軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

784 ノクタへの途上

西の港に戻ってきたフランは、冒険者ギルドの訓練場にいた。熊獣人のディギンズに、模擬戦をしてほしいと頼まれたのだ。

黒猫族の強さを知らしめるチャンスだし、相手はランクBのディギンズ。フランが断るはずがなかった。

「いきやすよぉ!」

「ん」

ギャラリーの見守る中、模擬戦が始まる。

「どりゃぁぁ!」

ディギンズの攻撃は手加減がない。本気で行かなくては、模擬戦にすらならないと分かっているからだ。

当たれば人間の体なんか粉々に砕けるような攻撃を、フェイントまで織り交ぜて放ってくるディギンズ。

「ふんふんふぅん!」

「遅い」

「ぐがっ!」

だが、重くても当たらなければ意味がない。決着は数秒だった。

ディギンズの攻撃を回避しながら近づいたフランが、腹に一発。それでディギンズが壁際まで吹き飛ばされたのである。

ほとんどの野次馬たちは、ディギンズが勝つと思っていたのだろう。悲鳴のような騒めきが発生する。

フランのことを身の程知らずのように見ていた下級冒険者たちの見る目が、180度変わっていた。ディギンズはそれなりに有名なんだろう。

派手に転がったディギンズだったが、すぐに立ち上がると腹を軽く擦っている。ダメージは大してないはずだが、軽く一礼して負けを宣言した。

「あっしの負けでさぁ。さすが黒雷姫さん。手加減していてもこの威力とは」

「そっちも、すぐに立ち上がれるとは思ってなかった」

「へへへ。これでも、頑丈さには自信があるんでね。いい具合に体も温まってきましたし、もう一戦ご指南いただいても?」

「ん。いいよ」

特に示し合わせたわけではないんだが、魔術や覚醒はなしの、武器のみでの模擬戦が続く。ディギンズが頑丈なのは本当のようで、どれだけ叩きのめされてもすぐに起き上がっていた。

頑丈で自己治癒力が高く、スタミナも無尽蔵。抗魔との長期戦などでは大活躍するだろう。

途中からはヒルトやコルベルトまで加わって、乱戦の様相を呈してくる。

最後は、フランとコルベルトの模擬戦で終了したのだが、その際にフランは驚くべき技を見せていた。

「せい」

「げぶっ! こ、これは……浸透勁?」

「ん。何回も食らってたら、なんか使えるようになった」

「くはは……さすが、だな……」

模擬戦の最中に食らいまくっていたら、使うための感覚を掴んでしまったらしい。今までも拳に魔力を纏って殴るような真似はしていたが、より研ぎ澄まされたようだ。

スキルに浸透勁が追加された訳ではないので、拳闘術の延長にあるテクニック扱いなのだろう。

「フラン。うちに入門しない? あなたなら、すぐに高弟になれるわ!」

「いい」

「どうしても?」

「ん」

「はぁぁ。そうよねぇ。残念だわ」

ヒルトがどさくさ紛れにさらっとフランを勧誘してくる。血を吐いて倒れたコルベルトに駆け寄るかと思ったが、今は当主モードであるらしい。

模擬戦が終わった後は、酒盛りだ。地元の冒険者ならではの為になる話も聞けたし、皆でワイワイ騒いでフランも楽しそうだった。

これで、西の港の冒険者でフランの名前を知らない奴はほとんどいなくなっただろう。

翌日。

俺たちは日の出とともに西の港を出発していた。いつものフランなら寝坊するところなんだが、今はカステルへと急ぎたい気持ちが勝っているのだろう。

目指すは、空白地帯にある都市ノクタだ。

『フラン、あまり無理はするなよ?』

「ん。だいじょぶ」

今のフランは、自分の足で荒野を駆けている。いくら魔力を隠蔽していると言っても、魔獣のウルシは抗魔に察知されやすいからだ。

道中、フランの休憩中や夜の移動時には、ウルシの背に乗るが、半分程度はフランが自力で移動する作戦を立てていた。

それでも、抗魔との遭遇率はそれなりに高い。大陸の内陸部の方が抗魔が多いからだ。

下級の剣士型や弓士型を狩りつつ、足を止めずに進み続ける。

そうして半日ほど進んだ俺たちは、大きな規模の抗魔の集団を発見していた。1000匹ほどは集まっているだろう。

それに、大きいのは規模だけではない。中央に陣取る抗魔が、物理的に巨大なのだ。

まだ結構な距離があるのに、その姿がはっきりと見えていた。二階建ての家屋くらいのサイズがありそうだ。

色味は、他の抗魔と同じである。地が黒で、身に纏う装甲は灰色。急所や角、棘などは緑である。特徴的なのはサイズと、ドーム状の部分から伸びる、細長い筒状のパーツだろう。

あれが魔砲型ってやつかな? 巨体でありながら、そこそこの速さで進んでくる。

ドームのようなシルエットの魔砲型の下部には、蜘蛛のような足が付いているのが見えた。4本脚の蜘蛛と言えばいいだろうか。

だが、この軍勢の指揮官個体はあの魔砲型ではない。

(あの大きいやつの横。あれがボス? 凄い邪気)

『ああ、間違いない』

濃密な魔力と邪気を身に纏った、背の高い騎士型が軍勢の中心にいた。他に数体いる騎士型が3メートル程度であるのに対し、指揮官個体は5メートル近いだろう。縦にも横にも大きい。

もしかしたら、特異個体というやつなのかもしれない。

(どうする?)

相手の強さが正確には分からない以上、無理はできない。ゴルディシアじゃ、いざという時に逃げ込める場所もないのだ。

『俺たちだけだったら、無理して仕掛けることもないんだが……』

(あっちに、人がたくさんいる)

『多分、どこかの国の部隊だろうな。このままだと、あと数分で戦闘に入るが……』

この先にいる部隊に、急いで逃げる素振りはない。気付いていないのか、迎え撃つつもりなのか。

『とりあえず、先回りしてこの先にいる部隊に知らせておこう』

(わかった)