軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

815 黒角騎士

新たに出現し始めた、黒角騎士。

こっそり抗魔カードを確認してみると、1体倒しただけで600ポイントも増えていた。

以前倒した魔砲型や、指揮官個体の半分近いポイントだ。

しかも、今回はあの時のようにソロではない。部隊で戦っているのだ。

抗魔ポイントは、倒した者だけではなく、周囲にいた抗魔カード持ちにも少しずつ分散されるらしい。そうでなくては、攻撃役ばかりがポイントを得ることになってしまうだろうしね。

つまり、周囲の仲間たちに分散していながら、600ポイントも貰えるような相手だったということだ。

角も付いていることだし、この近辺の抗魔たちを指揮する小隊長的な個体なのかと思ったんだが……。

なんと数分もすると、黒角騎士が大量に姿を現していた。

「たくさんきた!」

『いよいよ本隊ってことか?』

それこそ、今まで散々倒してきた雑魚抗魔たちのように、黒角騎士型が群れを成して襲いかかってくる。

外周を取り巻く下級抗魔の層を突破し、中枢に近づいたということだろう。

「敵は強いけど、私たちの方が強い!」

「「「おう!」」」

フランが発したのは、仲間を鼓舞する言葉だった。

そんな発言をするのは、突入後初めての事じゃないか?

多分、無意識だろう。フランの戦闘勘が、ここが正念場になると囁いたのかもしれない。今まで以上に、気合を入れる必要があると感じたのだろう。

これまで無言で仲間を引っ張ってきたフランが唐突に発した言葉は、予想以上に彼らの心を打ったらしい。その顔つきが、今までとは違っている。

「ヒルト、あわせて」

「分かったわ!」

ギアを上げたのは、フランとヒルトも同じだ。むしろ、この2人が最もテンションを上げているだろう。

さすがはこの部隊の2トップ。

相手の強さが数段上がったというのに、一歩も退かずに倒し続ける。だが、今までと違って無傷では済まなかった。

フランもヒルトも、僅かながらにダメージを負い始める。黒角騎士だけではなく、その背後の遠距離攻撃型も強くなったからだ。

後衛を守っている冒険者たちから、悲鳴が上がる回数が増えていた。

ある意味、ここからが本番ということだろう。

(師匠! 魔術バンバン使ってく)

『了解!』

ここからはより安全マージンを削り、力の温存は考えずに攻撃を優先していかなくてはならない。

しかし、最初から楽にナディアを救出できるだなんて思っていないのだ。

むしろ、この程度の戦い、想定の範囲内だった。

「たあああああ!」

『どりゃあああ!』

進むために黒角騎士を斬り、砕くこと数百体。

フランたち前衛組が半円形に隊列を組み、群がってくる抗魔を砦のように受け止めて打ち砕いていく。その内側には後衛組が陣取り、左右と背後は護衛と騎士、冒険者たちが守りを固めていた。

そうやって一丸となりつつ、ジリジリと前へと進んでいると、ようやく戦場に変化が訪れる。

黒角騎士たちが姿を消し、赤い角を持った騎士型が前に出てきたのだ。同時に、全身が黒い剣士型や弓士型も襲い掛かってくる。

「くぁ! つ、よい!」

『強くなるにしても、急に格が上がり過ぎだろ!』

赤角騎士は、強いと思っていた黒角騎士が雑魚に思えるほどに強かった。それこそ、相手の速さに反応しきれず、フランが一撃を貰ってしまうほどに。

周囲の黒い抗魔たちも、その動きが相当速い。数体いれば、黒角騎士と互角にやるだろう。

これが、奴らの本隊ということなのかもしれない。

しかも、異変があったのは敵の強さだけではなかった。

数万の抗魔の向こう側。そこで、凄まじい存在感が湧き上がったのだ。抗魔の指揮官個体が、戦闘を開始したらしい。

その相手は、ナディアしかいないだろう。

《個体名・ナディアが完全抗魔化するまで、推定13分26秒》

(師匠、こっからは本気の本気!)

『ああ』

フランが覚悟を決めた表情で俺を構えた。死んでも、ナディアを救う。その顔にそう書いてある。

「はぁぁぁ! 閃華迅雷!」

「迦楼羅ぁぁ!」

フランたちはリスクに躊躇うことなく自らを強化し、抗魔に再度突っ込んだ。

超高機動型の赤角騎士を速度で上回り、目にも留まらぬ速さで撃破していく。それは、フランたちだけではなかった。

「水竜化!」

「覚醒!」

チェルシーが全身を青い鱗に包まれた姿で今まで以上に荒れ狂い、ディギンズが覚醒を使って抗魔たちを薙ぎ払っていく。

さらに、ここでソフィが動いた。彼女には、自分の判断で演奏を解禁していいと伝えてあったのだ。

「魔楽奏・遠き英雄の背中」

ソフィが選んだものは、ただの演奏だけではなかった。

ソフィの口から発せられる美しい歌声は、この場を支配するはずの激しい戦闘音にもかき消されず、戦場に朗々と響き渡る。

声が大きいわけではないのに、きっちり俺たちの耳に入ってくるのだ。まるで、すぐ近くで歌ってくれているかのようだった。

歌声と演奏が折り重なり、美しく荘厳な音楽が生み出される。

「すごい」

『ああ、これほどとは……』

これがソフィの本気か。フランの動きが明らかに速くなっている。進軍時のような、僅かな強化ではない。

全員の動きが一段速くなっていた。それだけではなく力や体力、魔法耐性なども上昇している。

《推定で、全ステータスが200上昇。微弱な魔法障壁も確認できます》

味方1人だけならともかく、100人全員となると想像を超えている。ソフィが1人いるだけで、戦争で勝ててしまうんじゃなかろうか?

ただ、ソフィの魔力がかなり減っているのが分かる。出発前の演奏ではこんなことはなかったはずだ。

さすがの彼女も、これだけの強化を行うには代償が必要であるらしかった。少しだけホッとしてしまったぜ。

彼女の力は、それだけ凄まじいのだ。いったい何者なんだ?

「このまま、おばちゃんを助ける!」

『ああ、そうだな!』