軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

808 非情な現実

「みっともない姿を見せてしまいましたね」

「ううん。みっともなくない」

「ははは。あのフランちゃんが、気遣いをできるようなレディになったんですねぇ」

ナディアもそうだったが、昔のヤンチャな姿しか覚えていないムルサニには、今のフランは新鮮に思えるらしい。

「手紙には、フランちゃんが生きていたとだけしか書かれていなかったんだが……。あの日、いったい何があったんですか?」

「ん」

フランは、ナディアに語ったよりも大雑把ではあるが、自分の身に何が起きたのかを語る。奴隷にされて、船に乗せられて、ある人物に助けられたという感じだ。

「そうなのか……。頑張ったんですね」

ムルサニは複雑な表情である。多分、奴隷商人への怒りと、奴らがいなければフランが死んでいたかもしれないという事実に、混乱しているんだろう。

「君を助けてくれたっていう人は、どうしているんですか?」

「……ん。今は、その……」

「ああ、すみません。訳ありな人なんですね」

俺の正体をばらすことは躊躇するが、嘘を吐くのも躊躇われる。そんな心境なんだろう。

口籠ってしまったフランを見て、ムルサニも色々と悟ったらしい。優しい顔で頷く。

この大陸で冒険者相手に商売をしているのであれば、訳ありの相手への対処も十分承知しているんだろう。

それ以上は突っ込んでこなかった。優しい人だね。フランへの気遣いが伝わってくる。

「おじちゃんは、ここの偉い人なの?」

「うん? ああ、そうか。フランちゃんは私の行商姿しか見たことがないんですね」

レディルア家はこの大陸で代々続く商会であるそうだ。初代は行商人から始めたということもあり、跡取りは行商人として辺境の村を巡ることが義務付けられている。

ムルサニも修行の一環として、行商を行なっていたらしい。

「うちは食品や日用品を扱っていますので、何か欲しい物があれば用立てますよ?」

「……だったら、ナディアを救うために、力を貸してほしい」

フランがすがるような表情で、ムルサニに対して頭を下げた。

「……やはり彼女はカステルに残っているんですね?」

「ん。冒険者をいっぱい雇って、助けに行く!」

「そうですか……」

ムルサニは目線を落として何やら考えていたが、すぐに申し訳なさそうな顔で首を振った。

「申し訳ない……。私も、力になれそうにありません」

「どうして?」

「護衛依頼ならばともかく、抗魔の大群に挑むとなりますと……。この大陸で長く活動している冒険者ほど、抗魔の季節の恐ろしさは分かっています。その依頼を受けてくれる冒険者は、ほとんどいないでしょう」

「……そう」

サブマスだけではなく、ムルサニにまで同じことを言われてしまったな。つまり、本当に冒険者が集まる可能性が低いってことなんだろう。

「無論、私も冒険者に声をかけてみますが……。期待はしないでください」

「わかった……」

それから3日。

フランは積極的に動いていた。

ギルドに頻繁に顔を出しては冒険者を勧誘しつつ、模擬戦などを受けて自身の力を見せたりしていた。

しかし、成果は芳しくはない。依頼を受けると約束してくれた冒険者は一人もいなかったのだ。

そして、今日。

ギルドに向かったフランに対し、無情な結果が突きつけられていた。

「申し訳ありません」

「ううん……」

フランの提示した依頼を受けた冒険者は、0であった。1人もいなかったのだ。

フランとしては、数人くらいは集まると思っていたらしい。

俺たちの予想よりも、このノクタの冒険者は冷静だったのだ。考えてみれば、ノクタはゴルディシアでも最前線の町だ。駆け出しや雑魚はほとんどいない。

報酬の美味しさにつられて、おかしな依頼を受けるような迂闊な奴はいなかったということだろう。

さすがに、1回肉を奢ったくらいでは、命を懸けろと言えんしな。

「……フラン殿。依頼はどうされますか? このまま、掲示を続けることも可能ですが」

「……むぅ」

フランも悩んでいる。1人でもナディアを助けに行きたいが、さすがに単騎では難しいと分かっているのだ。

1人でもカステルに戻るか。ここでさらに時間をかけて人を集めるか。

フランの葛藤が手に取るようにわかる。

「依頼は……取り下げて」

「いいのですか?」

『フラン! まて! 1人で行くつもりじゃないだろうな!』

(……こうなったら、仕方ない)

『ダメだ!』

ナディアが指定した100人という数だが、それはフランの足止めを目的とした人数である。集まる訳がないと考えているんだろう。

だが、それだけではない。

フランが我慢できずに戻ってきてしまったとしても、冒険者を引き連れていれば生き延びることができるかもしれないと考えていたのだと思う。いわば、保険のようなものである。

『抗魔の強さも分からないのに! 死にに行くようなもんだ! ナディアもそれが分かっているから、100人なんて依頼を出したんだぞ!』

「でも!」

やべ。フランが普通に叫んでしまった。

感情が抑えきれなかったのだろう。俺も、思わず言いすぎてしまった。

サブマスが目を白黒させているのが分かる。だが、フランの感情の昂ぶりはその程度で収まらなかった。

「このまま待ってても! 人が集まらないかもしれない! だったら、1人で今すぐに助けにいったほうがまし!」

結局こうなっちまったか……。正直、フランがこう言い出すことは覚悟はしていたんだ。

『……フラン。あのナディアが、死を覚悟するほどの相手なんだ。いくらフランでも……』

「ごめん。でも、私は、カステルに戻る」

フランの呟きに反応したのは、サブマスだ。自分に向けられた言葉だと思ったのだろう。

「フラン殿……。考え直してはいただけませんか? 抗魔の大群相手に1人では……」

「だったら、1人でなければ宜しいのか?」

サブマスがフランに考え直すように訴える中、突如第三者の声が割り込む。

誰か近づいてきているとは分かっていたが、野次馬だと思っていたぜ。まさか、依頼を受けてくれる冒険者か?

皆の視線が、ギルドの入り口に向く。そこにいたのは、見覚えのある男性たちだ。

「セギルーセル王国第三騎士団団長、ヤーギルエール。義によって、参上した」

それは、ノクタに向かう途中で助けた、騎士たちであった。