軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

832 ナディア救出

共食いが発動したことで、オーバーグロウスの力が俺に流れ込んできた。恐ろしいほどの力の奔流だ。

以前のように正気を失いかけたが、アナウンスさんの補助のおかげで何とか持ちこたえることができている。

同時に、オーバーグロウスが急速に力を失っていくのが分かった。

触っただけで火傷しそうなほどの力を秘めていたその魔剣は、今や寒々と冷え切っている。

また、今までなら即座に修復されていたはずの刀身も、元に戻る気配はなかった。

確実にオーバーグロウスは壊れている。

俺たちの勝ちだ。

だが、それで終わりではない。むしろ、ここからが本番と言えるだろう。

「ソフィ……!」

スキルの反動で再び動けなくなったフランが、その場で崩れ落ちた体勢で、少女の名前を呼んだ。

「分かってる。任せておきなさい」

「ん」

ソフィが再び琴を鳴らし始める。

何度聞いても美しい音色だ。癒しの力を秘めるその曲は、いくら聞いても飽きるということがない。

オーバーグロウスが破壊されたせいか、ナディアの動きも止まってしまっていた。呆然としているのか、その場に棒立ちだ。

「ガ……アァ……」

その姿はまるで、心を失った怪物が女神の演奏する楽曲に聞き惚れて、涙しているかのような光景であった。

音が光となって漏れ、溢れ出し、ナディアを包み込む。

それでもナディアは動かない。

オーファルヴやトートも、警戒しながら静かにナディアたちを見守っている。

周辺で激しい戦いが未だに続いているというのに、ここだけは静かだ。見えない壁か何かで隔てられているのかと思うほどであった。

ポロロ――……。

音が止み、名残惜しんでいるかのようにゆっくりと、細い指が弦から離れる。

同時に光が収まり――中から現れたのは、人の姿を完全に取り戻したナディアであった。

意識がないようで、その場で崩れ落ちてしまう。

フランが起き上がろうとして、再び崩れ落ちていた。起き上がる力さえもう残っていない。

「おばちゃん……!」

『フラン、大丈夫だ。息はあるし、生命力も残ってる』

状態から侵蝕が、スキルからは金喰の表記がなくなっている。オーバーグロウスの影響は確実に消滅したのだろう。

「オン!」

ウルシがナディアに近づき、フンフンと匂いを嗅いで軽く吠えた。ウルシの鼻でも問題なかったのだろう。

「そう……よかった……」

フランはそのまま地面に顔を伏せて、涙声で呟いた。歓喜と感謝と安堵の思いが、涙となって溢れ出したのだろう。

鼻をすすっている。ただ、地面に伏せた状態で泣いたら、顔が……。

「本当に人に戻ったのか?」

「すっごいわね! ソフィの演奏も、フランたちの一撃も、見事だったわ!」

オーファルヴとジェインも近づいてくる。2人でナディアとフランの脈をとったりして、状態を確かめてくれているようだ。

「あとは抗魔を殲滅するだけだな!」

「トート、アンデッドたちの指揮は任せるわよ。私はフランとナディアの護衛に回るから!」

「よかろう。久しぶりの肉体故に、少々暴れ足りなかったんじゃ」

「ではいくか! 死霊の英霊よ!」

「うむ! 行こうぞ! ドワーフの女傑よ!」

オーファルヴとトートが楽し気に笑いながら、抗魔の群れへと突っ込んでいってしまった。

残敵掃討というにはまだまだ抗魔の数は多いが、ドワーフたちにはまだまだ余裕がある。任せておけばいいだろう。

「さて、それじゃあ行きましょ」

「ごめん、起きれない。ウルシ」

「オン!」

顔を拭うフランに呼ばれ、ウルシが背に乗せようと近づくが、それに待ったをかけたのはジェインであった。

「ちょいとお待ちなさい。狼くんには周囲の警戒をしてもらったほうがいいわ。超強そうだし。運搬役は私が用意するから」

ジェインが懐から10個ほどの魔石を取り出し、地面にばらまく。

「サモン・グレータースケルトン!」

「「「カタカタカタ!」」」

そして、そこから簡単に召喚して見せたのは、かなり強力なスケルトンだった。多分、脅威度Dは超えている。

さすがジャンの母親で魔王様。すさまじい死霊術の腕前だった。

(オン?)

『ここはジェインに従っておけ。お前が護衛に回ってくれるほうが俺も安心だ』

(オン!)

スケルトンたちが、フランとナディアをお姫様抱っこし、残りが守るように周囲に散った。

抗魔の真っただ中にいるとはいえ、未だに周囲は魔族たちが守ってくれている。少々過剰戦力かと思えるほどだ。

「物語の幕引きはハッピーじゃないとね! ここまで来て不覚を取るなんてワタクシが許さないんだから!」

万全を期してくれたようだ。まあ、命を守るための戦力だ。多少過剰なところで俺に文句はない。むしろありがたかった。

『俺は、能力の確認をしないとな』

フランの移動はジェインのスケルトンに任せて、共食いの成果をチェックしておこう。まず確認するのは魔石値の部分だ。

『だよな……』

魔石値は残り28。0といってもいいレベルだろう。むしろ、よくこんな半端な数値が残ったな。

ただ、これは予想していたことだ。ダメージは少ない。だって分かってたから! 全然悲しくないんだから!

『……はぁ』

さっさと強化された部分を確認して、癒されよう。

『え? まじか?』

ファナティクスを吸収したときほどではないが、能力が驚くほど強化されていた。

攻撃力が150も上がり、1500の大台に乗っている。これだけでも十分嬉しい。しかし、強化はこれだけではない。

保有魔力が3000ほど増え、20000を超えた。耐久値も1000近く上昇したかな? 総計で16560となっている。

ファナティクスを共食いしたときには攻撃力が上昇しなかった代わりに、魔力が約5300ほど上昇し、耐久値は3300程度増えていたはずだ。

今回は攻撃+150、魔力+3000、耐久値+1000と考えると、ファナティクスの方が実入りがよかったかな?

俺にとっては魔力の上昇が一番ありがたいからな。同じ廃棄神剣とはいえ、ファナティクスは元神剣。オーバーグロウスは最初から神剣になれなかった廃棄神剣。

格が違うのかもしれない。

あと、スキルが1つ増えている。しかもユニークスキルだ。その名も『合魔討ち』。不自然に混ざり合った魔を討つという、アバウトな説明しかない。

ただ、オーバーグロウスから引き継いだことを考えると、深淵喰らいに効く能力だと思われる。多分、キメラのような複数の存在を合成して生み出された相手に、特効を得るようなスキルなのだろう。

『まあ、使ってみれば分かるか』