宿舎とか、研究所なんかも入ってるんだってよ』

「へー」

フランは興味なさげに流すけど、この世界の基準だとかなり先進的な施設だろう。

清潔な診療室に、回復魔術師育成のための修行施設。さらには外科医術のための研究所まであるなんて、まるで日本の大学病院のような場所だ。

だとしたら、上層部が腐っているというのはありえるだろう。

白い塔の大学病院。そのまんまだよね。きっと、教授選で総回診で袖の下なのだ。ドロッドロでグッチャグチャな、権力争いが繰り広げられているに違いない。

(師匠?)

『すまん。考え事してた。治療院の評判は悪くないけど、大きな組織が綺麗ごとだけで回っているはずがない。油断するなよ?』

(ん)

町の雑貨屋などで治療院の話を軽く聞いてみたが、べた褒めであった。店番の爺さんが、やれ看護師が美人だとか、やれ先生が巨乳だとか、いらん情報まで教えてくれた。

一般市民からしてみると、高い代わりにしっかりと魔術で回復させてくれる、善良な存在でしかないらしい。まあ、雑貨屋の爺さんは、色仕掛けでコロッと騙されているだけかもしれんが。

他にも道行く女の人に、それとなく評判を聞いてみたりもした。

「ねぇ」

「あら? 何かしらお嬢ちゃん?」

「あの塔が、治療院ってところで間違いない?」

「ええ、そうよ。あなた、外の冒険者さんかしら?」

「ん。この町にきたばっか。治療院がおっきくてビックリ」

「そうなのねぇ。他の町の治療院はあんなに大きくないって聞くし、珍しいのかしら?」

「ん」

違法都市と言っても、長い間に一般人が大勢住むようになっている。そんな人たちは、他の大陸の一般人とさほど変わらない生活をしているようだ。

見るからにおしゃべりで世話焼きそうなおばちゃんを選んで話しかけてみたが、ビンゴだった。

フランに対して特に疑問を抱いた様子もなく、聞いたことに答えてくれる。というか、聞いたことに対して、何倍も返してくれたのだ。

その結果、治療院の評判の高さが分かっただけであった。

だが、おかしくはないか? これだけ聞いて、悪い噂が一つも出てこないなんてこと、ありえるだろうか?

その完璧さが逆に怪しかった。やましいことがあるからこそ、善良な組織を演じているのでは?

え? 考えすぎ? 白い巨塔じみているから、疑心暗鬼になっているだけ? ドラマ脳かって?

確かに、色眼鏡で見ていることは間違いない。だが、権力と利権を握る大組織が、清廉潔白なわけがないのだ! 異論は認める!

(どうする?)

『とりあえず患者を装って、内部調査といこうじゃないか。できるか?』

(ん。任せておいて)

フランは俺の言葉にコクリと頷くと、自分のお腹に両手を当てた。

「いたいー、お腹がー」

『おおぅ』

なんと清清しいまでの棒読み台詞! 大根女王の称号をあげちゃおう!

『も、もうちょっと痛そうにできるか?』

「いたいよー」

『苦しそうな顔をしてみたり?』

「くるしー」

『ち、ちょっと良くなったんじゃないか?』

「ん!」

やべー、演技スキルは残しておいた方がよかったかもしれん。いや、ちょっと前に再習得してたわ。演技:Lv1をしっかり持っている。

『フラン。演技スキルを発動させるつもりで、もう1度』

「いたたたー」

発動してるのか? してるな。しててこれだったわ。

多分、フランは絶望的に演技の才能がないんだろうな。

運動神経がいい人間が修行をして身につけた剣術:Lv1と、運動神経が悪い人間が魔道具の効果で無理やり発動させる剣術:Lv1は明らかに効果が違うだろう。

それと同じで、演技の才能がある人間が習得した演技スキルと、才能がないフランが俺に与えられただけの演技スキルでは、天と地ほども差があるのだ。

「完璧」

『ま、何とかなるかな? ただ診察してもらうだけだし』

そうして治療院に向かった俺たちなんだが、たどり着くことはできなかった。

その前で、騒ぎに遭遇したのだ。

「ぶっ殺してやる!」

「やられっぱなしでいられるか!」

「竜王会の奴らを探し出せ!」

殺気だった獣人たちが、大通りを横切っていくのが見えた。不穏な雰囲気だ。

(師匠、どうする?)

『とりあえず、気配を消して付いていってみよう』

(わかった)

『いざとなったらウルシに追跡してもらうかもしれないから、準備しておいてくれ』

(オン!)

今日、ウルシは影の中で昼寝をしていた。戦闘の予定もないし、買い食いもできないからだ。ここらで働いてもらうとしよう。

フランがスキルと魔術で気配を絶ち、獣人たちが消えていった方へと駆け出す。

暴力的な気配を発散する獣人たちは、遠くからでもどの辺にいるのか分かる。追跡するのは簡単だった。

しかも、近づくとその数が増えているのが分かる。10人ほどの獣人が、路地裏を駆けていった。

そして、その先には同じ程度の数の竜人たちが待ち構えている。

互いに抜身の武器を構え合い、いつ殺し合いが始まってもおかしくはない雰囲気だった。

『どう関わっても、厄介なことになりそうなんだが……』