軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

813 Side ナディア

フランがカステルを旅立って4日。

ここに残ると言い出した時は焦ったが、なんとかノクタへと逃がすことができたな。

フランは分かっちゃいないだろうが、師匠は理解してくれただろう。あれは、中は完全に人だった。

最後の呼びかけにも、反応を見せていたのだ。

それに、分かっていなくとも、構わない。手は打った。

「この時期、100人なんて集まるわけないだろうよ」

フランたちは、この大陸の事情をまだ理解していないんだろう。抗魔の季節は、多くの冒険者が慎重に行動するようになる。

そりゃそうだろう。抗魔が増え、その力が増すとなれば、僅かな判断ミスが命取りになるのだ。

廃村への救援なんていう依頼に命を懸けるやつは、そう多くはないはずだった。

「さて……そろそろ来るかい?」

抗魔の群れが、村に近づいてきているのが分かる。進軍速度は遅い。

だが、それこそが、奴らが指揮官個体に率いられている証拠だ。下級抗魔だけなら、食欲に任せて押し寄せるだけだからな。

奴らの気配は、まだ1ヶ所に固まっている。

抗魔どもの基本的な戦闘原理は、戦力の集中だ。指揮官個体や上位種を中心に1つの軍勢を成し、数の利を生かして前へと進み続ける。

これが何らかの理由で妨げられた場合にようやく、包囲殲滅や迂回といった行動をとるようになるのだ。

しばらくはあたし1人でどうにかなるだろう。奴らの前に陣取って、自らを餌として戦い続ければいい。

今度こそ、あたしがカステルを守るんだ。

「墓地だけでも守らないとねぇ……。みんな、行ってくるよ」

オーバーグロウスを引き抜き、草むらをかき分けて抗魔の群れへと向かう。

この魔剣とも、もう20年近い付き合いだ。

あたしがこれを手に入れたのは、夫を亡くしたまさにその日だった。

ようやく駆け出し冒険者を抜け、一端の冒険者としての自信を手に入れ始めた頃である。

その自信は慢心へと変わり、あたしと夫はいつもよりも無茶をしてしまったのだ。

その末に訪れたのが、あの結末である。あたしに絶望と後悔の気持ちを植え付けた、凶悪な抗魔との邂逅。

今のあたしですら、勝てるかどうかわからない相手だった。当然、2人で逃げ切ることなどできず、夫は囮となり――あっさりと死んだ。

時間稼ぎさえもできず、切り裂かれた夫。撒き散らされる肉と内臓を見た時、自分たちの全てが否定された気がした。

あの時あたしが助かったのは、ただの偶然だ。近くで高位の冒険者が戦闘を始めたことで、抗魔の目がそちらへと向かったのである。

その時は、助かったなどとは思えなかった。何故だったのか分からないが、あたしは、あたしを置いて駆け去った抗魔の後を追った。

ここまであたしたちを蹂躙しておいて、逃げるなんて許さない。相打ちになろうとも、せめて一太刀。そんな想いがあったのだろうか?

そうやって体力の限り駆けた先で見たものは、ランクS冒険者によって灰へと変えられた抗魔の姿であった。

虚しさとでも言えばいいのかね? あたしは、全てがどうでもよくなった。この先、どう生きればいいのか、分からなくなってしまったのだ。

最愛の夫も、冒険者を続ける自信も、復讐心をぶつける相手も、全てを失ったあたしは、自ら死を選ぼうかと考えて剣をとり――アレに出会った。

銀の女。オーバーグロウスの使い手を求めてゴルディシア大陸を彷徨う、憐れなゴーレムだ。

その時まで都市伝説だと思っていた銀の女が、まさか本当に存在していたとは……。

無表情な女が携えるその魔剣を見て、あたしは理解した。この剣は、あたしを必要としている。そして、あたしもこの剣を求めている。

その感覚が、剣を使うための資格だったのだろう。

以来、あたしはオーバーグロウスの所有者となり、抗魔を狩り続けている。

フランに説明する時に、オーバーグロウスを使うための条件として抗魔への復讐心を挙げたが、必要なのはそれだけではない。

もう1つが、絶望心だ。体が抗魔に変貌しても気にせずに戦い続けるほどの絶望。それが必要らしい。まあ、銀の女の受け売りだが。

「絶望ね……」

ゴーレムにまで絶望していると太鼓判を押されたあたしが、かすかな希望を抱いて死ねるなんてね。奇跡だろう。

「万が一フランが戻って来ちまった時のためにも、速攻で奴らを片付けないとねぇ」

いや、あたしの出した依頼で足止めされるとはいえ、フランは1人でも絶対に戻ってきてしまうだろう。ならば、あの子が戻る前に、決着を付けてしまえばいい。

生きていた友の子。絶対に死なせるわけにはいかないのだ。

「さあ、抗魔ども、今日のあたしはしぶといよ。簡単に殺せるとは思わないことだっ!」

「シイァァァァ!」

「シュオオォォ!」

突っ込んできた剣士型どもを、一振りで斬り捨てる。まだ下級抗魔どもということもあるだろうが、驚くほどに奴らの動きが見えた。

今日は調子が良いようだ。

「食らえオーバーグロウス。今日は椀飯振舞だ! 腹いっぱいになるまで……あたしがどうにかなっちまうくらい、たらふく抗魔どもを食わせてやるよ!」

抗魔を斬って斬って斬り続けて、日が沈んで昇り、その間も抗魔を斬り続け――。

もう色んなものがドパドパ出過ぎて、自分が疲れているのかどうかも分からなくなってきた。疲れているはずなのに、体のキレはどんどん良くなっていく。

何匹葬り、食らっただろうか? 千? 万?

それでも、抗魔の波が止まらない。

「シュイイィィ!」

「ルイイィィ!」

「はん! 多少手強いのがくるようになったが、この程度じゃあたしに傷一つ付けらんないよ! 指揮官連れてきな!」

嘘だ。

もう、どれだけの血を流したのか分からない。

剣の持つ吸収能力と自身の再生スキルによって傷を塞ぎ、血を補い、体力を回復し、無理やり戦い続けているのだ。

「ふぅん……? 遂にくるか?」

抗魔たちの大群の中心から、恐ろしいほどの力が噴き上がった。間違いない。指揮官個体が、その直援部隊とともに出てこようとしているのだ。

「いよいよかい……」

オーバーグロウスよ、力の出しどころだ! あたしの血肉を全てくれてやる! だから、力を寄越せ!

「金喰! 発動!」

オーバーグロウスとあたしの魔力が繋がり、混ざり合う。より一体感が増し、オーバーグロウスが抗魔から奪う力が、今まで以上にあたしに流れ込んでくる。

「があああああああああああああ!」

パキパキと音を立てて、左腕の侵蝕が進むのが分かった。力の代償だ。

だが、それで構わない。

フラメア……あんたの赤ちゃん、今度こそあたしが守ってみせるよ。

晴れた空が目に入る。

死ぬには良い日かも知れないね。